(天声人語)入居待ちの52万人

2014.03.27

(天声人語)入居待ちの52万人
2014年3月27日 朝日新聞
 

同じことのようでいて、順番しだいで印象が変わるから言葉はこわい。

たとえば、人を評して「実直だが、仕事が遅い」と「仕事は遅いが、実直だ」ではずいぶん違う。

いい言葉で締めてもらえば株は上がるし、悪い言葉なら逆になる

▼ある意味、人の一生も似ていよう。
功成り名遂げた人生でも、終わり方しだいで幸不幸の彩りは変わる。逆もまたしかり。

老境に入って、ふさわしい尊厳を保つことは、人が生きるうえで疎(おろそ)かにできない


▼52万人という数字が、きのうの紙面で目にとまった。
特別養護老人ホームへの入居待ちのお年寄りだという。4年前より10万人増えて、より切実な「在宅で要介護3以上」は15万人を超す。

困っている人が、終(つい)のすみかにたどり着けていない

▼昨今は「待機」といえば児童だったが、じきに団塊世代が75歳を超えていく。家族や地域は揺らいで久しく、蓄え不足や病気など、それぞれに事情を抱えて老いを歩む。

実らせてきた人生が、終幕の境遇で暗い印象に染まるなら、つらいことだ

▼介護や医療ばかりではない。
独居のお年寄りをさいなむ孤独感は地域を問わずに影が濃い。
それが万引きやアルコール依存の温床にもなっている。思いがけず晩節を汚す人も、少なくないと聞く

▼シェークスピアの劇にこんなせりふがあった。〈終わりよければすべてよし、終わりこそつねに王冠です〉(小田島雄志訳)。

公助と共助と自助。生きることを支える網と人同士のつながりづくりが、待ったなしだ。