〔医療大変革時代〕/5 医療機関のガバナンスとファイナンス

2014.10.06

〔医療大変革時代〕/5 医療機関のガバナンスとファイナンス=青山竜文/菅原尚子
2014.10.07 エコノミスト 

 2014年6月に発表された政府の「日本再興戦略」において、医療機関の運営母体として「非営利ホールディングカンパニー型法人制度(仮称)」を創設することが大きくクローズアップされている。

これは、医療機関のガバナンスに関して新たな方向性を示す動きであるが、そもそも現状のガバナンスはどうなっているのだろうか。

 ◇病院の法人格

 実際に「病院」と呼ばれる組織を運営している法人格は、非常に多岐に及んでいる。

国や市町村が運営している病院もあれば、医療法人や社会福祉法人が運営しているものもある。

また、現在では新規の開設は認められないが、企業が運営している形態もある。
 

これらの組織の大きな特徴は、基本的には「非営利」という点である。厚生労働省の「医療法人制度検討委員会報告書(1994年12月1日)」によれば、「非営利」とは「法人の対外的活動による収益性を前提として、その利益を構成員に分配することを目的としない」こととされている。
 

一方で、現状の制度については、従来からさまざまな課題が指摘されてきた。

例えば、最近では医療機関同士の連携も進みつつあるが、医療法第54条に定める剰余金の配当禁止などの制約があるため、人材交流や共同での資金調達のほか、共同で医療・介護の提供体制を構築するような連携までは行うことができない。
 

その点、ホールディングカンパニーのように複数の法人がグループ化できるようになれば、病床や診療所の設定、医療機器の設置、人事、医療事務、仕入れなどを統合することができ、医療資源の適切な配置や効率的な活用を期待できる。

こうしたことから、複数の医療法人や社会福祉法人などを社員総会などを通じて統括し、一体的な経営を可能とする「非営利ホールディングカンパニー型法人制度(仮称)」が検討されたわけである。
 

ただし、制度設計に当たっては、意思決定方式をどのようにするか、グループ全体での資金調達や余裕資金の活用をどのように行うか、医療介護事業を行う営利法人との連携をどのように可能にするかなど、さまざまな課題を検討する必要がある。
こうした具体的課題について14年中に結論を出し、速やかに制度的措置を講じることとされている。



 ◇「公設民営」の再検証

 このように、医療・介護の世界でも「効率運営」が大きなテーマとなっている。
 ホールディングカンパニー化は、異なる運営母体を統合する流れである。

一方で、地方公共団体が設置する公立病院の「運営」については、15年前から効率化のための対応がなされてきた。
それが、PFI(民間資金を活用した社会資本整備)や「指定管理者制度」のような「公設民営」の取り組みである。
 当時から、低成長が続く状況下で医療費の増加とその抑制は大きな課題となっていた。

実際、02年度には医師の技術料にあたる診療報酬の本体部分が初めてマイナス改定されるなど、病院経営が厳しさを増す中で公立病院も効率化の必要に迫られていた。

そのため、公共施設の効率的な整備や運営の手法として導入が始まっていたPFIや指定管理者制度が、公立病院にも取り入れられるようになったのである。


 PFIは、民間の創意工夫やノウハウを公共施設に生かすことを目的として、施設の設計から建設、資金調達、維持管理・運営(病院経営や診療行為は除く)などをまとめて民間に任せる手法である。これまで16件の病院PFI事例が存在する。
 

また、指定管理者制度は、PFIが病院経営や診療行為の提供そのものには踏み込まず、施設整備や維持管理など医療をサポートする役割にとどまるのに対し、「診療行為の提供も含め、公立病院の管理運営を包括的に医療法人等の民間法人に委託する」制度である。
 
これらの手法は、民間のノウハウをうまく引き出すことができれば狙い通りの効果を期待できる半面、発注者あるいは委託者である地方公共団体の民間との調整・交渉能力やモニタリング能力が求められるため、導入しただけで必ずしも医療提供の効率化が約束されるというものではない。
 
過去の公設民営事例を振り返ると、公民それぞれが担うべき役割に対する認識が互いに共有されていなかったことにより、効果が得られなかった事例もあるようだ。

どのような点に民間のノウハウを期待するのかを発注者である地方公共団体があらかじめよく検討し、それを適切に民間法人に伝えていくとともに、必要に応じて地方公共団体も関与していくことが、より良い事業形成、ひいては公立病院の経営効率化につながると考えられる。

 ◇多様化するファイナンス

 このように、「ガバナンス」の観点から見ると、病院の運営主体にはさまざまな制約があり、同時に資金調達にも制約をもたらしている。

ただ、医療機関向けの金融機関の貸し出しは現在非常に旺盛であり、金融機関による医療・福祉向け設備資金新規貸出額は09年の1兆400億円から、13年には1兆6199億円へと大幅に伸長している(図)。各地の金融機関が医療の動向を見ながら、サポートを行う取り組みが最近一般的となっている。
 とはいえ、資金調達形態の多様化は、まだこれからである。他産業では、不動産の流動化・証券化、事業再生、エクイティファイナンス(新株発行など)が00年代に広がったが、医療機関では限定的であった(前述の非営利性に鑑みれば、医療機関はエクイティファイナンスも行えない)。
 
こうした中、新たな動きとしては、病院向けの「劣後ローン」(返済順位や清算時の配当順位などでシニアローンに劣後する債権)などを対象とした「地域ヘルスケア成長ファンド」が日本政策投資銀行と三菱UFJリースにより組成され、運用が開始されている。

同ファンドでは、老朽化した病院の建て替えや医療機器の更新などによる医療機能の高度化、今後の地域環境に対応した医療体制の構築に向けて取り組んでいる医療機関に対し、当該資金の供給を行うものである。


 また、第4回で取り上げた「ヘルスケアリート」についても、「病院」も含めて別途検討していくことが、国土交通省の「高齢者向け住宅等を対象とするヘルスケアリートの活用に係るガイドライン(案)」でうたわれている。今後も、こうした動きが加速し、医療機関向けの調達の多様化が図られていくことが想定される。
 

資金調達は、事業としての医療を推進する上では欠くべからざるものである。

2025年に向けた対応もさることながら、診療報酬動向、消費税の動向、建築単価の動向などさまざまな要因で収益性や設備投資動向に影響が生じる業態であり、その中で、適切な調達のあり方を選択できるようにしていくことも重要なのではないだろうか。(青山竜文・日本政策投資銀行ヘルスケア室室長/菅原尚子・日本経済研究所医療福祉部部長)