地域包括ケアは「閉じこもらせない力」が鍵

2014.09.25

地域包括ケアは「閉じこもらせない力」が鍵


2014/9/1

増谷彩=日経メディカル 
 

 
  団塊世代が75歳以上となる2025年を見据え、国は地域包括ケアシステムの構築を進めている。日本医師会も3つの方針の1つに地域包括ケアシステムを掲げ、力を入れる(参考記事:再選の横倉会長が語る日本医師会“3つの方針”)。

地域包括ケアシステムは、高齢者が最期まで住み慣れた地域で生活を続けられるよう、地域の実情に合わせた医療・介護・予防・住まい・生活支援サービスを切れ目なく提供するものだ。人口1万人程度の中学校区を1つの単位に想定している。

 地域包括ケアに積極的に取り組む自治体の1つが、埼玉県和光市だ。和光市はこれまで「長寿あんしんプラン」と銘打つ計画を実行してきた。

内容は、高齢者住宅への支援やケース調整などを行うための地域ケア会議の開催など様々だ。

 
埼玉県和光市の介護予防プランについて語る和光市長の松本武洋氏

 その中の1つとして、運動機能向上プログラムや、血圧測定や健康相談が行えるヘルス喫茶サロンなど、複数の「閉じこもり予防事業」を行っている。

それだけでなく、送迎サービス費の助成などを行うことで、「家から引っ張ってこれるようになっている」(和光市長の松本武洋氏)と言う。

 なお、和光市では高齢者にアンケートを配布し、「道が歩きづらい」といった地域の課題(ニーズ)抽出を行っている。

このアンケートには、単なるニーズ調査ではなく、高齢者の状況をざっくり把握する目的もあるという。アンケートを返さなかった高齢者宅はハイリスクであると予想し、後日自宅を訪問して声掛けするという念の入れようだ。その結果、松本氏は「要介護認定者の減少や、介護保険料の低減など、介護予防効果が得られた」と言う。

 ここで筆者が注目するのは、和光市の「閉じこもらせない力」だ。高齢者の閉じこもりが、寝たきりの原因の1つとなることは、20年以上前から指摘されているところだ。

閉じこもり高齢者は、食欲が低下して低栄養に陥り、さらに外出意欲が低下するなど、要支援・要介護のリスクが高まる。

また社会活動が不活発になると、認知症の発症リスクが高まったり、人との交流が減ってうつになりやすくなることなどが指摘されており、心身機能の低下につながる恐れがある。

 昨今、独居高齢者の孤立防止の重要性が唱えられ、地域の中に高齢者サロンなどが続々登場している。

こうした高齢者が集まれる場を提供することは重要だ。ただしここで疑問に思うのは、こうした場の多くは、「サロンで積極的におしゃべりしたい」高齢者向きだということだ。
全ての高齢者が喜んでお茶を飲みに集まるとは思えない。積極的な層に場を提供することも重要だが、問題は人と話をするのが苦手で、毎日予定もなく家で時間を潰すかのように過ごしている層だろう。

多様なメニューでそれぞれの好みに対応
 
先日筆者は、「『入院』と『外来』の間を埋める多機能型精神科診療所」という記事を執筆した。

これは、東京都墨田区のJR錦糸町駅周辺で行われている精神科の地域ケア「錦糸町モデル」の話題だ。錦糸町モデルの地域にあるクボタクリニック院長の窪田彰氏は、「医療者側がリハビリメニューを提案しても、3人に2人は通わなくなってしまう」と語る

。精神疾患患者も、リハビリや外来に通わなくなってしまうと悪化の一途をたどることが多い。




クボタクリニック院長の窪田彰氏

 しかし錦糸町モデルの地域には、医療法人の精神科デイケアやナイトケアをはじめ、社会福祉法人の共同作業所やコミュニティーサロンなど、10以上の選択肢がある。

1つのデイケアの中にも、パソコン教室や料理作り、外の飲食店に出掛けるイベントやカラオケなど、様々なメニューがある。

その上、知的障害や統合失調症などの疾患別、年代別など、対象も緩やかに分けられている。

これは、「同じカラオケでも、若い人と高齢の人では歌いたい歌が違う」(窪田氏)ためだ。

 患者は、「作業は嫌だけど会話はしたい」「人と話すのは苦手だが黙々と作業をするだけなら行ける」と内容で選択することもあれば、「外来の待合室でたまに会っていた○○さんがいるからこの施設に行きたい」「なじみの心理士さんが顔を出すことがあるからここなら通えそう」と人間関係で施設を選択することもある。自分の好みでリハビリメニューを選ぶから、続きやすいということだ。

 窪田氏は、「様々なメニューを提供することで、何かに引っ掛かってくれる。

最初は黙って作業しているだけでも、続けていく中で人と親しくなるチャンスがある。

人と一緒に何かをすることが楽しくなれば、治療やリハビリに通い続けるようになり悪化を防げる」と言う。

「引っ掛かり」を作って家から出す
 
記事の例は高齢者の話ではないが、これは高齢者の要支援・要介護移行の予防にも通じる話ではないだろうか。

高齢者だからとひとくくりにせず、定年前は職場のマネジメントが生きがいだったという人にはボランティアや福祉事業の運営に関わってもらったり、体をしっかり動かしたい人には運動プログラムを用意、一人の食事は寂しいから誰かと話をしたい人にはお弁当を持ち寄れるサロンを勧める──といったように、複数の選択肢の中から個人に合った「引っ掛かり」を見つけてもらうことが先決なのではないだろうか。

 選択肢は多ければ多いほど、個々の高齢者の嗜好とマッチする可能性が高まる。

これらは必ずしも会場やプログラムをきっちりと用意し、イベントとして成立させなければならないわけではない。

ハイキング同好会やカラオケサークル、持ち寄った昼食を一緒に食べるだけの会など、緩やかな仲間作りを手助けし、活動は各団体で自由に考えてもらうだけでもよいだろう。

 まずは選択肢を増やして「引っ掛かり」を作ることにより高齢者を引っ張り出し、それでも閉じこもる人は将来要支援・要介護となるリスクが高い人として行政が注視する。筆者は、そんな仕組みを構築することが、地域包括ケアの出発点となると感じている。
 



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