医師不足対策にならず 国の東北医学部新設方針 岩手医大小川理事長 地域の医療崩壊懸念

2014.05.22

医師不足対策にならず 国の東北医学部新設方針 岩手医大小川理事長 地域の医療崩壊懸念(岩手日報)
 


 文部科学省が東北地方の大学1校に医学部新設を認める方針を示し、早ければ2016年春の開学が可能となった。

医師不足の解消や被災地のニーズに対応できる医師の育成などが狙いとされるが、教員となる医師確保や医学生の卒業後の地元定着など課題は多い。

岩手医大の小川彰理事長は岩手日報社のインタビューに対し「医師不足対策にならないことは明らかで、地域の医療崩壊をもたらす」とあらためて医学部新設に反対の姿勢を示した。

 小川理事長は文科省が11月下旬に示した方針に対し「医学部が新設されれば教員確保のための医師引き抜きが起こり、連鎖的に有能な医師の県外流出が進む」と指摘。「医師の地域偏在の解消や地方への医師定着促進の取り組みを優先すべき」と強調した。

 医学部新設に向けては既に宮城県内の複数の大学で動きが見られる。
文科省は5月まで新設構想を受け付け、有識者の意見を踏まえて6月に1校に絞り込む。

 同省は医師数の過剰増加を防ぐため、1979年の琉球大以降、医学部の新設を認めていなかったが、今回は東北地方の復興支援として特例的に新設を可能とした。

 

《地域偏在解消優先を インタビュー要旨》

小川彰岩手医大理事長との主なやりとりは次の通り。

(聞き手は報道部・小野寺隼矢)

 ―文科省の方針をどう受け止めるか。

 「医学部新設は医師不足対策にならないどころか地域の医療を壊滅させる。
少ない医師を効率よく配置するなどの対策を取ってきた大学や自治体の努力を踏みにじるものだ」

 ―医学部が新設された場合、想定されることは。

 「教員確保のために現場の医師引き抜きが起こる可能性が高い。
規模の小さい医学部でも約250人の経験豊かな医師が必要だ。
本県は地域の基幹病院ですら各診療科1~3人で現場を回している。
医師を1人でも引き抜かれると経営が成り立たなくなる」

 ―文科省は医学部新設の際は周辺地域から医師らを引き抜かない配慮を求めているが。

 「実現性に乏しい。
現場の医師不足は東北地方に限った話ではない。
直接の引き抜きはなくても、医師が引き抜かれた地域に本県の医師が出て行く可能性があり、結果として有能な医師が流出することは避けられない」

 ―医師はどれだけ不足しているのか。

 「実は日本の医師数は2025年には経済協力開発機構(OECD)の平均に達するという試算がある。
国の医師確保対策などに基づき、近年全国の医学部は定員を増やしている。
ここ6年間で全国では約1400人、岩手、宮城、福島の被災3県では約130人分が増えた」

 「人口減少が進むことを踏まえると、医師数を増やす必要はない。むしろ医師過剰による医療の質の低下を防ぐため、19年度には医学部の定員削減を進めなければならない。
医師の地域偏在の解消や地方への定着促進が優先事項だ」

 ―医師の地域偏在の解消、地方への定着をどう図るか。

 「本県では沿岸被災地や県北地域などが特に医師不足に悩んでいる。
岩手医大としてはこれらの地域で働く医師をサポートするため、数年間大学で専門の勉強ができるような循環システムをつくっている段階だ」

 「また、既存の大学や自治体は、規定の年数を地域の病院で働くことを条件にした奨学金『地域枠』をここ数年で大幅に増やしている。除々に効果が出てくるだろう」

 ―国に対し求めることは。

 「医師の地域偏在の解消については、地方にできることは限られる。
地域に必要な医師を確保できるようなスキームを示してもらいたい。
多額な投資を行う医学部の新設よりも優先すべきことだ」

〔「医学部新設は地域の医療崩壊をもたらす。医師の地域偏在の解消を優先すべき」と語る小川彰理事長=盛岡市・岩手医大〕