赤穂の風雲児 古城資久の急性期病院血風録

2014.08.07

 赤穂の風雲児 古城資久の急性期病院血風録
 

白鬚橋病院、再建への約束~泥船に残った職員から教わったこと~

2014/8/7 日経メディカル
 
このコラムの連載が始まる前に編集担当者からいくつかの要望が提示されているが、その中の1つとして、ぜひ白鬚橋病院ネタを頼むと言われていた。
われわれ伯鳳会グループは今回を含めて過去5回のM&Aを行っており、大阪暁明館のように今回の2倍以上の規模の案件も手掛けたのだが、編集部は白鬚橋病院を指定してきた。
やはり情報発信は東京からであり、ネタとしては急性期病院が面白いのであろう。

 経営再建にあたって「白鬚橋病院」の本質がなにか、真の強みがどこにあるのかを私自身が勉強させられることになったが今回はそのあたりを書いてみたい。

経営再建は実は容易だった
 
落札価格35億円余りに対し、担保価値は13億円に過ぎず、差額の22億円余りは営業権(のれん代)で処理される。
営業権は5年間で減価償却が可能なため年間4億5000万円の損金が出せる。
利益を圧縮する分、法人税も減るので、年間2億円の節税効果があったのである。
従って買収価格は5年間の節税額10億円を勘案すれば25億円と考えることもできる。

 つまり当初の35億円さえ用意できればそのうち10億円は税務署が借金を返してくれるようなもの。
担保価値の低いことは、当初の買収資金を銀行から融資してもらうには大変なのだが、実際のオペレーションが始まれば旨みもあるのだ。
 
 実は国際会計基準では「のれん代」は償却できないルールになっているとか。今回ほど日本独自の会計基準に感謝したことはない。なにしろ税金滞納、社会保険料滞納で上乗せになった「のれん代」を、滞納された当の税務署が支払ってくれるのだから。
 
 次にM&A前のデューデリジェンスで判明したのだが、白鬚橋病院倒産の原因はMS(メディカル・サービス)法人を利用した機械設備、電子カルテなどのリースの高止まりにあった。倒産後リース会社と適正価格でリース契約を再締結すれば経費は大幅に圧縮され、それだけで赤字の大半が解消されることが確実であった。
 
 さらに言葉は悪いが白鬚橋病院は適度に傷んでいて、人材流出のために人件費が低下し、収入の低下にもかかわらず案外良い感じに縮小均衡していた。
患者様の減少が職員の減少よりも大幅で、残った職員がお茶を引いているようではマズイのだが、白鬚橋は患者様の減少以上に職員の減少が著しく、船から逃げ遅れた職員は体力の限界まで働いていた。

 明石の倒産病院(十愛会国仲病院)を落札した時も同じ経験があり、このような物件、つまり1人当たりの粗利が高い病院は再建時の職員補充による経費増が患者様増加による収入増を上回ることがないので経営回復の過程での赤字増大の心配がない。

全職員に6万6000円の臨時賞与を支給
 さて白鬚橋病院の事業譲渡を受ける法人は伯鳳会となったが、伯鳳会は兵庫県認可の医療法人であった。従って、東京都の医療機関を手掛けるためには法人を厚生労働省認可の広域医療法人に変更しなければならない。

このため2月末の落札後、伯鳳会へ経営権が移譲されるまでに4カ月を要し7月からの経営となった。
われわれは1月中から経営改善を目指して白鬚橋病院の経営をコントロールしていたため半年後の経営移譲時には「のれん代」の償却を除くと既に単月黒字であり、その後2年間一度も単月赤字決算を記録していない。

 経営譲渡後の白鬚橋は、のれん代を除くと初年度(2012年7月~2013年3月の9カ月)は総収入21億1400万円、経常利益4800万円、次年度(2013年4月~2014年3月)は総収入35億1000万円、経常利益4億1000万円の優良病院に変身した。

2013年度の経常利益は10%を超えているため、伯鳳会グループの規定通り、今年度初頭には臨時賞与が支給され、職員全員が6万6000円を手にしている。

 2014年度も既に3カ月が経過したが、今年度の総収入は白鬚橋病院設立以来最高の40億円を大きく上回る見込みである。
経常利益に至っては、もしや10億円を超えはしないかと逆な意味で心配するほどだ。

 この経営成績を元に、2013年度は5000円、2014年度は1万円のベースアップを行った。
今年のベースアップ額1万円はトヨタ自動車の4倍、話題となった餃子の王将と同額である。
2年間の合計で1万5000円となると聞いたことがない。診療報酬実質マイナス改定の逆風の中、ここまでペイバック可能な経営改善を成し遂げた職員一同に深く感謝する




 「救急の白鬚橋」を支えるスタッフの強い自負
 再建を手掛けた当初、看護師の相次ぐ退職により白鬚橋病院の稼働病床は88床、2病棟にすぎなかった。

常勤医は5人まで減少しており、平均年齢も60歳。この陣容で当時も月間500台の救急車搬入があり職員は全員疲弊していた。東京は看護師不足地域としては全国最悪であり、倒産病院が看護師を集めることは容易ではないと考え、実際のオペレーションはリハビリ療法士が行う回復期リハビリテーション病棟を1病棟増設し、120床台にベッド数を回復させることにした。
前もって周辺地域をリサーチしたが、急性期病床は既に充足しており、療養型と回復期ならまだ需要があると判断できた。

