医師・看護師 大激変!! 診療報酬改定が迫る医師・看護師の民族大移動 

2014.05.12

特集 医師・看護師 大激変!! 診療報酬改定が迫る医師・看護師の民族大移動 
2014.05.17 週刊ダイヤモンド  


医師編 カネと権力に異変あり


臨床研修制度の改正から10年。
権力を求める教授は選挙に明け暮れ、自由を求める若手医師は大学病院に背を向ける。
権力とカネをほしいままにしてきた「白い巨塔」がいま、きしみ始めている。


札束が乱れ飛ぶ学長選に肉薄 教授の懐に入るカネを大暴露


最先端の治療を手掛け、患者にとって最後の希望ともいえる大学教授。
だが、その内情は権力闘争に明け暮れる日々。権力を握る者が、札束をも握る。現代の「白い巨塔」に迫った。


 珍しいお客が来るもんだ──。
ある国立大学の付属病院。
朝の診察を終えて医局に戻ってきた若手医師は、上司である教授の部屋に居る人物に目を奪われた。

 医局とは医師の控室のことだが、教授を頂点とした同一診療科の医師たちの組織をも意味する。
この若手医師が所属する医局は、患者数が多いメジャーな内科や外科に属さない“マイナー科”で、院内での力は弱い。
他科の医局員からは「おたくの教授、ぱっとしないよね」とばかにされることもある。

 そんな上司への来訪者は、とある大物教授だった。
講演で全国を飛び回り、病院で姿を見掛けることはほとんどない。
看板教授の一人だが、態度が高圧的なことでも有名だ。そんな大物が上司へ深々と頭を下げ、教授室を出ていった。

 その後ろ姿を凝視していると、「学長選があるからさ」と先輩医師がささやいた。
数カ月後、大物教授が支持する候補者が学長に当選した。
そして、不思議なことが起きた。
若手医師が所属する医局でスタッフの枠が一つ増えたのだ。

 病院の予算は限られており、1人当たり数千万円は掛かるポストが増えることはめったにない。

 「学長選のご褒美だろう。ぱっとしないけれど、勝ち馬に乗るのはうまいんだよ、うちの教授は」

 新任スタッフの歓迎パーティで、乾杯の音頭を取る教授を見詰めながら、先輩医師が悪態をついた。


1票の値段は教授100万円 准教授80万円


 小説『白い巨塔』でも描かれた通り、医学部で権力の源泉となるのは、人事とカネだ。
「白い巨塔の構図は多かれ少なかれ、どこの医学部にもいまだに存在する」と国立大学の現役教授は言う。

 頂点を決める学長選や教授選挙は、権力第一の医師にとっては、患者の診察よりもはるかに重大なイベントだ。
選挙前になると、候補者となったライバルの足を引っ張ろうと、論文不正やパワハラをめぐる怪文書が飛び交うことも珍しくない。

 もう一つ飛び交うのが札束だ。
現金買収などを取り締まる公職選挙法の対象外である学長選は“治外法権”状態。
前出の学長選について「億単位のカネが動いた」とある教授は打ち明ける。
他の有力候補を“実弾”攻勢で抑え込んだというのだ。

 実弾とはもちろん現金のこと。投票権を持つのは講師以上の教員のほか、看護職員幹部などの病院スタッフたち。
総勢で100人を優に超す“有権者”たちの1票を買うため、現金がばらまかれた。
その額は教授で100万円、准教授80万円、講師50万円、看護職員幹部で10万~30万円に上るという。

 これほどの選挙資金をどうやって賄ったのか。
前出の教授は「太い資金源として思い当たるのはゼネコンだ」と打ち明ける。

 医学部のある大学トップの威光は「ジッツ」という隠語で呼ばれる関連病院にまで及ぶ。
ジッツはドイツ語で椅子の意味で、関連病院には大学病院から派遣される教授や医師の“指定席”が存在する。ジッツの病院長も、大学病院の出身者であることがほとんどだ。

 ゼネコンにとって、増築、改築などで十億円単位、建て替えで百億円単位に上る病院の建設工事は喉から手が出るほど欲しい仕事。
数十もの関連病院を支配下に置き、絶大な影響力を持つ大学トップを味方に付けることができれば、心強いことこの上ない。

 前述の学長選では、大手ゼネコンが「段ボール箱で内科系の教授の元へ現金を運んだ」といううわさ話が飛び交った。
このゼネコンは、近年になって突如、工事の受注を獲得し始めたという“いわく付き”の存在だ。

 それまで、この大学の建設工事は関連病院も含め、ゼネコン大手5社のうち特定の2社が持ち回りで受注することが半ば慣例化していた。
ところが“新参”のゼネコンが大学上層部に食い込んで以降、新たな慣例が出来上がった。
最近も20億円近い関連病院の新病棟建設工事について、新参ゼネコンが立て続けに受注を決めている。


権力にすり寄る関連病院、製薬会社 医局員もカネづる


 学長や病院長だけでなく、医局の支配者である教授の座もまた、激しい奪い合いが繰り広げられる。
大学教授の給料は年収で1200万円前後と、開業医や市中病院の医師よりも低い。
それでも教授を目指すのは、医局の医師の派遣先など、人事の権力を握ることができるからだ。

 ある有名大学の循環器内科教授室の壁には、派遣先の関連病院で幹部を務める100を超す医師のリストが張り出されている。
それは権力を誇示していると同時に、教授が莫大な副収入を得ていることをうかがわせた。

 医局人事によって医師が派遣されてくる関連病院は、優秀な人材を確保するためにカネで教授に取り入る。教授の機嫌を損ねたばかりに、役に立たない医師を派遣されてしまってはたまらないからだ。

 具体的にいえば、教授はご機嫌取りに励む病院から法外に高額なバイト代を受け取る。
一般的な医師のバイト代は外来などを半日担当して5万円ほどだが、力を持つ教授が関連病院に出向いて外来を担当すると1日で30万~50万円を稼げてしまうことがある。

