(社説)臨床研究不正 患者を食い物にするな

2014.04.04

(社説)臨床研究不正 患者を食い物にするな
2014年4月4日朝日新聞
 

これは医師と製薬会社による患者への裏切りである。

 東京大学病院を中心にした白血病治療薬の臨床研究で、多くの問題が明らかになった。

 研究のデータ解析が製薬大手ノバルティスに大きく依存していた。患者の個人情報が医師から同社に流れていたうえ、判明した副作用の情報が国に報告されていなかった。

 同社がもうけた外部調査委員会の報告書と、東大病院による中間報告書を併せ読むと、医師と製薬会社がもたれ合う、節操のない関係が浮かび上がる。

 医師は同社が手がけた解析に基づいて、学会で自らの研究として発表していた。この会社内では患者アンケートの回収数などを懸賞つきで競っていた。

 倫理の欠如というほかない。何よりも、協力した患者への敬意がまったく感じられないのはどうしたことか。患者は薬の販売促進や医師の安易な業績づくりのためにいるのではない。

 ノバルティスはきのう、この件で社長更迭などを発表した。

 そもそも同社は、高血圧治療薬ディオバンの臨床研究をめぐる不正の渦中にあった。

 医師が主導する臨床研究への社員の関与を禁じる。そんな再発防止策を公表した裏で、別の不正を続けていたのだ。社長の更迭は当然の処分であろう。

 ノバルティスも東大病院も、ともに調査をさらに徹底し、結果を公表しなければならない。

 深刻なのは問題が氷山の一角ではないかと思われることだ。

 東大病院の研究代表者は、同社の白血病薬のアドバイザーを務めていた。今回の臨床研究が計画されてから、その代表者の所属科は同社から計800万円の寄付金を受けていた。

 東大病院だけでなく、研究に参加している22の医療機関のうち、10施設に奨学寄付金が提供されていた。一部の施設からは露骨に要求があったという。

 臨床研究を販売促進の道具にしている製薬会社は、ノバルティスのほかにも少なくない。

 背景には、医療機関が製薬会社によりかかっている問題がある。
臨床研究を独自に進める資金もマンパワーもなく、さらに法的な規制も弱いから、製薬会社との癒着が生じるのである。

 日本学術会議は改革案を提言している。
大規模な臨床研究は官民でプールした資金で透明性をもって実施する案などだ。厚生労働省も法規制の強化を検討している。

 薬のよりよい使い方を見つけるうえで、臨床研究は重要である。社会が信頼できる体制をつくることが急務である。