医療・福祉現場から/1/妊婦や胎児 命の危険/飛び込み出産

2014.04.30

連載企画/だれも知らない みやざき子どもの貧困/石井十次没後100年企画 

第4部 医療・福祉現場から/1/妊婦や胎児 命の危険/飛び込み出産
2014.04.26 宮崎日日新聞朝刊  

 


 県内の公立病院の産婦人科医師、山内純一(50代)=仮名=に救急外来の看護師から連絡が入った。

「未受診の妊婦が陣痛を訴え、救急車で搬送されてきます」。妊婦健診を一度も受けずに出産する「飛び込み出産」だ。

外来患者の診察に当たっていた山内は、助産師らと一緒に分娩(ぶんべん)室へ急いだ。

 妊婦健診の受診歴がないため、山内らは胎児の大きさ、妊婦の血液型といった基本的な情報が分からない。

山内は「妊婦がエイズウイルス(HIV)や肝炎ウイルスに感染している可能性もある。

情報がほとんど無い状態での突然の分娩は、医療者にとってもストレスが大きい」と話す。

 生まれる寸前で胎児の頭が見えていたり、妊娠に気づかずにトイレや布団の中で出産し病院に運ばれてきたり、陣痛を「おなかが痛い」と訴えてきたりするケースもある。

 県内の飛び込み出産件数は2010~12年の3年間で約60件。

妊婦や胎児が命を落とすこともある。

「リスクが大きいのと、出産費用が支払われない可能性がある」(勤務医)ため、本県では二次医療を担う公立病院などが中心に受け入れる。

山内は「病院までの交通費が捻出できず、健診を受けない妊婦もいる。

貧困が根底にある」と実感する。
妊婦健診は県内全市町村で助成券(14回分)が配布されているが、一部の自治体を除き完全には無償化されていない。

 妊産婦の相談に乗る同病院の医療ソーシャルワーカー徳田幸子=同=は「飛び込み出産のうち、最近は10代の若年出産が目立つ」と話す。

親が結婚を認めず未婚で出産した、パートナーがいても収入が低い非正規雇用に就いている、親と断絶状態で頼れる人がいない-といった相談が寄せられるという。

 経済苦も垣間見える。

健康保険料を支払っておらず出産育児一時金が支払われなかったり、一時金を受け取っても未払いになるケースのほか、退院が迫っても粉ミルクや乳児用の肌着、布団を用意できない妊産婦もいる。

徳田は「子育てが始まればさらにおむつ代や食費、医療費、将来的には教育費が必要になる。

経済力のない家庭は出産がきっかけで、さらに貧困に陥っていくのではないか」と懸念する。

 山内は「飛び込み出産は、妊婦やその周囲の人々が妊娠や出産に対して無頓着で、安全に赤ちゃんを産もうという気持ちが乏しいことの表れ。

妊娠と出産に対する無関心が最大の問題だと思う。母親が安心して子どもを産み育てるための地域の支えが必要」と訴える。

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 子どもの命が生まれてから社会に巣立つまで、心身面の成長を身近でサポートする医療・福祉。第4部では関係者の証言から子どもをめぐるさまざまな貧困の実態、課題を探る。



写真説明/県内の公立病院の分娩室。飛び込み出産は妊婦や胎児の情報が分からず、リスクが高い=24日