 さらに高額な副収入となるのが、医師の紹介料だ。
関連病院に属さない市中の病院が医局に医師の派遣を頼んだ場合、医局に支払われる紹介料の相場は「一般的な内科で1人につき1000万円前後。
花形の循環器内科では、1500万~2000万円」とある大学教授。派遣される医師の専門や経験年数に加え、医局の教授の力によっても額は上下するが、紹介料のうち100万~300万円程度が教授の取り分として懐に入る。

 病院に医薬品を販売する製薬会社も強力な資金源だ。製薬会社にすれば、関連病院にまで影響力を持つ教授を押さえれば売り上げを伸ばせる。
教授が推す医薬品は関連病院でも処方されやすいからだ。また、新薬の効果を試す臨床試験の患者集めにも協力してもらえる。

 製薬会社は折に触れて講演や原稿の執筆を依頼して謝礼を支払い、教授との関係を深めようとする。教授の地位によって額は上下するが、1回で5万~30万円が得られる。

 製薬会社からは奨学寄附金という名目の資金提供もある。
奨学寄附金は研究や教育の奨励を目的にするものだが、多くの場合は使途が特定されず、受け取った側が自由に使える。
製薬会社にとっては、自社の医薬品を購入してもらうための通行料のようなものなので、教授選の裏ガネに使われようが構わない。

 有力な教授が率いる医局には年間数千万円単位で奨学寄附金が支払われる。
製薬業界全体で見ると、奨学寄附金や講演・原稿料、研究開発費などを含めて2012年度の1年間だけで総額5000億円規模の資金が医師や医療機関に流れていたのだから、すさまじい。

 医局員である医師もまた、カネづるとなる。
代表例は結婚式の仲人料である。「教授に仲人を頼むのは医局の“おきて”だから」と若手医師は苦笑する。
彼の医局の相場は50万円で「マシな方」。100万円以上が当たり前の医局もあるという。

 医局によっては年10万円の医局費を徴収する。
医局の運営費や、高級ホテルの大広間を借り切って数百人もの医局員が集合する総会費用などがここから賄われるが、「実際に何に使われているかなんて下っ端には分からない」と男性医局員。まるでみかじめ料である。

 医局員が支払うカネの中で、最もグレーなのが学位論文の謝礼である。
診療に追われ、論文用の実験をする余裕がない若手医師が博士号を取得するため、技術スタッフなどの実験データが用意される。
場合によっては文章までお任せで「相場は100万~300万円で、額で論文の格や体裁が決まる」とある大学教授は明かす。

 「松は海外の有名雑誌に掲載されるレベルの英語論文。竹は国内雑誌レベルの英語論文で、梅は学内雑誌レベルの日本語論文」(大学教授)という。権威あるはずの医学博士号もカネで売買されていたのである。


消えゆく資金源 衰える医局権力 崩れ始めた巨塔


 権力者が手にしてきた数々の副収入は、世間では非常識極まりないものだが、医学界では長年まかり通ってきた。しかし、ここにきて権力とカネに異変が起きている。

 製薬会社との癒着構造は、外資系製薬会社ノバルティス ファーマの高血圧治療薬「ディオバン」に関する研究の不正論文問題で明るみに出て、世間から厳しい批判を浴びた。

 製薬業界の自主規制により、医師や医療機関に支払った資金額や支払先について情報公開が始まっている。製薬会社との蜜月関係は曲がり角に来ている。

 論文の不正に対する世間の目も厳しくなり、論文売買も潮時だ。

 そして最大の異変は、若手医師の医局離れだ。医局員が居なければ、関連病院に医師を回しようがない。医局トップが握る人事の権力も衰えを見せ、白い巨塔は音を立てて崩れ始めている。


これが白い巨塔を支えるカネだ! 1-2 医学部教授の資金源リスト


医師の紹介料

700万~2000万円

病院が医師を派遣してもらうため、紹介料として医局に支払う。
教授の取り分は100万~300万円。
額は教授との力関係で上下する。多くの病院で欠かせない循環器内科は相場が高めで、1500万円を超えることも。

関連病院でのバイト

30万~50万円(1日)

一般的な医師のバイト代は半日5万円、1日10万円が相場。ところが、関連病院の人事を握る医局の教授はその額が跳ね上がる。優秀な医師を派遣してもらうなど関係づくりのために、教授を厚遇するのだ。

講演料・原稿料

5万~30万円(1回)

製薬会社の依頼で、製薬会社の勉強会で講演したり、医療雑誌に寄稿したりする。製薬会社が用意した原稿をチェックするだけのケースも。製薬会社の業界団体は個別金額を今後、公表する方針だが、医師会側は猛反発中。

臨床試験の仲介料

100万~300万円

新薬の効果を試す臨床試験の患者集めは製薬会社の悩みの種。関連病院を仕切り、新薬が誕生すれば営業先にもなる教授は最重要ターゲットの一人。研究開発費や研究室への奨学寄附金が1億円を超すケースもざら。

学位論文の謝礼

100万~300万円

多忙な医師や製薬会社の社会人大学院生が支払う。実験データは技術スタッフや辞めた学生のものが用意される。金額で論文の“格”が決まり、最上位の海外医学誌レベルの英語論文から、下は学内雑誌レベルの日本語論文まで。

患者の謝礼

1万~数百万円

名目上は禁止されているものの、手術などを担当した患者から謝礼をもらうケースは珍しいことではない。「謝礼の有無で治療に差をつけることはあり得ないが、患者の善意は断れない」(男性医師)そうだ。


研修先として人気は過去最低 若手の大学離れで医局崩壊


かつて、若手医師は大学の医局に入るのが基本だった。それが今は自由に研修先を選ぶ方が主流。研修を終えても大学に戻らない医師は多く、人手不足に陥った医局は崩壊の危機にある。


 「医局に入らない選択肢? アリですね。同級生もみんなアリって言います」

 こう語るのは、患者と対面して診療の現場を学ぶ臨床実習が4月に始まったばかりの国立大学医学部5年生だ。

 彼が医局に入りたくない最大の理由は、医局人事で地方の関連病院に飛ばされる不自由さが嫌だから。医局特有の雑務や教授に結婚式の仲人を頼むというおきてなど、医局員となった先輩からのナマ情報も総合すると「医局入りはマイナス面が多い」と感じている。対してメリットは「将来、開業した場合、医局とのパイプで患者を回してもらえるくらいしか見当たらない」という。

