<争論>介護サービスどうなる 

2014.09.03

<争論>介護サービスどうなる 東内京一さん、高野龍昭さん
2014.09.01共同通信



 一段と進む高齢化に備え、地域医療・介護総合確保推進法が成立した。高齢者が病院や介護施設に頼らず、自宅で生活を続けられるよう、医療や介護を一体的に提供するのが狙い。市町村の役割も重くなる。介護サービスはどうなるのか。

 

 [東内京一さん(埼玉県和光市保健福祉部長)]

 ≪予防、在宅移行促進を/わが町の高齢者が抱える課題をエリアごとに洗い出すこと≫

 -地域医療・介護総合確保推進法が成立した。

 「医療は都道府県、介護は市町村と役割分担がばらばらだったが、これで医療と介護を一体的に提供する『地域包括ケア』を推進するため、市町村単位の事業計画で検討することが可能になった。
在宅介護サービスや介護予防の取り組みが進むことになり評価できる」

 -埼玉県和光市の介護予防などの評価が高い。

 「要支援1、2といった軽度の高齢者のほぼ半数は、日常生活の活動量が落ちたことに伴う生活の不活発や軽度の整形疾患などだ。病状を的確に把握し、半年後か1年を1クールにどこまで回復できるか、目標を立てている。
デイサービスセンターなどへの通所介護で身体の機能、訪問介護で生活の機能を向上させる自立型ケアマネジメントで改善させる。そうした取り組みで、最近1年間で要支援者の約40%が介護保険を卒業できた」

 -今後、軽度の要支援者向けの介護予防サービスが、全国一律の公的保険サービスから市町村の地域支援事業に移行する。

 「単純に軽度の人の保険給付がなくなれば、利用者側には混乱が生じる。
通所介護などの事業者側にも介護報酬が減るという収入の問題が生じる。

和光市の場合は、事業者と市が育成したボランティアなどが連携して現行と同じサービス機能を残す。

事業者が受け取る収入は、保険給付から委託料に変わるだけだ。介護保険の保険者である市町村が、対応方針を早めに示せば混乱はない」

 -委託料は払えるか。

 「高齢者1人当たりが利用する介護サービスをどれだけ減らすことができれば委託料が賄えるかという試算が必要だ。
自治体ごとに2025年に向けてどう市町村財政を管理するのかということと、市民の生活の質(QOL)をどう上げるのかという観点で検討することが大切だ」

 -まず何をすべきか。

 「わが町の高齢者が抱える課題をエリアごとに洗い出すことだ。解決するためのサービスの整備と課題との間にギャップが生じないよう、日常生活のニーズを調査する。高齢者の必要とするものを地域ごとに把握することで、初めて解決に向かう。課題なくして政策はないといえる」

 -重視すべきことは。

 「一つは自宅で介護を受ける人の割合をできるだけ増やすことだ。地域の包括ケアシステムを活用して要介護4、5という重度になっても施設並みのサービスを受けられる基盤を地域につくる。
もう一つは介護予防で、元気な高齢者を介護状態にさせないことだ」

 -具体的な方法は。

 「軽度者には介護保険からの卒業を目指す自立支援型のマネジメントとサービスが必要だ。
これが遂行されないと高齢者人口の増加と比例して要介護認定者が増える。高齢者人口に対する要介護認定者の割合は、全国平均の18・2%に対し、和光市は半分程度の9・4%。他市町村でも可能であり目指すべきだ」

 -自治体の役割は。

 「今回の制度改正は、自治体の覚悟というか政策能力が問われる。マクロ的な政策である市全体の介護保険事業計画と、ミクロ的な支援政策を担う地域ケア会議で実際の自立支援や介護予防、人材育成などを手掛ける。ケアマネジメントの質の向上への取り組みは『わが町の課題』を解決するため、高齢者の尊厳のために重要である」

 

 【とうない・きょういち】63年東京都生まれ。88年に和光市役所に入り、介護政策を担当。
厚生労働省出向で介護保険制度改革に関与した経験も。著書に「これからの介護予防・地域ケア」など。

 

 [高野龍昭さん(東洋大准教授)]

