橋下流の病院統合、暗礁 都構想も絡み議会反対

2014.08.12

橋下流の病院統合、暗礁 都構想も絡み議会反対 【大阪】
2014.08.08 朝日新聞



 大阪都構想をめぐる大阪市の橋下徹市長と市議会の対立が、大阪府市の病院統合計画に影を落としている。橋下氏は二重行政の解消と小児周産期医療の拠点づくりを目指すが、市議会が条件とする民間病院の誘致は難航。地元住民の不安も根強い。


 7月末の昼下がり。大阪市阿倍野区の女性(42)は長男(4)の検査のため、住之江区の市立住吉市民病院を訪れた。

 「出産もこの病院。いい先生が多く、何かあったらここに連れてくる。気軽に診てもらえるこの病院に残ってほしいのですが……」

 老朽化が進む住吉市民病院は耐震性に問題があり、来年度末までに廃止される。出産や小児の診療は、2キロほど離れた府立急性期・総合医療センター(住吉区)に統合され、そこに新設される住吉母子医療センター(仮称)に移る。

 病院の統合は、橋下氏が主導する府市による二重行政の解消が目的だ。橋下氏は「予算を年7億円ほど効率化できる」と主張。さらに医師を集約して設備を整えることで、救急や重症患者への対応を強化できる。

 市消防局によると、昨年1年間の小児救急の搬送人数は市内7695人のうち南部で2490人(32・4%)。だが、南部圏内で受け入れたのは1603人で、2割にとどまる。受け入れ可能な医療機関が少なく、別の地域に搬送されることが多いためだ。市は「市南部における小児周産期の医療体制の充実は重要課題だ」と強調する。

 ところが大阪市議会は5月、新設する病院の建設費を予算案から削除した。3月の出直し市長選を経て、多数を占める維新以外の会派が都構想で反発を強めていることも背景にある。新病院の着工は、すでに大幅にずれ込んでいる。

 今月4日の市議会委員会。橋下氏は「2キロ圏内に公立病院が二つあるなんてばかげている」と訴え、「予算を人質にとっている」と挑発した。これに対し、自民党市議は「統合しても産婦人科と小児科が足りないという根本的な問題がある」と反論。双方が折り合う見通しはない。


 ■「住民と話を」

 地域医療に詳しい城西大の伊関友伸教授(行政学)の話 医療の高度専門化が進む中で、充実した医療を提供するために公立病院を統合して医師を集約することは時代の流れだ。ただ、地元から公立病院がなくなる不安を払うため、跡地にどのような役割を持つ病院を誘致するのかも含めて地域住民と丁寧に話をしなければならない。それこそが自治体病院を経営する首長に求められている。


 ■跡地への民間誘致も難航 医師不足・赤字…再編は全国的課題

 医師不足や赤字経営に苦しむ公立病院の再編は、全国的な課題だ。兵庫県では小野市と三木市の市立病院が市域を越えて統合し、昨年10月に小野市内で新しい拠点病院を開院した。一方、大阪府南部の貝塚、泉佐野、阪南の3市立病院と府立泉州救命救急センターとの統合計画は国の交付金減額で2009年に頓挫するなど、難航するケースもある。

 住吉市民病院の場合、平松邦夫前市長の時代に現地で建て替えることが決まっていた。その方針を橋下氏が覆し、12年5月に病院統合計画を打ち出した。

 これには地元住民は強く反発。統合中止を求める4万人の署名が集まった。橋下氏は「住民の不安を解消したい」として昨年2月、市民病院の跡地に小児科や産科を備えた民間病院を誘致することを決定。堺市の医療法人1社が公募に応じたが、今年7月下旬に「開院時までに必要な小児科医を確保できない」として辞退した。

 市は今秋にも再公募に踏み切る。橋下氏は「統合後の新病院でハイリスク対応をするので、跡地にどんな病院を持ってくるかは現実的に考え、再公募の条件を設定してもらいたい」として、小児科医の数の確保にはこだわらない考えだ。

 ただ、市議会側は「跡地で十分な小児医療を確保できる担保がなければ、統合は認めない」(民主系)と譲らない。橋下氏は予定通り市民病院を廃止する意向だが、その機能を移す新病院の開院が遅れ、空白が生じる可能性も出ている。(井上裕一)


 ◆キーワード

 <大阪府市の病院統合計画> 小児科や産婦人科を中心とする大阪市立住吉市民病院=1950年開院、101床=を廃止し、地域の中核病院である大阪府立急性期・総合医療センター=55年開院、768床=の小児周産期医療分野と統合。府市共同住吉母子医療センター(仮称)=125床=として2016年春の開院を目指す。年間1200件ほどの分娩(ぶんべん)に対応。緊急搬送のほか、最重症や合併症の妊産婦も常時受け入れる。



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