 2004年にスタートした新医師臨床研修制度を機に、若手医師たちのキャリアに対する価値観はガラリと変わった。

 それまでは、医師免許を取得したばかりの若手医師たちはそのまま大学の医局に入るというのがお決まりのコースだった。大学病院で専門の診療科に就いて2年間の臨床研修を経た後は、医局人事で関連病院と大学病院を行き来する。

 医局は、関連病院に派遣する医師の頭数を多く確保することで力を強めた。医師は人事の不自由さに耐え忍びさえすれば、安定的な雇用を担保できた。

 
この共生関係を壊したのが新医師臨床研修制度だ。新制度では、医局を介在させずに研修医を募集する病院と希望者を結び付ける「マッチング方式」が採用され、若手医師は研修先を自分で選べるようになった。大学病院に残る以外の道が大きく開けたのだ。

 大学病院を研修先に選ぶ若手医師は減少傾向が続いている。厚生労働省によれば、13年度に研修先に大学病院を選んだ医師は42・9%で過去最低となった(図1‐3参照)。新制度が始まる前の03年度の72・5%から30ポイント近く減少し、大学病院離れが加速している。

 臨床研修は2年間の初期研修で複数の診療科を経験した上で自分に合った診療科を選び、さらに3年間の後期研修で経験を積むのが一般的。研修後もそのまま大学に戻らないという医師は多い。

 ちなみに、メドピアが医師対象のアンケートで「初期研修をもう一度行えるなら大学病院と一般病院のどちらを選ぶか」を尋ねたところ、6割が一般病院を選択。すでに研修を経験した医師においても大学病院の方が劣勢だった。

 若手医師の医局離れが進むのと相関して、関連病院に対する医局の影響力は低下している。

 西日本のある大学の関連病院で研修を終えた若手男性医師は、医局に属さないまま地元でもあるその病院に残っている。医局からは「その病院に残りたいなら、まず医局に入ってくれ」と何度も請われたが、専門の診療科を決めかねているからと言い訳し、のらりくらりとかわし続けた。本音を言えば、地元を離れて地方病院に行かされたくなかった。


マイペースで医局入り渋る闇っ子も登場


 彼のように入局を先延ばしする医師は「闇っ子」と呼ばれる。医局の支配下にある関連病院は、この闇っ子を厄介者扱いするどころか、重宝がって大事にした。

 関連病院にすれば、医局から派遣される医師の人数は一定だが、闇っ子は医局に属さないため、カウントされない。医局から送り込まれる正規の医師の枠を維持しつつ、雑務をこなせる元気な若手医師を確保できるのはありがたいことなのだ。医局員不足のため派遣される医師の数は年々減っており、医局の方がすっかり当てにならなくなっている。

 結局、男性医師は妻の出産を機に入局した。その医局には子持ちは地方に飛ばさないという慣例があり、それを自分にも適用するという約束を取り付けたからだ。

 かつて若い医局員は滅私奉公をさせられてきたが、今は闇っ子らマイペースな新入りに医局の方が振り回されている。若手にすれば、医局に属さなくとも、医師専門の就職支援企業などで職場を探す道もあるし、売り手市場だから職にあぶれることはない。

 若手が特に集まりにくい地方の大学を中心に、医師派遣能力を失う医局が後を絶たない。教授が若手を腫れ物に触るように扱うなど、ヒエラルキーの逆転現象まで起きている。


Q 医師アンケート 初期研修をもう一度行えるなら大学病院? 一般病院?


A 一般病院が優勢

【主なコメント】

「一般病院の方が各診療科の敷居が高くなくていい」「大学病院は医者の仕事以外の雑務が多い」「高度先進医療を身近で体験したいので大学病院」

*有効回答数2779。メドピア調査


Q 医師アンケート 大学病院って必要?


A 「先進医療を行う病院のみ」が3割

【主なコメント】

「医師を安い給料で使えるから、なくす必要はない」「今のままでいいが、金もうけばかりの大学は要らない」「教授連中が体制の上にあぐらをかいている」

*有効回答数2571。メドピア調査


Column 病院教授や臨床教授も存在 医師は「教授」と呼ばれたい


 「病院教授」という肩書を聞いたことはあるだろうか。教授なんだから医学部教授と同じくらい偉いのだろう。と思うかもしれないが、これは間違いだ。

 病院教授は、医局のヒエラルキーの中では、教授の一歩手前の准教授と同格。大学病院が「臨床で優れた業績がある」という名目で与える肩書で、給料などの待遇は准教授と変わらない。准教授の肩書を使えばよいと思うかもしれないが、「准教授は字面や響きがカッコ悪い」(国立大学教授)。権力と体裁を第一に考え、教授ポストが空くのをじっと我慢している准教授たちへの“ご褒美”が、病院教授という肩書なのだ。

 医師は教授の称号が大好き。他にも「臨床教授」「客員教授」「特任教授」など、実態がいまいち分からない教授の肩書が乱発されている。

 臨床教授は、医学部生の教育を担当してもらうため、大学側が一般病院の経営者や開業医などに与える称号だ。大学病院以外の医療機関で臨床実習を行うために付与するケースが一般的だが、医学部同窓会の実力者に付与されることも。

 客員教授は他大学の教授や関連病院の実力者などに、非常勤で講義してもらうための肩書。医学部以外でもよく使われ、仕事内容によって支払われる給料の額は上下する。

 特任教授は医局OBや他大学の名誉教授など、定年を過ぎた医師を再雇用するために使われることが多い。給料や勤務日は少なめで、任期付き。製薬会社から大型研究費を獲得した研究者に付与することもある。

 いずれも正規の教員のポジションではないが、それでも医師は「教授」と呼ばれたいのだ。


1-4 最新版診療科ピラミッド


診療科選びは、医師の人生を左右する。その進路は、国家試験の出題範囲が広く患者が多いメジャー科か、マイナー科に大別される。主要15診療科の最新事情を紹介する。病院通いをする人も必見だ。


*人数は厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」(2012年)


