医療再生]北海道の道標(7)在宅診療 地域で分担(連載)=北海道

2014.07.19

医療再生]北海道の道標(7)在宅診療 地域で分担(連載)=北海道
2014.07.16 読売新聞




 「体調はどうだい」。
福井県坂井市の大嶋一英医師(67)が、ベッドに横たわる伊藤一郎さん(84)に声を掛けた。
自宅で寝たきりの伊藤さんが手を握り返して応えると、大嶋医師は「元気だね」と大きな声で話しかけた。
血圧と脈拍を測り、家族には「声掛けとリハビリをして、誤嚥(ごえん)性肺炎に気をつけて」と助言した。

 主治医の大嶋医師は月1回、車で3分の診療所から伊藤さん宅に往診する。
大嶋医師が往診できない時の副主治医もおり、緊急時の入院先も保証済みだ。
妻シノエさん(78)は「病院は主人が嫌がるし、自宅療養はありがたい。先生もいるし安心だよ」と感謝する。

 大嶋医師は、坂井市と隣のあわら市にまたがる坂井地区医師会の会長を務める。
同会は2008年から、全国に先駆けて「主治医・副主治医制度」を始めた。
在宅患者に主治医とカバー役の副主治医を割り振り、自宅療養しやすい態勢を取っている。
現在、同地区の医療機関の52%に当たる32施設の医師が、在宅患者約500人の往診を必要に応じて負担し合っている。

 大嶋医師は「住み慣れた自宅での療養が一番。そのためにも負担を地域で分け合う仕組みが必要だ」と語る。13年からは同地区の7病院が在宅患者の緊急入院を引き受ける「後方支援病院」制度も始まり、主治医・副主治医と合わせた3段階の受け皿を確保している。

 情報通信技術(ICT)を活用した新たな取り組みも始まった。
東大高齢社会総合研究機構は13年から在宅医と介護分野のスタッフが情報を共有するシステムを導入。
医師やケアマネジャーがサイトにログインすると、担当患者ごとに基本カルテや情報交換をする掲示板を閲覧できる仕組みで、在宅医療の効率化が期待される。

 システムの提供を受けて活用するあわら市の坂井健志医師(61)は「多忙な医師にとって、日常的に住民と接する介護スタッフの情報は有益だ」と語る。

 こうした取り組みに支えられ、12年度、坂井地区で死亡した在宅患者51人のうち約6割は、自宅で息を引き取った。

 厚生労働省によると、在宅医療に関する全国調査では「自宅で療養したい」との回答が6割に上った。
一方、死亡場所の割合は病院が8割弱を占める状態が続いており、在宅医療の要望と実際の医療との間にギャップがあるのが現状だ。

 特に北海道の在宅死亡率(12年)は8・8%と全国で3番目に低く、全国平均12・8%を大きく下回る。道地域医療課は「このまま病床が終末期患者で埋まると、救急対応に影響が出る恐れもある」と危惧する。

 在宅サービスを行う医療施設の割合は、坂井地区の52%に対し、道内は36%にとどまる上、札幌に集中している。
同課は「道内では医師会との連携も進んでおらず、地域で負担を分け合う仕組みが浸透していない」としている。

 福井県などで在宅医療の推進に取り組む東大の飯島勝矢准教授は「在宅医療の前提には医師会と自治体の連携がある。土地の広い北海道でこそ、通信技術を活用した情報共有が有効ではないか」と指摘する。

 ただ、こうした成功事例が、地域事情が違う道内でも万能薬として通じるわけではない。飯島准教授は「先進地のモデルを輸入しつつ、道民版に改良していくことが重要になるだろう」と話した。


 〈処方箋〉

 ◆患者側の理解も必要

 ◇北海道家庭医療学センターで総合診療医の育成に取り組む 草場鉄周理事長(40)

 高齢化社会を迎える中で、入院中心の治療には限界があり、今後、在宅医療が重要になってくる。
ただ、道民は通院治療より入院治療を好む傾向があるため、患者側に在宅医療の意義を理解してもらうことも必要だ。

 在宅医療は個人の力だけでは対応しきれない。ネットワークを作って負担を分け合う福井県の事例は、北海道も目指すべきモデルだ。
医師不足に悩む道内では、地方の開業医と協力しつつ、在宅医療の柱となる若手医師を育成することが重要になってくるだろう。