 ところがである。現場スタッフの抵抗が極めて強い。東京のスタッフには自己最適より組織最適を重要視する風土があり、経営に関しても極めて協力的であったがコレだけは頑として私の言うことを聞かない。
「白鬚橋病院は救急病院です」と言い張る。
私は「2病棟で月間500人の救急患者を受け入れているのだからそれで十分立派、残りの病床は地域の需要にあったもうかる病床をやろうよ」と説得したのだが、「看護師は集めてみせます」、「もっと救急車を増やしてみせます」と。

 新しく招聘した院長も看護部長もまるで同じ意見。かれらは口には出さねど「救急病院・災害拠点病院の白鬚橋」だから赴任したのだと顔に書いてある。
 
 あきれ果てていると事態は動き出した。
白鬚橋に留まった看護師たちが、離れていった看護師に「経営はもう大丈夫よ」とアナウンス、勧誘を始めたところ、辞めていった看護師が徐々に白鬚橋に戻ってきたのだ。「やっぱり救急がやりたい」と。
経営不安が薄まるとスタッフはACLS、JPTEC、DMAT講習会などに盛んに出かけるだけではなく、研修会の講師となって近隣病院の指導まで始める始末。

 そうこうしているうちに2013年10月、伊豆大島の集中豪雨被害が起こった。東京都から白鬚橋病院へ、民間病院としてはただ1病院、伊豆大島への派遣要請が来た。この時は住民救出船の出港があるのかないのか、船はどこからいつ出るのか、業務は何なのかと混乱を極めていたのだが、白鬚橋のDMATチームは住民救出オペレーションを嬉々としてやり遂げた。
 
 つい先ごろまで「給料遅配だ、倒産だ、もうおしまいだ」と大変な事態だったのに「コノ人達ハ何ヲシテイルノダロウ」と私は思ったが、こうも思った。「モウ何ヲ言ッテモ無駄ダ」
 
 2014年2月には新装なった大阪暁明館病院で伯鳳会グループと大阪市消防局合同の災害訓練を行ったが、シナリオの作成、物品の手配など白鬚橋のスタッフは(大阪のスタッフが辟易するくらい)大張り切り。訓練日前の1週間は東京DMAT隊員である看護師長を大阪へ1週間泊まり込みで派遣、ガッツリやった。
 
 気が付くと白鬚橋の看護師、医師は徐々に増員され、昨年の救急車搬入台数は病院開設以来最多の7600台を記録、4病棟すべてを急性期病棟としてオープンし、平均在院日数は15日で回っていた。
この病院を維持するためには月間250人の新規入院患者が必要だが、月600人の救急搬入患者から200人以上の患者様が入院するため外来や紹介からの入院は月50人で事足りる。白鬚橋病院は業務体制だけではなく経営的にも完全に救急病院だったのである。

新築移転で「2.5次救急」病院へ
 現病院は築30年。本来はまだ使えるはずなのだが、経営悪化後は長くメンテナンスをしておらず設備の老朽化が著しい。
東日本大震災後あちこちにクラックが入っており年中雨漏り、水漏れがしている。
なにより許可病床199床に対し延床面積が4000m2を下回っており狭隘化が著しい。
職員は「水もれの上狭い、オンボロ潜水艦のような病院」と笑っているが、この病院を災害拠点病院として今後も使い続けることは不可能である。
このたび東武鉄道様のご厚意もあり、現病院から1.5km南東の東武スカイツリー線曳舟駅前に新築移転することが決まった。
着工は2014年12月、移転開業は2017年春を予定している。移転後は病床を1床増床、200床となり延べ床面積は現在の2.5倍、1万m2となる。



 
移転後の白鬚橋病院のイメージ。現病院から1.5km南東の東武スカイツリー線曳舟駅前に新築移転する。



 新病院移転後は現在の7000台の救急車受け入れを1万台に伸ばし、現状の2次救急医療体制から一部診療科では3次救急対応もできる2.5次救急病院を目指している。白鬚橋は「どんな患者でも受け入れる」ことを最大の強みとしてきたが、それに加えて今後は患者様が「白鬚橋に運んでほしい」、救急隊が「白鬚橋に運びたい」救急病院を目標とする。

白鬚橋病院の「本質」
 先日、ある勉強会の講師を頼まれ白鬚橋病院の事例紹介をしたのだが質問が出た。「なぜ白鬚橋はどんな患者も断らず受け入れることができるのか?」

 私はその質問に答えようとして、ようやくすべてを理解した。「それは白鬚橋が救急の専門病院だからです。循環器の専門病院なら、甲状腺の専門病院なら、自分の分野でどれほど困難な患者が来てもプライドにかけて受けるでしょう。だから白鬚橋は救急患者ならプライドにかけて受けるのです」。