花の御三家


循環器内科 1万1541人

切らない手術で心臓外科に肉薄

心臓や血管、高血圧の専門家。従来は心臓外科医から下に見られていたが、「切らない手術」である心臓カテーテル治療の発展で地位が向上。製薬会社との関係も深いが、一連の不祥事で金脈にメスも。

心臓血管外科 2893人

花形だが激務で若手医師は敬遠

体育会系の外科の中でも命に直結する心臓外科は地位も忙しさも別格。呼び出しなど拘束時間が長く、一人前になるまでに何年もかかるため、若手医師が敬遠気味で、なり手不足が目下の課題。

脳神経外科 6976人

高齢者の手術で24時間営業

心臓外科と並び、激務と高リスクのため若手が敬遠。くも膜下出血や脳梗塞で救急搬送されてくる高齢者の手術が深夜に入ることは日常茶飯事。高齢者との対話ができないと勤まらない。


激務のメジャー科


呼吸器科 6992人

患者の手術より診断が好き

がんや肺炎、感染症とさまざまな病態を扱うため、勉強熱心なタイプが多い。メジャー内科の中でも循環器内科や消化器内科と比べると呼吸器内科は手術が少ないため、患者の診断が好きな人が多い。

消化器内科 1万3080人

内視鏡の発展で雰囲気は外科に

胃腸の病気を専門に扱う。内視鏡の技術の発展とともに、活躍の場が検査から手術へと広がり、地位も向上中。次々と内視鏡手術を手掛ける外科っぽい雰囲気に内科志望の若手が戸惑うケースも。

小児科 1万6340人

小児治療よりも親の相手で苦労

子ども好きという理由で志す若手は多いが、診察で対話するのは親が中心。親とのコミュニケーションに疲れ、断念するケースも。家庭的な印象のためか、看護師の間で結婚相手としての人気が高い。

産婦人科 1万0412人

不妊治療で一山当てたい

生命の誕生に立ち会いたいという若手の志望者は多いが、万が一の際の訴訟リスクが小児科と並び高く、二の足を踏むことが多い。最近は不妊治療で一山当てようという医師も出始めた。


まったりマイナー科


皮膚科 8686人

職場復帰が楽で女性医師に人気

緊急手術がないため定時に帰ることができ、バイト先も豊富。一人前になる期間も短く、ワークライフバランスを重視する若手に人気。結婚・出産後の職場復帰がしやすいため、女性医師も増えている。

眼科 1万2835人

レーシック激減 転職市場が隆盛

レーシック手術による高収入目当てで志望する医師が急増したが、後遺症をめぐるトラブルなどでレーシック手術そのものが激減。レーシックを手掛けない一般眼科への転職希望者が急増中。

精神科 1万4733人

認知症急増で活躍の場は増大

最近は統合失調症よりも高齢者の認知症患者の対応が増加。介護など活躍の場は広がっている。高齢者を担当するケースが多い外科系の医師が、勉強のために精神科の専門医を取得するケースも。

整形外科 2万0480人

結果がすぐ出る治療にやりがい

骨折や腰痛など、骨や関節の専門家。患者数は多いが命を左右するケースは少ないほか、患者が再び元気に運動できるようになるなど治療効果が実感しやすいため、根強い人気がある。


需要急増 麻放病3兄弟


麻酔科 8140人

分業化が進みフリーで稼ぐ

手術に欠かせない存在だが、分業化しやすく、病院内の地位の低さに嫌気が差してフリーに転じる医師が増加中。脳や小児など特殊な麻酔の技能を持つ医師は1日10万円超の高額報酬で引っ張りだこ。

放射線科 5938人

技術進歩に対し医師が不足気味

レントゲン写真から病巣を見抜く読影や放射線治療が主な仕事。画像診断装置や放射線治療の進歩が著しいものの医師が不足しており、麻酔科、病理診断科と合わせ「麻放病」の医師確保が業界の課題。

病理診断科 1605人

対話が苦手で相棒は顕微鏡

顕微鏡で細胞を観察し、がんなどを診断する。患者との対話が苦手な人が多い。病理医なしでは手術中にがん診断ができないため、他科から頼られるが、「診察をしない」と陰口をたたかれることも。


アウトロー


美容外科 444人

海外富裕層狙い 収入は青天井

金を稼ぎたいアウトロー向け。勝ち組は銀座に根城を構え、海外の富裕層相手に1回数百万円の施術を行い、年収は億を超す。都市郊外で高齢者のしわ取りを手掛ける医師の需要も急増中。


がん治療で下剋上


[バトル激化!]消化器外科 腫瘍内科

術後の抗がん剤投与の役割は誰?

近年勢力を伸ばしているのは抗がん剤治療を専門とする腫瘍内科。従来、がんの手術後の抗がん剤治療も外科の執刀医の役割だったが、薬の知識に優れる腫瘍内科が術後の患者を奪い始め、対立が激化。


Q 医師アンケート 再び医師になるとしたら、何科を選ぶ?


A 2割はマイナー科を希望

【主なコメント】

「今のまま。過労死しても悔いなし(40代、呼吸器外科)」「メジャーはしんどいのでマイナー(30代、消化器内科)」「一度はメジャーに挑戦したい(50代、耳鼻咽喉科)」

*有効回答数2648。メドピア調査


Q 医師アンケート 当直が免除されている診療科はある?


A マイナー科は当直免除も

【主なコメント】

「マイナー科は免除」「耳鼻科、歯科、眼科は免除」「麻酔科、皮膚科、眼科、泌尿器科は免除」「医局の力で免除」「リハビリ科と放射線科は免除」「健診部と病理部そして幹部は免除」

*有効回答数3406。メドピア調査


Q 医師アンケート 化学療法は何科が実施するのが望ましい?


A 腫瘍内科が6割

【主なコメント】

「これからは腫瘍内科の時代」「腫瘍内科があればいいが、ない」「手術の片手間は危険」「がんを見つけた科が治療している」「最も詳しい科が担当すべき」

*有効回答数3395。メドピア調査


Q 医師アンケート 病院内に必要なマイナー科は何?


