ノバルティス日本法人社長が辞任 臨床研究不正受け 「日本、患者より医師を優先」

2014.04.04

ノバルティス日本法人社長が辞任 臨床研究不正受け 「日本、患者より医師を優先」
2014年4月4日朝日新聞
 

製薬大手ノバルティスは3日、スイス本社のデビッド・エプスタイン社長が東京都内で記者会見し、日本法人の二之宮義泰社長ら経営陣3人の辞任を発表した。後任はいずれも外国人で、新社長はスイス本社のダーク・コッシャ氏。

 エプスタイン社長は、臨床研究での不正行為が相次いだ背景に「患者より医師を優先する」との日本特有の慣行があったと指摘した。

新経営陣は、使途を定めず大学などへ提供する奨学寄付金も「日本特異」とし、すべて一時的に停止した。
問題のあった社員数人を解雇したという。

 スイス本社は、白血病治療薬タシグナの臨床研究で社員が患者データを不正に入手し、プライバシーを侵害した可能性があることを問題視した。

 さらに、製薬企業は自社の医薬品で重い副作用が出たと分かった場合、国に報告することが薬事法で定められているが、報告対象となる可能性がある患者が2人いたのに報告していなかった。
エプスタイン社長は「受け入れられるものではない」と語った。

 スイス本社は日本法人の2011年以降の医師主導の臨床研究を対象に、第三者による調査を実施していることを明らかにした。
エプスタイン社長は「他にも問題が出てくる可能性がある」と語った。

 (今直也)

 ■新経営陣「奨学寄付金、特異な慣行」

 エプスタイン社長は3日の記者会見で、「日本の臨床研究の評判に影響を与えたことを深く認識している」と謝罪。
日本法人社長の交代理由を「社内カルチャーの変化が思った速さで進んでいない」と述べた。

 ディオバンの問題が発覚後、社内で法令順守の徹底などをはかる研修を昨年11月に実施。
しかし、タシグナの臨床研究をめぐる、社員による不適切な関与が12月まで続いた。
スイス本社はこの点を重視した。

 会見では、日本の多くの製薬会社が行ってきた大学などへの奨学寄付金の提供にも言及。
日本法人の持ち株会社の新社長に就任したマイケル・フェリス氏は「特異的な慣行」と指摘した。

 厚生労働省幹部は「社長らの引責辞任や担当者の解雇は当然のこと」と話す。
臨床研究に関する同省検討会座長の矢崎義雄・国際医療福祉大学総長は「費用を正確に算出せずにうやむやな状態で、日本は臨床研究を進めてきた。経理面の透明性を確保するシステムが必要だ」と指摘する。

 副作用があるのを知りながら報告しなかった事態を受け、厚労省は調査の上、業務改善命令なども含め処分を検討する。
安全対策課は「意図的に怠っていたとすれば遺憾だ」という。

 ■研究協力度を競争、賞品はコーヒー券

 タシグナの医師主導臨床研究を検証した社外調査委員会の調査報告でも、ノバルティスの患者軽視の姿勢が示された。

 白血病患者の副作用を調べたアンケート用紙などは本来は大学の研究事務局で保管するはずだが、社員がコピーして同社内に置いていた。
患者の承諾を得ていない情報流出にあたる。

 調査報告によると、同社員が積極的にかかわったのは、他の薬からタシグナに切り替えさせ、同社の売り上げを伸ばす狙いがあった。
ある社員はタシグナへの切り替えについて説明を受けるか否かを忘れずに確認させるアンケートを医師に渡して、切り替えの促進を図っていた。
さらに、コーヒーチェーン店のカード(9千円分)や会食代(計2万5千円)を賞品として、白血病臨床研究への協力度を社員が競い合っていた。

 医師と製薬企業の密接な関係を示すのが日本独自の「奨学寄付金」だ。
企業から大学に使用目的を限定せずに提供する。
一般には研究費や学会参加費などに使われるが、これまでは寄付した企業の薬に関する臨床研究費にも使われていた。
データ操作が問題になったディオバンの臨床研究ではノバルティスから5大学の関係研究室に計約11億円の奨学寄付金が入っていた。

 ■なれあい防止へ業界自主ルール

 日本の医薬品市場は約10・6兆円で、米国に次いで世界2番目の規模。
超高齢社会に加え、高価格の新薬を好む患者が多いことも製薬会社にとってはプラスだ。
世界2位の売上高を誇るノバルティスグループにとっても重要な市場。
13年の日本法人の売上高は3261億円で、「ディオバン」などの高血圧の治療薬が4割を占める。

 「ディオバン」の不祥事で、昨年10月から日本の業界団体である日本製薬工業協会(製薬協)の会員資格は停止となっている。
ただ、製薬協は臨床研究を巡る製薬会社と医療機関のなれあい関係はノバルティスだけでなく、業界共通の問題と認識しており、今年3月、透明性を高める自主ルールをつくる方針を表明した。製薬会社の社員がデータ解析など研究の中立性を危うくする行為はしないことなどを盛り込む方向だ