人工透析、使わぬ選択も 患者側への説明手順、学会が決定

2014.04.22

人工透析、使わぬ選択も 患者側への説明手順、学会が決定
2014年4月22日朝日新聞


人工透析の見合わせ
 人工透析は、腎機能が低下した患者の命をつなぐ治療法だ。血液をきれいにし、出なくなった尿のかわりに不要な水分を取り除く。
しかし、全身の状態が悪くなると効果が落ち、体にも負担がかかる。透析を始めないことや、中止することを選べるようにする提言を日本透析医学会がまとめた。

 ■「もう限界」中止訴え

 4年前の夏、千葉市の渡辺正行さんは61歳の生涯を閉じた。腎臓の病気で、週3回の人工透析を25年間受けてきた。

 亡くなる3カ月前、針がさせないほど腕の血管が細くなった。千葉社会保険病院(現ジェイコー千葉病院)に入院し、足の付け根に透析用の管を入れた。

 腸の難病も長く患っており、栄養状態と免疫力が落ちていた。帯状疱疹(ほうしん)が出て、ひざ下の壊死(えし)も始まった。
「痛くて眠れない」「つらい」とこぼすようになった。透析すると、血流が減り腹部がギリギリと痛む。透析をしなければ、体に水分がたまって心臓に負担がかかり、息苦しくなった。

 「もう限界だ」。妻の淳子さん(62)にそう漏らした。1週間後、回診に来た室谷典義院長に「透析をやめたい」と訴えた。
やめれば10日ほどで亡くなることは、わかっていた。

 この病院では10年前から、回復が望めない状態になった場合にどこまでの治療を希望するのか、透析患者に聞いてきた。
透析の継続について、正行さんは毎年「わからない」と書いてきた。亡くなる1年半前、初めて「中止」を選んだ。

 正行さんは、淳子さんに「次の透析はしない」と話した。
その日の朝、兄と姉を呼んだ。
「やるだけやった。同意してほしい」と頼んだ。沈黙の後、姉は「わかった」と答えた。
室谷院長はスタッフと話し合い、「本人の意思を受け入れよう」と判断した。

 翌日から正行さんは、見舞いに来た知人や親類に別れを告げた。透析をやめて5日目。
「気持ちは変わらない? 点滴、外そうか?」。
淳子さんが問いかけると、うなずいた。体につけられていたすべての管が外された。
淳子さんには、正行さんが「ああ、さっぱりした」という表情をしたように見えた。半日後、正行さんは眠りながら息を引き取った。(吉田晋)

 ■医師との対話不可欠

 日本透析医学会が3月にまとめた提言では、人工透析の開始と継続を決める手順を定めた。患者の意思が明らかで全身状態が極めて悪い場合、医師や看護師らのチームと共同で方針を決めるとした。
透析を始める際には、どのような状態になったら中止を希望するのか、「事前指示書」であらかじめ意思表示できることを患者に説明することも求めている。

 チームは、透析治療の長所や危険性、病状を患者が正しく理解できるように伝え、患者らの疑問にていねいに答える。
患者に判断能力がない場合は、本人による指示書があるか、家族が患者の意思を推定できれば、それに従う。合意内容を書面にし、透析をしなかったり、中止したりする「見合わせ」を決める。

 また、チームは患者の希望に沿ったケアをし、体や精神的な痛みを取り除く。患者が好きな場所で最期を過ごせるよう努め、みとりをする家族への支援もするとしている。

 こうした手順を決めた背景には、透析患者の高齢化がある。心筋梗塞(こうそく)や脳血管障害といった持病のある患者が増え、透析によって生活の質(QOL)がよくなるのかどうかの判断は難しくなっている。透析を見合わせる場合のルールがほしいという声を受け、5年前から学会が議論してきた。

 日本老年医学会が2012年に胃ろうなどの人工栄養の中止も選択肢とする指針をまとめており、透析医学会の提言はこれに続く形となった。

 終末期医療に詳しい会田薫子・東京大特任准教授は「本人のためであれば透析をしないことも選択肢との考えが広まる第一歩になる。ただし、方針の決定には、患者・家族と医療チームとの対話が不可欠だ。患者や家族は、遠慮せずに質問をして考えをまとめよう」と話す。(辻外記子)