A 麻酔科、放射線科にニーズ

【主なコメント】

「麻酔科医と病理医はいつでも相談できる所に居てほしい」「放射線科医の読影は捨て難い」「心身症、うつ病、認知症が増加しており、精神科が必要」

*有効回答数3218。メドピア調査


闇バイトから単身赴任まで 医師の年収アップ大作戦


高収入のイメージが付きまとう医師だが、実は収入格差が激しい。医局に入らない若手も増え、働き方も多様化している。医師のキャリアとカネの実態と、収入を分けるポイントに迫った。


 厳しい受験戦争を勝ち抜き、6年間の学生時代は膨大な量の専門用語を暗記する。最後の関門である医師国家試験に無事合格すれば、晴れて医師としての人生がスタートする。

 新人医師がまず通る道は、2年間の初期研修だ。医師としてはひよっこながらも、この瞬間から、研修医は同世代の平均的なサラリーマンを上回る年収を手にする。

 かつては大学病院で月10万円以下の低賃金でこき使われていた研修医。生活費を確保するためアルバイトに明け暮れる日々で、36時間連続勤務も当たり前の“研修医地獄”が常態化していた。

 しかし、最近はその様子が変わってきた。2004年導入の新医師臨床研修制度では、研修医のバイトを禁止する一方、病院側に月30万円の給料を保証することが求められるようになった。

 大学病院の研修医の給料は年間約300万~400万円で、臨床研修病院はそれより150万~300万円程度高いのが相場だ。地方の一部では1000万円近い病院も存在するが、720万円を超す病院に対し、国は補助金を削減する措置を取っている。

 給料と引き換えにバイトが禁止されたはずの研修医だが、実態は「罰則がないから、みんなバイトしている」(男性研修医)。多くは研修先に知られないよう、先輩から口コミで伝わる“闇バイト”だ。

 代表例は寝たきり患者が中心の病院の夜間当直だ。夜中に何か起きても、大抵は看護師で対処できてしまう。規定上、医師が常駐する必要がある病院にとって、研修医は格好の人材なのだという。

 また、コンタクトレンズ購入前や献血前の簡単な問診も、研修医に人気のバイトだ。バイト料は半日5万円、当直10万円が一般的。医師の技量よりも、医師の時間をカネで買うバイトが、研修医の稼ぎ場所になっている。

 勉強漬けで無給の学生期間を終えたばかりで、時間はないがカネはある研修医は「金銭感覚が狂い、車や服にカネをつぎ込む」(男性医師)。BMWやトヨタのレクサス、ランドクルーザーをぽんと買い、中には“風俗遊び”にはまってしまう研修医も居る。

 初期研修が終わると、自ら専門とする診療科を選び、さらなる経験を積むための3年間の後期研修が始まる。ここで、ひよっこから若手医師扱いとなり、研修先の病院によっては給料が年1000万円を超すことも珍しくなくなる。

 若手医師にとって、専門領域の決定は、その後の人生と収入を左右する決断だ。大抵の医師は初期研修で複数の診療科を回り、自分に合った道が見えてくるという。

 専門選びでまず考えるのは、外科や内科などの激務のメジャー科を選択するかどうかだ。ワーク・ライフ・バランスを重視しマイナー科を希望する若手も増えている。

 「深夜でも呼び出される外科の先輩や、20人以上の患者を担当して深夜までカルテを書き続ける内科の先輩の姿を研修で見て、自分には無理だと感じた」と語るのは皮膚科を選んだ男性医師。「給料は1000万円あれば十分」と本人は謙虚なつもりだが、それでも世間から見れば十分な高給取りだ。

 若手医師の安定志向について、ある大学病院の男性内科医は「将来のエース候補級の優秀な人材が、マイナー科に行ってしまう。かつては考えられなかった」と嘆く。

 外科は“3K職場”扱いされ、次世代の人材不足が深刻だ。とりわけ女性医師に敬遠されやすい。

 患者を診察しないため一段下に見られていたが、人気急上昇中なのが麻酔科。フリーランス化が進み、脳など特殊な麻酔ができる医師などは8時間で20万円もの高額報酬を得る。医局に縛られず、実力次第で稼げるためか「希望者がかなり居る」(医学部生)という。

 研修期間が終わると一人前の医師扱い。ここで医局に入るか、一般病院の“サラリーマン医師”になるかの決断を迫られる。

 一般病院の方が給料は2~3割高く、1000万~1500万円が一般的な相場。専門医を取得し、10年選手になれば1500万円を超えることも珍しくない。


特殊技能なければ出稼ぎや開業で年2000万円超


 高収入を得る医師にとって、住所もステータスであり、大好きな田園調布や世田谷の高級住宅街に移り住む。だが、医師が都心部に集中し過ぎた結果、皮肉なことに都内の給料は頭打ち。むしろ下がっているくらいだ。地方から東京に出てきたら200万~300万円ダウンということも多い。

 都内でも脳神経外科や心臓血管外科など難度の高い専門技能があれば3000万円に届くケースもあるが、スキルがなければ雇われ院長になってようやく2000万円の壁を超えられるかどうかだ。

 そこで考えるのが“出稼ぎ”だ。「都心から100キロメートル離れるだけで年収は100万~200万円上がる。北海道や東北地方ならば2000万円を超す募集もざら」(医師専門転職支援会社の担当者)。妻子を高級住宅街に残し、医学部を目指す子どもの学費を稼ぐため、涙ぐましい単身生活を送るのだ。

 大学病院を選んだ場合、出世を左右するのは上司の教授。給料は安いが、気に入られて出世コースに乗れば権力に付随するカネが転がり込む。もっとも最近は細り気味だが。上司が院内選挙に敗れて出世の目がなくなると、転職支援会社の門をたたく中堅医局員も後を絶たない。

 もう一つの道は開業医だが、家の後継ぎを除けば、開業医志向は低下気味。患者の多い地域は競争が激しく、かつてのような年収5000万円超えは一握りで、2000万~3000万円が主流。もっと稼ぎたければ美容外科で開業し1億円超えを目指す道もあるにはある。もちろん腕が必要だ。


Q 医師アンケート 医療訴訟の経験はある?


A 1割が訴訟を経験

【主なコメント】

「裁判の経験はないが、示談になったことはある」「訴訟が一因で所属の医局が崩壊した。その医師は勝訴したが、失った時間とポストは戻らない」

*有効回答数3384。メドピア調査


Q 医師アンケート 転職回数は?


