[医療再生]北海道の道標(2)地域でケア 退院早まる(連載)=北海道

2014.07.13

[医療再生]北海道の道標(2)地域でケア 退院早まる(連載)=北海道
2014.07.11読売新聞



 ◎第2部

 滋賀県東近江市の奥村儀一さん(80)は7年前の冬、自宅で突然吐き気に襲われ、ろれつが回らなくなった。脳卒中だった。
言語障害と右脚のマヒが残るが、全く歩けず話せなかった状態から回復した。奥村さんは「必死でリハビリ頑張ったからな」と元気に笑う。

 奥村さんの回復を助けたのは、東近江など2市2町の医療関係者らで組織する「三方(さんぽう)よし研究会」が、2007年に発行した脳卒中患者向けの「地域連携クリティカルパス」だった。

 パスは、患者の主治医らが策定したリハビリなどの治療計画表だ。医師やリハビリ担当者らが共用して症状などを記入し、継続的な治療に生かす。米国で誕生し、1990年代半ばから日本でも広まった。

 東近江地域ではA3判かA4判の6枚のシートに処方薬や既往症、家族構成、必要な介護の度合いなど100を超える項目を記入する。

 一般的にパスは救急搬送された急性期病院の主治医や、回復期病院のリハビリ担当者らで共有するケースが多い。
だが、東近江では退院後に世話になる近所のかかりつけ医やケアマネジャー、介護士までが強く連携して活用している点が特長だ。
地域全体で患者を見守る「包括ケア」の成功例として注目されている。

 奥村さんは2か所の病院に計4か月入院し、自宅に戻った。パスによって治療の経緯や症状がかかりつけ医やケアマネジャーにも伝わっていたため、自宅療養にスムーズに移れたという。
妻の操さん(77)は「協力して夫をいい方へ導いてくれると感じて安心だった」と話す。

 東近江の急性期病院4か所ではパス導入後、脳卒中患者の入院期間が短縮された。平均入院日数は08年に49・9日だったが、11年は3割減の34・8日。ベッドにゆとりができ、救急患者を受け入れやすくなった。

 一方、北海道の平均入院日数は12年、全国で11番目に多い35・9日。道と3医育大は10年度、道内にパスを浸透させるための団体を設立した。
12年度から脳卒中患者向けに運用し、道内55医療機関が参加し、患者1120人が登録する。

 ただ、かかりつけ医となる市町村の診療所や介護施設の参加はゼロだ。こうした施設も含め、82機関が参加する東近江とは地域連携の度合いが違う。
パスの知名度の低さや、地方の人材不足が原因とみられる。

 どうすれば東近江のように成果を上げられるのか。三方よし研究会会長の小串輝男医師(69)は、地域連携を強める秘訣(ひけつ)として、「医療者らが顔の見える関係を築くこと」と指摘する。

 会では発足以来、月1回、医療や介護の従事者らが集まり、診療や介護で迷った事例や地域医療の課題について話し合ってきた。
勉強会は約80回を数え、参加者は当初の約40人から約20職種の約120人に増えた。

 小串医師は「パスは、地域の様々な職種をつなぐツール。関係者同士が密にコミュニケーションを取れる関係を築くことで、地域全体が一つの病院のように、患者を見守る街がつくれるはずだ」と話している。


 〈処方箋〉

 ◆実情に合わせた施策を

 ◇北海道大学医学部で脳神経外科分野を教える鐙谷(あぶみや)武雄・特任助教(54)

 地方の中核的な病院が、関連病院や施設と協力して情報共有すれば、北海道でも東近江のように機能分担を進められる余地はある。

 介護やリハビリを急性期病院以外で担えれば、病院は治療に専念でき、医師にも余裕が生まれるはずだ。

 連携は基本的に望ましいことだが、地域事情も考慮しなくてはならない。北海道の場合、核家族や独居が多く、家に戻ると生活が立ち行かなくなる患者も多い。
在宅は理想だが、そういった患者にとっては病院や介護施設が受け皿とならざるをえない。一律でなく、地域の実情に合わせた施策が必要だ。


 〈急性期病院〉

 症状が重い緊急患者を受け入れ、検査や手術などの専門的な治療を行う病院。患者の経過によってリハビリを行う回復期、長期療養の慢性期などの病院に移る。