厚労省、内部告発また放置 千葉の医療死亡事故 文書送り返す

2014.05.08

厚労省、内部告発また放置 千葉の医療死亡事故 文書送り返す
2014年5月8日朝日新聞


厚労省が内部告発に対して送り返したメール。「千葉県の所管」と理由を記している
 
厚生労働省が千葉県の医療機関の手術で死亡事故が相次いでいることや、歯科医が無資格で麻酔をしていることを知らせる内部告発を受けながら、調査していなかったことが朝日新聞の調べでわかった。
同省では内部告発を放置する例が相次いで発覚しており、専門家は「医療機関との癒着を疑われても仕方ない」と指摘している。

 ■「枠組み沿い対応」

 内部告発をしたのは、2010年9月まで千葉県がんセンター(千葉市中央区)に勤めていた麻酔科医の志村福子さん(42)。

同センターで医師が行うべき麻酔を歯科医が日常的に行っていること、腹腔(ふくくう)鏡手術で死亡事故が相次いでいることを告発する内容のメールと文書を11年2月、公益通報者保護法に基づいて内部告発を受け付ける厚労省の行政相談室に送った。

 ところが、相談室は志村さんがすでに退職していたため、「保護法に基づく内部告発ではない(法律が保護する『労働者』ではない)」と判断。
文書を送り返し、管轄の千葉県に告発するよう伝えた。

 厚労省によると「無資格麻酔」は医師法違反の恐れがあり、メールは相談室から担当の医政局に送られたが、対応を検討したかを確認する記録は残っていないという。

医政局は「公益通報制度の枠組みに沿って対応した。
制度が変わらない限り、あれ以上の対応は難しかった」と説明。当時担当だった医政局の岩渕豊・元総務課長は「告発があったか記憶になく、コメントできない」と話している。

 その後、千葉県警が医師法違反(無資格医業)容疑で捜査に着手し、当時の手術管理部長と歯科医を書類送検。
千葉地検は12年3月、犯罪事実を認定した上で起訴猶予処分とした。
腹腔鏡手術の際の死亡事故は告発後も相次ぎ、千葉県が先月22日、第三者委員会で調査を始めると発表した。

 志村さんは「告発がきちんと受け付けられれば、死亡事故が相次ぐことはなかった」と話している。

 厚労省は昨年11月、アルツハイマー病研究の国家プロジェクトのデータ改ざんを指摘する内部告発メールを研究チーム責任者に無断で転送。

田村憲久厚労相が陳謝し、担当官を処分する方針を表明した。
10年には自治労共済の違法行為を内部告発した職員の名前を無断で同共済に伝えたことが発覚し、職員4人を厳重注意とした。

 06年施行の公益通報者保護法は保護の弱さや対象の狭さなどが指摘され、昨夏に内閣府の消費者委員会が法改正の検討を消費者庁に求めている。(岩本美帆)

 ■独立機関、調査を

 公益通報に詳しい光前幸一弁護士の話 厚労省は内部告発を調べてまずい結果が出ると監督責任を問われるため腰が重くなる。
このようなケースを繰り返すと、医療機関との癒着と取られても仕方がない。退職者は労働者でないので受け付けないというのもおかしい。退職者の方が告発はしやすいはずだ。

 独立機関が通報を受理し、調査する仕組みをつくるべきだ。

 ■逃げ腰的な対応

 森岡孝二・公益通報支援センター共同代表の話 通報者を保護しながら迅速に対応し、国民の生命、身体を守るのが公益通報者保護制度の目的だ。
特に厚労省は労働者保護の立場から他省庁の範になる必要があるのに、通報を窓口で締め出している実態がある。

 労働者からの苦情が多く、逃げ腰的な対応になっているのではないか。

 ◆キーワード

 <千葉県がんセンターを巡る疑惑> 08年6月から今年2月の間、6件の腹腔(ふくくう)鏡手術で患者の死亡が表面化。
7日、手術後2週間以内に死亡した事例が新たに3件判明した。
県は医療過誤の可能性があるとして検証委員会の設置を発表。
また、県警は歯科医が無資格で麻酔を行った医師法違反容疑で捜査し、2人を書類送検した。