A 半数は転職経験ゼロ

【主なコメント】

「医局のイヌですから(経験ゼロ)」「医局に長く居ても最終身分の保証がないとようやく理解し、自分で探した。給与は大幅にアップ(1回。50代)」

*有効回答数3141。開業を含む。医局人事での勤務先変更(派遣)は除く。メドピア調査


Column 1日30分でも3万円稼げるおいしいレセプト審査バイト


 1日30分、自分の好きな時間に事務所に行って端末を操作するだけで、3万円のアルバイト代を支払います。月に10日間やれば30万円を稼ぐことができますよ──。

 もしサラリーマンにこんな誘いがあれば、あまりに現実離れした待遇に疑ってかかるだろう。ところが医師の世界では、こんなバイトが実在する。

 それは診療報酬の明細書(レセプト)をチェックするという仕事だ。

 診療報酬は病院などの医療機関が提出したレセプトを基に、企業の健康保険組合や協会けんぽなどから病院側に支払われる。このうち、サラリーマンやその家族の支払った医療費のレセプトをチェックする機関が「社会保険診療報酬支払基金(支払基金)」である。

 支払基金は全国47都道府県に設置され、病院の請求が適正かどうか、毎月約7800万件ものレセプト審査を行っている。この審査委員というのが“おいしい”。

 首都圏のある県の支払基金では、毎月の審査は2週間前後で終わる。審査期間中は、午前9時から午後10時の間の好きな時間に事務所に行き、所定の端末を操作して審査を行う。

 医師への謝礼は1日当たり3万円。毎日30分審査するだけで、月に30万円近くを稼ぐ医師も居るという。

 審査委員の任期は2年で、地元の医師会や大学病院などの推薦を基に委嘱されるため、一部の医師の既得権益になっている。

 支払基金の資料によれば、レセプト審査1件の平均手数料は約80円。単純計算で毎年750億円もの手数料が医療費に上乗せされ、医師のおいしいバイト代に化けているのだ。


Column 東大病院がひた隠しにするカルテ閲覧不能の異常事態


東京大学病院で昨年10月、停電事故が起き、全ての電子カルテがほぼ1日間、停止する事故が発生。患者に実態を知らせずに手探りで治療を行っていたことが、本誌の取材で分かった。


 「入院患者の氏名や病名さえも分からず、院内は一時パニックに陥った」──。

 東京大学病院の関係者の1人は、そう声を潜める。停電が起きたのは、昨年10月27日の日曜日。時計の針は午後2時半を指していた。

 原因は、院内変電設備の定期点検中に、誤って部品の一部を破損、さらに作業手順の間違いや確認作業の怠慢が重なった人的なミスだ。

 もちろん、停電時の予備電源である「無停電電源装置」が稼働したが、停電時間がその限界を超えたため、院内情報システムのサーバがダウン。一瞬で、全患者の電子カルテが閲覧できなくなり、医療事故防止のために入院患者が手首に巻く「患者認識用リストバンド」のバーコードも読み込めなくなったという。

 電子カルテやリストバンドには、患者の氏名や病名の他、薬の処方や投与量の履歴、検査や治療の予定などが書き込まれている。この二つが機能不全を起こすと、白紙の状態から入院患者の治療に当たらなければならなくなる。

 本誌の取材に、東大病院は「対面取材は応じられない」とメールでのみ取材に応じ、事故の事実を認めた上で、「(電子カルテの閲覧は)ウェブ系のデータ参照システムが障害発生中も利用可能だった。治療行為の遅延もなかった」と回答した。

 ところが、である。別の東大病院関係者は「スタッフが電子カルテを参照できるようになったのは、深夜に入ってからだ。実際には、入院患者に点滴ができないなど、治療行為には確実に遅れが出ていた。事実をごまかそうとしているとしか思えない」と明かす。


悟られぬよう雑談を装って患者に病名確認


 入院患者には、停電時にシステム障害が発生したことを院内放送で流したが、電子カルテやリストバンドが読み込めない状態であることは伏せられた。医療事故を回避するためには、患者に事故の全情報を伝え、治療スケジュールの情報交換が不可欠だったはずだ。

 同じ関係者は「当日の担当医療スタッフは、事故の実態を患者に悟られないよう、遠回しに氏名や病名などを確認して、紙に記録するというばかげた作業に追われていた」と打ち明ける。

 紙カルテの実習経験さえない若い“電子カルテ世代”の医療スタッフも多く、この聞き取り調査も難航したという。

 結局、システムが正常な状態で再稼働したのは、翌28日の午前8時。外来受け付けまで残すところわずか10分という瀬戸際だった。

 この事故を受け、東大病院は「電源供給時間の長い新たな無停電電源装置への入れ替えと、診療情報システムの停止は、コンピュータウイルスからも起こり得ることから、より詳細な事故対応マニュアルを作成している」と釈明する。

 何をか言わんや。天下の東大病院が、従前の非常時対応の甘さを自ら露呈したようなものだ。東大病院はこの件を、厚生労働省など関係機関へ報告していない。災害時などに他の病院でも起こり得る事故であり、広く共有すべきではなかったのか。

 昨今、東大では論文捏造や臨床研究での患者情報漏えいが発覚するなど、不祥事が相次いでいる(表1‐6参照)。「不祥事も情けないが、最大の問題は自ら明らかにして説明しようとしない隠蔽体質にある」と、さらに別の東大病院関係者は言う。ヒエラルキー頂点への信頼は、自らの認識以上に損なわれている。


医学部受験最新事情 5年で1400人の定員増も難易度高止まりの医学部受験


2009年以降の5年間で医学部定員は約1400人も増えた。だが、門戸が広がった以上に志願者が増加。優秀な学生を集めようと学費値下げの動きも続き、医学部受験は過熱している。


 6年間トータルで約4900万円──。帝京大学医学部は私立大学医学部の中でも最も高いその学費故に「帝京だけは経済的に無理」と多くの保護者に言わしめてきた。

 そんな同大の志願者数が2014年入試で急増した。医学部受験専門予備校であるメルリックス学院によると、前年に5367人だった一般入試の志願者数が約8000人へと1・5倍に膨れ上がったのだ。ちなみに、定員は107人である。

