[論点]東北に医学部新設 医療変える「二つの道」 伴信太郎氏(寄稿)

2014.03.06

[論点]東北に医学部新設 医療変える「二つの道」 伴信太郎氏(寄稿)
2014.03.05 読売新聞


 政府は、東北地域に医学部の新設を認める方針を決めたという。
新たな医学部の誕生は30年以上なかったことだが、私はこの決定に対して無条件に賛成することはできない。医師不足の解消策としては既に、全国で相当な規模の定員増が行われているからだ。

 日本の大学医学部と医大の入学定員は2008年度から増加が図られ、現在はそれ以前と比べて約1400人も増えている。
これは13~14の医学部が新設されたと同等の規模で、医師養成数の拡大が着々と実施されているということだ。

 もちろん一人前の医師が育つまでには10年近く要するため、いまだ医師不足感は解消してはいないものの、人数の面では遠からず充足していくだろう。

 こうした状況でなお、医学部を新設するからには、定員増とは異なる理念が必要だ。
東日本大震災の被災地復興の一環といった理由だけでは不十分に思える。

 このような観点から、特徴ある医学部新設の可能性を二つ提案したい。

 一つは徹底的に地域を志向する医学部である。
日本は急速な高齢化に直面しており、地域におけるヘルスケアシステムの構築が急務だ。
必要とされるのは、高齢者が住み慣れた土地で、安心して生活を続けられるような保健・医療・福祉・介護・生活支援の連携体制である。
その構築に貢献しうる医学部教育のニーズがますます高まっている。

 地域医療の第一線で診療に従事している人を教員に登用し、現場での診療のやりがいと喜びを伝えていく医学部ならば、少なからぬ医学生が地域医療を志すに違いない。

 さらに、そうした地域医療志向の医学部では、約2年の臨床実習もその地域内で行う。大学病院は持たずに、地域の第一線で診療を担当している病院・診療所で臨床実習する。
この結果、保健・福祉・介護など、さまざまな職種の人たちとチーム医療の実践を経験できるだろう。

 特徴的な医学部を創るためのもう一つの道は、世界で通用する医師養成を徹底的に目指すことだ。

 日本の医学教育もまた、「ガラパゴス化」しており世界標準に届いていない面がある。
臨床実習前の教育は全て英語でやり、実習の多くも海外で行うような教育課程を導入する。世界レベルの医師をどんどん輩出するには、それくらいの医学教育が必要だ。

 医学部の新設をより意義あるものにするためには、他にもアイデアはあるだろう。
だが、多くの医療関係者がまず必要性を感じているのは、徹底的に地域密着にこだわる医学教育か、あるいは逆に、徹底的にグローバルな世界をめざす医学教育ではないか。

 仮にそのどちらでもない医学部が新設されるのであれば、結局、既存の医学部と同じようなものになってしまい、既に行われている医学部の定員増と変わらないことになる。

 新たな医学部は、日本の医学教育の在り方に新風を吹き込めるのか。その問いに、政府が確信を持ってうなずいてくれるかどうか、見極める必要があろう。


 ◇ばん・のぶたろう 日本医学教育学会理事長、名古屋大学大学院医学系研究科教授。著書に「21世紀プライマリ・ケア序説」など。61歳。