結局、再び特養に入所を申し込み、今は入所待ち。

2014.05.08

読み解く=在宅介護 受け皿貧弱 疲弊する家族 「お願い、病院に置いて」
2014.05.05 西日本新聞


 

 膨らみ続ける社会保障費を抑えるため、国は「医療から介護へ」「施設から地域へ」をキーワードに、主に高齢者に対し、在宅医療、在宅介護への転換を推し進めている。

4月からは、退院や急性期病床の削減を促す一方、特別養護老人ホームの入所者を重度の人に限定するなど在宅への誘導を加速し始めた。
だが、在宅で暮らすお年寄りやその家族の「支え」は、十分ではない。 (下崎千加)


 彼岸を迎えたその日、北九州市内の民家で、車いすの女性(89)が、おはぎとイチゴをフォークでかき回していた。表情は乏しい。左手には、美智子皇后の婚礼時の写真グラフ。
「今日はおとなしい方」。傍らで、次女(68)が言う。

 昨年11月、特養に入所していた母を自宅に引き取った。でも。

 「えばりくさって」「あんたはあくどい」。暴言や被害妄想は日常茶飯事。
偏食がひどく、白飯を食べない。皿を投げる。手を振り回す。一度、手が口に当たって切ったこともあった。

 もともと1人で暮らしていた。
80代に入って認知症とうつで家事が困難になり、最初に長女が、次に四女が、自宅に引き取った。
だが、衝突を繰り返し83歳のときケアハウスに入所させた。
その後は誤嚥(ごえん)性肺炎で入院、介護老人保健施設へ入所、左大腿(だいたい)骨骨折で入院、特養に入所、両大腿骨骨折で入院…と転々。うちではもうみられない-。
そう特養に退所と入院を勧められ、「たらい回しはふびん。私が自宅でみる」と決断して引き取ったが、大変さは想像を超えていた。

 要介護5で、車いすへの移乗や食事、排せつなどすべて介助が要る。
1日3回のヘルパー以外に訪問看護、訪問入浴など公的サービスを限度額いっぱいまで使うが、心身は疲弊する一方だった。

 この年末年始。ケアマネジャーが気を利かし、リハビリ名目で入院させてくれた際、医師に思わず口走った。「お願い、ずっとここに置いてくれんですか」

 結局、再び特養に入所を申し込み、今は入所待ち。

 「母には悪いけど、この生活がいつまで続くの、と思うと限界だった」

    ■   ■

 福岡県・筑後地区の男性(80)は、脳出血の後遺症で寝たきりとなった妻(75)を半年間、病院の療養病床に入院させたままだ。
要介護4の認定を受けたが、在宅はあきらめた。

 自宅は中山間地で、往診に来てくれる医師はいない。ヘルパーが出入りする家は聞いたことがない。
近くで暮らす息子夫婦は農業で忙しい。頼れない。

 妻の口から言葉は出ない。
目は一点を見つめ、食事も鼻からチューブで注入する。「意思表示できず、何かあったら手遅れになる」

 もともとは専業農家だった。国民年金は夫婦で月10万円に届かず、息子から援助を受ける。
在宅介護サービスを使うと自己負担は毎月約3万円。
家で1人で妻を介護すれば、自分も体を壊しかねない。やっぱり、食費やおむつ代を入れても約5万円で24時間看護を受けられる病院の方が家計的にも助かる。

 特養からは「60人待ち。入所まで4、5年かかる」と言われている。
毎日午前中から夕方まで、妻のベッドの傍らにいる。「せめて葬式は家でしてやりたい」と男性は話した。

 この療養病床を訪ねた。
患者の4分の1は、入院して1年以上。この女性のように、高度な医療が必要ない寝たきりの患者は診療報酬は低い。「
入院が長引けば長引くほど赤字だが、追い出すことはできない」と院長。
「この辺では、よほどの大家族でないと在宅は難しいよ」


 ●社会保障費増大 国切り詰め躍起

 高齢化の進行で社会保障費はうなぎ上りだ。

 2014年度の介護費用は、国の当初予算ベースで10兆円。介護保険制度が始まった00年度の3倍近くに膨らんだ。
これに伴い、国民が負担する介護保険料も増額改定を繰り返し、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる25年度には、全国平均は今の2倍近い月額8200円程度に上る見込みだ。
一方、医療費も12年度は00年度比3割増の38兆4千億円に達した。

 現在、国会審議中の地域医療・介護総合確保推進法案が成立すれば、要支援1、2の人向けのデイサービスや訪問介護は全国一律の介護保険サービスから切り離し、市町村事業に移行する。
介護保険の自己負担は、年収280万円以上の人は1割から2割に引き上げ。特養への入所は要介護3以上に限定する。

 4月の診療報酬改定でも、費用がかさむ重症者向け急性期病床の算定要件を厳格化。
15年度末までに、こうした急性期の病院を、今の約36万床から約27万床まで、約4分の3に減らすよう誘導する。
また、在宅医療に取り組む医師を増やすため、糖尿病や認知症など複数疾患がある人を継続的に診る「主治医」制度を新設し、月に1万5030円を支払う。

 厚生労働省によると、訪問診療などの在宅医療に取り組む「在宅療養支援診療所」は、診療所全体の20%しかない。
しかも、看板を掲げていても、夜間の対応やみとりの実績が一回もない診療所も少なくない。
重症のお年寄りが安心して家で過ごせる態勢が整っているとは言い難い。

 国の改革案では、12年度現在、1日当たり17万人分しか提供できていない在宅医療を、25年度までに29万人分整えるとしている。
だが医師の高齢化も進む中、実現できるかは不透明だ。