 理由は学費の値下げだ。今年入学する医学部生の学費(入学金などを含む6年間の総計)は約3750万円。実に約1150万円の大幅値下げである。これに受験生とその保護者が敏感に反応した結果、志願者急増につながった。

 国公立大学医学部の学費は約350万~360万円で横並びだが、私立の場合は表1‐7のように大学によって大きく異なり、入試偏差値とほぼ逆相関の関係にある。つまり、入りやすい大学ほど学費は高いわけだ。

 私立では学費の値下げ競争が起きている。08年に順天堂大学が学費を一気に880万円引き下げた結果、慶應義塾大学を下回って私立最低水準となり、志願者は増え、偏差値も上昇した。学費が安くて偏差値も高いとなると優秀な学生が集まる。この成功モデルに各大学が追随しているのである。

 今や学費2000万円台の私立も珍しくない。昭和大学は昨年に値下げして学費2200万円となったが、前期(1期)試験合格者は補欠合格を除いて初年度授業料300万円が免除されるので実質1900万円。順天堂大学も成績優秀者は学費が1990万円で済む特待生制度がある。

 その他、近年は地域枠を設ける医学部が増えている。地域医療に従事する医師を増やすために、都道府県の負担で奨学金を給付する制度で、卒業後に都道府県が指定する医療機関で一定期間働けば奨学金の返済が免除される。

 例えば、順天堂大学の東京都地域枠入試の合格者10人は、学費全額の他、月10万円の生活費も貸与される。こうした地域枠を使えば、国公立より安い学費で医師になれるのだ。

 文部科学省が医師不足解消のために医学部定員を増やすことを決めたのが08年。翌09年から13年までの5年間で医学部の定員は約1400人増えた。定員100人の医学部が新たに14できたのと同じことだ。

 こうして医学部の定員が増えたのと同じタイミングでリーマンショックに端を発する景気の落ち込みと就職難が起こった。

 これを受けて、「理系の学生はほとんど大学院に通うので、同じ6年間なら医学部に行ってほしいと考える親が増えた」と大学通信の安田賢治常務。「理系で大学院を出ても就職の保証はないが、医者になれば確実に稼げる」からだ。さらに私立の学費値下げもあって、医学部人気がヒートアップしていったのである。

 河合塾教育情報部の近藤治部長によると、私立の一般入試受験者数は2000年の約4万5000人から13年は約9万2000人と倍増している。

 国公立は志願倍率5倍台で高位安定状態にある。13年入試についてはセンター試験の難度が上がって予想得点がボーダーラインに届かず、医学部出願を断念した受験生が多かった。このため志願者数が減ったが、今年は微増となったもよう。「今年は前年に比べて大学受験者数全体が減っているので、実質的にはかなりの増加」(近藤部長)だ。


医学部受験に強い難関中高一貫校 公立は新潟高が躍進


 人気の高まりで、最も入りやすい私立医学部でも偏差値は、早稲田・慶應の理系学部と同レベル。難易度が高止まりしている医学部ではあるが、推薦入試という手もある。

 他学部のように推薦枠ならほぼ全員が合格というわけにはいかないが、「私立医学部の推薦入試は一般入試よりも、問題は易しい。ただし、過去の入試問題が公表されないので、大学ごとの出題傾向をつかんで対策を立てるのが難しい」(田尻友久・メルリックス学院学院長)。

 受験者から過去問の情報を集めて傾向をしっかりつかんでいる予備校などに通えば、推薦入学のチャンスは広がりそうだ。もちろん、推薦入試で落ちても、一般入試で同じ大学に再チャレンジできる。

 国公立の場合は、「推薦入試でもセンター試験を課す大学が多く、面接やグループ討論など独自の対策も必要なことから、一般入試よりハードルが高い面がある」(近藤部長)ので、注意が必要だ。

 国公立ではむしろ、後期入試を実施している大学との併願が多い。例えば、山梨大学医学部は前期入試がなく、後期だけ。推薦枠を除く80人の定員に対して、今年は全国から1401人が出願した。15年入試では推薦枠を減らし、一般入試の定員を80人から90人に増やす予定で、来春はさらに志願者が増えることも予想される。

 医学部に強い高校はどこかも親にとっては気になるところ。国公立医学部合格者が多い高校のランキングが表1‐9だ。難関の私立中高一貫校がずらりと並ぶ。こうした学校では、「東大、京大よりも国公立医学部を目指す生徒が増えている」(安田常務)という。

 医学部入試対策の特別授業を行っている学校は少ないが、医学部を目指す生徒同士が互いに刺激し合い、予備校に通うなどして学力を高めているようだ。公立校で唯一ランキング入りした新潟高校は、数学と理科の授業が多いメディカルコースの生徒たちが医学部合格実績を上げている。

 ただ、学力の高い生徒がこぞって医学部を目指す傾向に警鐘を鳴らす大学人もいる。

 日本医科大学の田尻孝学長は、「受験対策と医学の勉強はまったく別。日々進歩する生命科学に付いていける柔軟性が必要だし、医療の現場では応用が利かないと駄目」と一喝。「本当に医師になりたい人だけ入学してほしい」。そう強調する。


医学部合格者数12位の学校は?


