〔医療大変革時代〕/2 医療需要への供給体制の現状

2014.09.09


〔医療大変革時代〕/2 医療需要への供給体制の現状=石島繁裕/青山竜文
2014.09.16 エコノミスト 


 医療需要は、団塊の世代が全員75歳を超える2025年に向けて、どのように推移していくだろうか。
 
図1は、その簡単な推計を記載したものである(今後の在院日数短期化・在宅シフトなどを加味しておらず、一つの仮定に基づくもの)。

これをみると、医療需要のピークアウト(頂点)自体は必ずしも25年ではないことがわかる。

都道府県によっては、既に20年からピークアウトしている地域もあれば、40年時点でもピークが存在しない都道府県も存在する。
 

国は、入院ベッドが地域ごとにどれだけ必要かを考慮するに当たり、医療の地域圏を定めている。

一般的に、1次医療圏は市町村単位、3次医療圏は都道府県全域を指し、その間に定義される2次医療圏は現在、日本全国で約350地域程度に区分されている。
 

その2次医療圏の約350地域のうち、約5%が「(35年まで)人口及び一般患者数ともに増加」、約55%が「人口は減るが、一般患者数は増加」、約40%が「人口及び一般患者数が減少」という状況に分かれる。

なお、2次医療圏に存在する人口割合は、それぞれ1対8対1である。

 ◇医療の供給体制

 こうした医療需要に対して、医療供給体制はどう推移するだろうか。
 まず、医師数や看護師(准看護師含む)の数は、00年にそれぞれ25・6万人、109・8万人であったものが、10年段階ではそれぞれ29・5万人、138・4万人となり、増加傾向にある。
 

とはいえ、その数には地域格差がある。

たとえば、12年時点で人口10万人当たりの常勤換算医師数は全国平均で159人だが、都道府県別では最も少ない埼玉県の110人から最も多い高知県の227人まで、大きな隔たりがある(図2)。

また、都道府県単位だけではなく同一県内でも、中心都市とそれ以外の都市間の格差が各地で存在している。
 

同時に、今後の「2025年モデル」を支えるうえでの医師数・看護師数は、25年に医師数32万~34万人、看護師数195万~205万人まで増やすことが想定されているが、これを18~59歳推計人口が6796万人(10年)から6010万人(25年)へと減少する時期に実現するという難しさも存在している。
 総じて言えば、全国的に需要が増加傾向にある中で、メリハリをつけつつ手厚い医療を実施できるよう、体制整備をしていく必要がある。

 ◇地域の「急性期医療」

 では、このような医療環境に対応し、医療機関はどのように取り組んでいるか、その事例をいくつか取り上げてみたい。
 1例目は、社会医療法人財団石心会が運営している川崎幸病院(神奈川県川崎市)である。

同病院は川崎南部2次医療圏(川崎区、幸区、中原区)に位置しており、同2次医療圏は「人口及び一般患者数ともに増加」するエリアであるため、増加する人口と急増する高齢者に対応する地域インフラ整備が急務となっている。実際、川崎市の救急車内待機時間は、数年前までは19政令指定都市中で最下位(07~09年)となるなど、救急医療体制の整備が望まれていた。
 

そうした地域事情の中で、同病院は12年に新病院を建設し、病気の初期で比較的重篤な症状の患者に対応する急性期機能の強化を図るとともに、24時間365日「断らない救急」を実践した。

川崎市からも「重症患者救急対応病院」の指定を受け、その際に病床を265床から326床へと増床している。

急性期機能の強化という側面では、各診療部ごとに高度急性期医療を提供する環境を整備し、特に循環器疾患の超急性期対応への評価は極めて高い。
 

また、軽症患者や他院で断られた患者などに対応するため、「救急・総合診療部」を設置し、全診療科の全医師が参加する診療科を設けるなど、地域救急で重要な役割を果たしている。新病院の建設が医療機能の強化の核となったと同時に、医療・看護スタッフの整備を怠らなかったことも大きなポイントである。


 14年2月には、自院の医師・看護師を対象とした最新の保育施設を近隣に建設するなど安定的な人材確保にも取り組んでいる。
医療需要の増加に対応した供給体制の整備は、今後の医療環境の中でも重要な側面である。

 ◇BCP対応という観点

 ここでいう医療の需要は、何も患者数だけの話ではない。
地域における医療機関へのニーズも刻々と変化しており、特に地域社会に対して、セーフティーネットとしての期待は高まっている。


そうした期待に対応して事業整備を行っている事例としては、済生会新潟第二病院(新潟県新潟市)が挙げられる。
 同病院は、新潟県を代表する地域医療支援病院として、自治体や他医療機関との連携を重視した防災・事業継続体制の構築を進めている。

自治体との密な連携という側面から、広域災害救急医療情報システムへの登録や新潟県との災害に関する協定締結などで非常時の医療業務継続の実効性を高めるとともに、地域住民の避難場所確保という役割も果たしている。
 他の機関との連携という側面では、周辺企業と有事協定を締結し、災害に備えた電源の2系統化や燃料の備蓄に加え、事業継続に必要な医療資源や生活物資の確保、製薬会社や医療機器関連事業者の在庫状況・保守体制の継続的な確認など、事業継続のボトルネック解消に日常から努めている。
 
同時に、同病院は全国に展開する済生会グループの北信越ブロックにおける災害基幹病院でもあり、済生会ネットワークを通じた物資、人員及び搬送手段確保のほか、ブロック内で医療用資材の規格を統一して相互融通が可能な体制も構築してきた。
 

日本政策投資銀行では、「日本医療機能評価機構」から「病院機能評価」を取得し、かつ銀行独自の評価システムにより、BCP(事業継続計画)への取り組みが評価できる病院などを「ビジョナリーホスピタル」として認定しているが、済生会新潟第二病院もその一つである。

こうした地域における「公的な器」としての医療機関の必要性は一層高まっていくことは間違いなく、それにどれだけ真摯に対応しうるかが、医療機関の信頼度を左右するであろう。
 どの医療機関も、医師・看護師をはじめ、医療スタッフを十分な形で集めることに苦労している。地域状況を踏まえつつ、各病院が努力を重ねる一方で、その体制を前提にどのような形で地域ニーズに応えるかは、各病院の腕の見せどころであると言える。(石島繁裕・日本政策投資銀行ヘルスケア室調査役/青山竜文・日本政策投資銀行ヘルスケア室室長)