 ≪市町村間の格差必至/改革の本丸は医療費。それを低コストの介護に移行することが最優先≫

 -地域医療・介護総合確保推進法が成立した。

 「大きなインパクトがある改革だ。在宅で医療や介護が受けられる地域づくりと、介護などの費用を抑制するという二つの狙いは評価できる。
しかし、費用抑制は限定的でさほどの効果はない。医療の効率化も、病院はもうかる部分に必ずシフトし、病棟の再編・統合も国のもくろみどおりには進まない」

 -軽度の要支援者向けの介護予防サービスが、市町村の地域支援事業に移行することになる。

 「首長が軽度者への支援事業を重要視するかどうかに加え、自治体の財政力や職員の施策立案能力、人口構成の違いで、市町村ごとの格差は必至だ。
多くの地域でうまくいかないことが懸念される。支援事業の予算は国が上限を示し、市町村はその枠の内で予算を決める。サービスの利用を制限することも想定される」

 -なぜ制限するのか。

 「財政力が弱く保険料の引き上げを避けたいと考える市町村も出てくるからだ。上限をかなり下回る予算を組み、介護予防サービスの費用を抑えようとして、利用を制限する市町村もあるだろう」

 -市町村への影響でほかには。

 「介護予防の拠点である地域包括支援センターは、市町村が運営するので財政事情の影響を受けやすく、安価なサービスの利用を促す可能性がある。

さらに、市町村はNPOやボランティアに支払う低い水準で報酬を考えるだろう。例えば訪問サービスを1時間当たり一律千円とすれば、専門職を雇う事業は採算が成り立たず撤退する。

介護予防が重要といいながらケアの質が低下し、高齢者の状態を悪化させる。軽度でも認知症など介護福祉士や看護師が関わるべきケースと、ケアが容易でボランティアや民間で対応できるケースの報酬は分けることが必要だ」

 -過疎地域では。

 「高齢化が進んだ地域では、住民の助け合いすら難しい。民間はもうからないから入ってこない。

75歳以上の後期高齢者数が激減する自治体もあり、公的な介護サービスの整備も行き詰まる。今回の改正は都市部偏重と言ってよい」

 -財政上の効果は。

 「介護費全体で年約9兆円あるが、このうち介護予防サービスの給付は5千億円程度しかない。
このうち通所介護と訪問介護分を合わせても3千億円弱。ここだけを効率化しても焼け石に水だ。この改正は、次回以降のさらなる改正に向けた布石とみる」

 -どうすべきなのか。

 「今回の改革は医療・介護全体の『低コスト構造への転換』の第一歩だ。介護に比べてコストが高い医療費に年40兆円かかっている。これが改革の本丸だ。

それを低コストの介護に移行することが最優先となる。そのため、介護費が増え続けることは不可避だ。
この前提で改革を考えなければならない。今後の介護の財源は、税負担の比率を高めざるを得ないだろう」

 -具体的な策は。

 「高齢者を川下(介護)から、川上(医療)に戻らないようにする対策が大切。病院が患者を焦って退院させると、すぐに悪化して数日中に再入院するだけだ。

在宅介護の体制が不十分なままでの退院を防がないと、川上である高コストの医療に高齢者を押し戻してしまう。良質な在宅介護サービスで再入院を防止する視点も重要になる」

 

 【たかの・たつあき】64年島根県生まれ。龍谷大卒。専門は高齢者介護システム論。島根県でケアマネジャーの実務の後、05年から現職。著書に「これならわかる〈スッキリ図解〉介護保険・2015年速報版」など。

 

 ≪孤立防ぐ受け皿必要≫

 お年寄りの医療や介護の在り方で「時々入院、ほぼ在宅」というスローガンがある。
病院や介護施設に頼らずに、在宅重視の改革を進めれば、なんとか社会保障財源を賄えるという思いが込められている。

 今回の制度改革で従来の医療や介護サービスが反対に受けにくくなるのは必至。

さらに将来、家族介護者のいない独身の要介護高齢者が急増するのは当たり前で、お年寄りの孤立を防ぎ、介護予防につながる受け皿づくりが必要だ。

 (共同通信・横田実)