「デイリー・ダイヤモンド」で記事番号 4051749を入力すれば12位以降のランキングが5月14日以降にご覧いただけます。


ハンガリー留学組が国試合格 歪んだ偏差値至上主義に一石


医学部に入学できるのは一握りの偏差値エリートに限られる。受験で挫折したハンガリー留学生たちが3月、医師国家試験に初めて合格した。本当に医師に向いているのはどちらなのか。


 「第108回医師国家試験」の合否が発表された3月18日、一つの審判が下された。

 ハンガリー医科大学留学は詐欺ではないのか──。インターネット上の掲示板などではこの数年、医師希望者の間でハンガリー留学の話題が盛んに取り上げられてきた。「国試受験資格は与えられず、日本では医師になれない」と断じる声もあり、大学や日本人留学生を支援するハンガリー医科大事務局(HMU)、時に留学生までも誹謗中傷を受けた。

 海外医学部の卒業生が日本の医師国家試験の受験資格を持つかは確かにあいまいだ。卒業後に国試受験申請をしてから受験資格の有無を個別に審査されるため、6年かけて卒業したところで、受験不可を告げられることもある。

 こうした不確定要因を排除するために、HMUは厚生労働省に現地大学の教育課程が基準をクリアしていることを確認した上で日本人学生の募集を開始、2006年に1期生が入学した。国試受験資格は個別に審査されることに変わりはないため、ハンガリー留学の正当性を証明するには1期生の結果を待つしかなかった。

 昨年6月にハンガリー国立大学医学部を卒業した日本人1期生7人のうち、6人が日本で今回の国試受験を希望して全員が受験。4人が合格を果たした。

 日本の医学部は入試難度が異常なほど高いのに対し、ハンガリーは門戸が広い。現地に渡る前に日本で書類、英語、面接による審査が行われるが、日本の国立大学工学部に入学できるレベルの学力があれば問題ない(表1‐10参照)。

 応募者は日本の医学部受験に失敗した挫折組や、薬学部など他学部を卒業してから医師を志した転向組、私立大学の高い学費が払えない金銭的な事情を抱えるケースが目立つ。学費は国内私立医学部に比べて割安で、現地での生活費込みで2000万円(予備コースを含む7年間の合計)ほどだ。今年9月の入学生からはハンガリー政府による日本人向けの奨学金制度も始まる。

 ただし、ハンガリー留学は「抜け道」と呼べるほど甘いものではない。入学してからが勝負であり、落第する学生の割合は日本よりもはるかに高い。

 1期生22人のうち、ストレートで卒業したのは7人。3分の1は留年し、残りの3分の1はドロップアウトした。医師になりたいという強い意志と適性がなければ脱落していくことになる。

 1期生の一人である沼田るり子さんは高校3年の夏、偏差値が足りずに医学部受験を諦めた。地元の茨城県にある筑波大学体育専門学群に進学して卒業。それでも医師になる夢を捨てられず再受験するが壁は厚く、26歳でハンガリーに留学した。大学受験程度だった英語力を鍛えながら、英語コースの授業に食らい付いた。

 卒業後は、卒業生数人と茨城県にある筑波記念病院で国試対策に徹した。「海外に飛び込んで奮闘してきた学生に病院を活性化してほしいから」とサポートを引き受けた同病院の小関暎子理事長は寮や勉強部屋を無償で提供、同病院の医師も試験勉強に協力した。医師不足に悩まされる中で「うちを初期研修先に選んでもらい、願わくばこの地で医療を続けてくれれば」という期待もあった。

 4月上旬、同病院の一室で採血方法を学ぶ初期研修医と新人看護師たちの中に、沼田さんを含むハンガリー国立医学部出身研修医3人の姿があった。「生涯、地元で医療に携わっていきたい」と沼田さん。小関理事長は「海外で苦労を重ねた留学生たちは視野が広く、患者に認められる強さと優しさを持ち合わせている」と評する。

 日本の医学教育システムではふ化できなかった卵が殻を破った。


脳外科は3K扱い 患者のQOLよりまず自分のQOL


 日本で医学部に入学することは受験戦争の勝ち組を意味する。しかし、「数学オリンピックの金メダリストなど最高に優秀な学生が医学部ばかりに入るのはもったいない。患者を診療する臨床医にそこまでの頭脳が必要だろうか」。そんな疑問を呈するのは、理学部から医学部に転向した病理医の榎木英介・近畿大学医学部病理学教室講師だ。

 ストレートで入学する偏差値エリートの中には、実は医師という仕事に興味がないという者も居る。医学部に入ったのは、偏差値に見合っていたから。燃え尽きて入学後の授業に身が入らない学生が少なくない。

 まさに本末転倒、宝の持ち腐れ。「優秀な頭脳は医学部ばかりでなく、多方面で活躍した方がいい」と榎木氏は指摘する。紆余曲折を経た転向組の方が、総じて医師の仕事に対する覚悟は強かったりする。

 一度入学すると医学部生は進路変更がしにくいため、よほどのことがなければ医の道へ進む。しかも大学側も大学の評判に関わる国試合格率を上げようと、国試予備校化する傾向にある(アンケート参照)。

 志が低いまま国試に合格した者は、命のやりとりが少なくて、訴訟リスクが低く、激務でない診療科を志向する。命のやりとりをする場面が多い脳外科などを「3K(きつい、汚い、危険)だから」と避け、皮膚科や眼科を好む。皮膚科や眼科もがんや難病と戦う奥の深い領域だが、そうしたシビアな医療の追求よりも、美容皮膚科での開業などを夢見る。

 暮らしの便がいい都市勤務にこだわるのも特徴だ。患者のQOL(生活の質)向上よりもまず、自分のQOLを確保することを重視するような医師の増加が、診療科、地域における偏在の一因となっている。医学部の定員を増やしたところで、偏在が解消されなければ医師不足は解消されない。

 ハンガリー留学生が日本で医師になったことは、偏差値至上主義に対するアンチテーゼではあるが、医師輩出が年間数人では日本の医学教育を変革するうねりにまではならないだろう。

 医師の偏在を解消するために、大学は地域枠(48ページ参照)を増やし、別の方策として、専門医の登録人数を都道府県別に制限しようという議論もある。

 しかしそれだけでは、根本的な解決にはならない。本当に医師を志す者に門戸を開放して、大学が治療を行うための実学の教育を深め、また地域医療への意識を高める教育内容を再構築しなければ、頼れる医師は減少の一途をたどる。


Q 医師アンケート 国試合格率は各大学医学部の教育水準を反映している?


A 「反映していない」が5割

【主なコメント】

「教育水準というよりも、医師国家試験予備校のようになってしまっている大学の傾向を反映している」「国試合格率が高い大学でも、臨床の場に来ると聴診器も扱えないような医師がたくさん居る」

*有効回答数1794。メドピア調査


榎木英介氏インタビュー


「デイリー・ダイヤモンド」で記事番号 4051751を入力すればインタビューが5月12日以降にご覧いただけます