いまこそ医学部新設で医師不足の解消を

2014.05.07

 いまこそ医学部新設で医師不足の解消を
 
ナビタスクリニック立川院長 久住 英二


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1.医師は今後益々足りなくなる

今後25年間で日本の人口は15%減少し、医師数は20%増えます。
だから医師不足は充足する、というのが医学部新設反対派の計算です

(1)。ところが、 東京大学医科学研究所で、普段は遺伝子情報の解析をおこなっている数学者らのチームが、高齢者が増えることや、医師の高齢化、女性医師の増加など、細かい データを加味して解析すると、医師不足が悪化することがわかりました

(2)人口は減少するにも関わらず、後期高齢者の死亡数は1.5倍に増加します。
日本では、ほとんどの方が病院で亡くなるため、病院医療のニーズが増加します。

一方、高齢医師は、管理職や開業医の比率が高くなり、子育て中の女医さんは、外来だけパートタイム労働する方が増え、病院医療への寄与が小さくなります。

 ちなみに、現在の医師の週労働時間は20代で85時間、60代で58時間です

(3)細かなデータを無視すれば、医師は余るはず。でも、実際には、現在の医療レベルを維持しようとするならば、都道府県によっては、医師養成数を現状の3倍に増やさなければ追いつかないのです


2.医師養成システムの変遷

2-1 卒後臨床研修制度実施前の医療提供の核は大学病院
 
卒後臨床研修が必修化されるまで、医学部の卒業生は、ほとんどが母校の大学病院で臨床研修を受けました。
当時は、市中病院(都道府県立病院や日赤、済生会 など含め)は大学から医師の派遣を受けており、大学に属さない医師は就職先がありませんでした。

また、他の大学病院で研修を受けようにも、卒業生でないと 冷遇されるという噂(一部は真実)があり、医学部と大学病院が地域医療をコントロールしていました。ほとんどの地方では、一県に一医学部しかないため、独 占状態でした。切磋琢磨により医療の質が高められるような、良い意味での競争はありませんでした。


2-2 卒後臨床研修制度によって崩れ去った大学病院による囲い込み

卒後臨床研修が必修化され、全国どこの病院でも研修が受けられるようになると、情報流通が活発になりました。
必修化前より独自に研修医を募集し、臨床研修 システムを有していた病院は、大人気となりました(以前から聖路加国際病院、国際医療研究センター、虎の門病院が研修病院の御三家と言われていました)。
結果として、研修内容で劣る大学病院、および大学からの派遣に依存して自らの魅力を高めてこなかった市中病院では、医師が集まらなくなりました


3.魅力のない大学の定員を増やしても医師は定着しない
医学部の定員は、すでに限界まで増加しています。

100人から125人に増加した新潟大学では、医学部の教育スタッフのマンパワー、講義や実習に使う施設が限界に達しています。定員を3倍にすることは、不可能です。

また、既存の大学病院は人事が停滞しており、若手にとって魅力的ではありません。
教授選で自校出身者が優遇され、結果として臨床、研究とも能力の劣る教授 が席を占めるようになりました。

教授以下のスタッフにしても、同様です。
そのようなスタッフに教育を受けているため、医学部の学生は、母校に残ることを選 択しなくなりました。
 
地域病院への医師派遣では、常勤医師が充足しているような病院への派遣もあります。
医局への貢献(研究費の寄付など)に対する見返りの可能性があります。
無駄であり、現場スタッフの士気を下げています。
また、学生への講義の準備や、書類仕事など、必ずしも医師がおこなう必要のない雑用が多く、臨床医として の能力を十分活用していません。


4.医学部の新設に反対する論拠は正しいのか?
 
「新設医学部のために地域の医療スタッフが奪われ、地域医療が崩壊する。」とは、岩手医科大学の小川彰学長の弁です

(1)。これまでの日本の医学部新設の 歴史において、現地の医師が潤沢であった歴史があったのでしょうか。また、医学部を新設するなどして医師養成数を大幅に増やさなければ、地域医療は早晩壊 滅します。

日本医師会に至っては、医学部新設どころか、医学部定員増にすら反対です。日本医師会は開業医の利益追求団体ですから、医療費36兆円の 分け前が減るのに反対するのは当然です。医師会の妄言を信じてはなりません。


5.医学部新設のメリット

既存大学にない試みができる。

たとえば、他国の医師免許も一緒に取れる、英語での医学教育が受けられるなど。
留学生枠をつくり、10年ほど留学生が働いて くれれば、貴重な戦力になります。

また、従来の専門医養成に加えて、日本が得意とする分野(高度医療や基礎医学)や日本では不足している分野(診療科の枠 を超えた分野や臨床研究医)の担い手の医師を意識的に養成することも可能になります。

柔軟な人事システムを構築し、海外で活躍する医師をスタッフとして呼 びもどすことも可能です。
 医師養成数を増やしても、歯科医師や弁護士のようにはなりません。
なぜなら、ニーズが膨大だからです。
将来的に余剰となったとしても、中国やインド、北米 でも医師不足であり、いくらでも働き口はあります

(7)。国内での医師不足だけに焦点を絞らず、世界的に生じる医師不足を解消すべく、日本の優秀な医療シ ステムを広げるチャンスとも考えられます。


6.新設医学部誘致を打ち出している自治体との協同のメリット 
 
医学部の地元には、一定数の医師が定着するため、医師不足の解消に効果的です。また、医学部を誘致することは、その地の医療産業と雇用を創出し、医療崩壊 だけでなく、地域の空洞化を食い止めるカンフル剤となります。
自治体病院、各種医療機関との連携、自治体奨学金など、その地域に見合った医師養成システム の構築が可能となり、医師の定着を図ることに繋がります。