(私の視点)混合診療の解禁 国民福祉を損ねる危うさ 辻泰弘

2014.05.19

(私の視点)混合診療の解禁 国民福祉を損ねる危うさ 辻泰弘
2014年5月18日朝日新聞

政府の規制改革会議が成長戦略の中で、混合診療の全面解禁につながる改革を行おうとしている。

この選択は、日本の医療と医療保険に致命的な影響を及ぼしかねない。
規制緩和という経済の論理に偏った議論の中で決められていくことには強い懸念を抱かざるを得ない。

 混合診療は、保険で認められている治療法と保険で認められていない治療法との併用であり、先進医療や治験診療などで認められるもの以外は禁止されている。

混合診療が認められれば、日本で安全性、有効性が確認されていない医療や科学的な根拠が立証されていない医療が一般に施され、患者の利益に反するおそれがあるからである。
患者のためになるとは限らない医療のために患者が不当な負担をこうむってはならない。

 混合診療の解禁は、歴代の政府においても検討されてきた。
小泉構造改革では、首相が施政方針演説で解禁するとまで言及したが、国会などでの議論を経て、将来の保険適用を前提に安全性や有効性が確認された先進医療などについて混合診療を認める保険外併用療養費制度に再編成する形にとどまった。

 民主党政権でも行政刷新会議を中心に原則解禁が議論されたが、最終的には根幹を揺るがすには至らなかった。

私が2011年に発足した野田佳彦内閣で厚生労働副大臣を務めた時には、TPP(環太平洋経済連携協定)に加入すると混合診療の解禁が求められるとの懸念が強く指摘されたが、政府は今日まで原則禁止を守ってきた。

 現在、規制改革会議では患者と医師との合意があれば混合診療を幅広く認めることが検討されている。

だが、医療についての専門知識を持たず、切羽詰まった状態に置かれた患者が、安全性や有効性が確認されていない医療を受けることの是非を適切に判断できるだろうか。

高額な保険外負担を強いられることにもなり、国民福祉の増進に資するものとは到底言えない。本来保険で患者にあまねく提供できるようにすべき医療を保険外のままにとどめてしまう結果にもなりかねない。

 生命や医療、労働、安全、環境、衛生などにかかわる、いわゆる社会的規制は、人間が人間として生きていく上で不可欠な規制である。混合診療を全面解禁すると産業界にとっては世界が広がることになるだろうが、無原則な規制緩和は国民福祉を損ねる危険性をはらんでいる。

 成長戦略は、国民の幸せを実現するためのものでなければならない。

 (つじやすひろ 前参議院議員)