短期保険証 保険料、払いたくても 報われぬ国 負担増の先に

2014.03.04

短期保険証 保険料、払いたくても
報われぬ国 負担増の先に
朝日新聞 )
2014年3月 3日
 
 帰宅を急ぐ会社員らで混雑し始めた夕方、東京のJR新宿駅前でショウタ(23)はせわしなくポケットティッシュを配っていた。

 「保険証? 持ってない」。
鹿児島県の高校を卒業後、上京して機械メーカーの社員になったが、仕事になじめず、1年ほどで辞めた。公的な医療保険は会社の健康保険に入っていたが、今は国民健康保険だ。

しかし、アルバイトをかけ持ちして稼ぐ月20万円ほどは家賃や生活費に消え、保険料は払っていない。
「今は若いから。いずれ必要だから、25歳ごろには正社員に戻りたい」

 能登半島にある石川県七尾市に住む男性(59)は昨年夏、みぞおちに痛みを感じて病院へ駆け込んだ。
「胃がん」と告げられた。

 窓口に出した国民健康保険証の有効期間は13日しかなかった。保険料を長く滞納してきたため、普通の1年間有効の保険証はもらえず、保険料の一部として千円ほど払って市から渡された「短期保険証」だ。

 手術などで数十万円。病院から医療費の自己負担を軽くする制度を教えられ手続きしたが、通らなかった。「生活保護に入れば無料になる」ともアドバイスされ、やむなく申請した。

 バブルのころ、9人の職人を抱える親方として建設作業を指揮していた。
だが、バブル崩壊で仕事がなくなり日雇いなどで暮らすうち、50歳前から保険料を滞納するようになった。

 久々に保険証を手にしたのは3年前にあばら骨を折った時だ。
市に相談すると短期保険証を渡され、その後は必要な時に千円ほど払って短期保険証をもらい、診察を受けてきた。
「若い時は病気もけがもしなかったからなあ」。男性は「無保険」の苦労を背負う。

 日本はすべての国民が公的医療保険を使って治療を受けられる「国民皆保険」の国だ。だが、保険料を払えずに皆保険制度からこぼれ落ちる人が相次ぐ。


■実家に頼む

 昨年8月、名古屋市の個室ビデオ店で働く男性(42)は、胆囊(たんのう)炎で緊急入院した。
国民健康保険を使おうと区役所に相談すると、長く保険料を滞納しているので過去2年分の半分を支払わなければ短期保険証も出せないという。
仕方なく、実家に頼んで工面し、有効期間が1カ月の短期保険証を受け取った。

 大手企業の正社員として17年間働いたが、離婚などをきっかけに辞めた。
その後は派遣社員としてシャープやデンソーなどの工場で製品の箱詰めをしてきた。
それも2008年秋のリーマン・ショックで辞め、個室ビデオ店で働き始めた。

 派遣社員は原則として、労働時間が週30時間以上あれば派遣会社が健康保険や厚生年金に入れなければならない。
だが、短時間の仕事が多くて対象にならず、国民健康保険や国民年金の保険料も払わなかった。