(診療報酬 何が変わる?:下)精神科、病院から地域へ 専門職チーム、自宅訪ね支援

2014.02.22

(診療報酬 何が変わる?:下)精神科、病院から地域へ 専門職チーム、自宅訪ね支援
2014年2月22日 朝日新聞


精神科医療の現状は?/今回の診療報酬見直しのポイント
 今回の診療報酬改定で光が当たったのが、精神科医療だ。

 日本には精神科のベッドは約34万あり、人口あたりで先進国平均の4倍近くになる。1年以上、入院している患者は約20万人もいる。

 各国で入院の定義などに違いがあるとはいえ「病院から地域中心へ」という世界的な潮流にうまく乗れていない状況は否定しがたい。

 原因の一つは、内科や外科などと比べた精神科の報酬の低さだ。医師の配置が一般科の3分の1でよいという特例もある。これだと十分な治療ができず入院は長引いてしまう。

 改定では、短期集中で治療する病棟では一般科並みに医師を増やせるよう報酬が上乗せされた。ただ、これでも一般科並みになる精神病床は全体のごく一部とみられる。

 退院後に戻る地域の受け入れも大きな問題を抱えている。

 入院が長引くと、家族や職場、地域とのつながりなどの生活基盤が失われがちになる。治療は終わったのに病院にしか居場所がない。そんな入院患者が全国で7万人いると厚生労働省が04年に推計した。

 今回、精神障害者が地域で暮らすための条件整備に報酬がつく。カギを握るのは、専門職の活躍だ。先駆的な現場を見てみた。

 「調子が悪かったとき集中的にサポートを受けられなかったら、また入院していたはずです」

 30歳代の女性は振り返る。幻聴など重い統合失調症に苦しみ、5回の入院歴がある。だが9年前から、作業療法士(OT)の足立千啓(ちひろ)さん(40)ら3人のチームが支援を始めてからは、一度も入院していない。

 足立さんらは、週1~3回の訪問で生活の悩みを聞きながら、家族とともに解決策を探す。外出に付き添ったり、就労を手伝ったりしながら、利用者の力を引き出すことに重点を置く。

 所属は、千葉県市川市にある「訪問看護ステーションACT―J」。2003年から、福祉や医療のサービスを障害者の自宅に届ける「アウトリーチ」に取り組んできた。OTのほか看護師、精神保健福祉士(PSW)あわせて11人、近くの精神科病院の医師1人で、77人の利用者を支援する。

 回復は一直線ではない。症状の悪化時には訪問の回数を増やし、休日でも何度も電話をかける。医師が同行し薬の調整を行うこともある。

 一方、病院では入院患者が早く地域に戻るため、精神保健福祉士の役割が注目され始めている。

 和歌山県九度山町にある紀の郷病院(120床)は院内にPSWを4人配置している。

 その言動は「医師の指示待ち」とはほど遠い。地域連携室長の土井久宗さん(34)や病棟主任の前田教雄(たかお)さん(33)が会議で「この患者さんは、退院への意欲が高まっています」と自分の判断を伝え、住まいの確保など具体的な準備を主体的に進めるのはごく普通の風景だ。

 看護師、栄養士、薬剤師らと情報を共有し、患者の状態を細かく評価し、対応策を積み重ねる。

 この結果、長期入院が多い療養病棟(60床)では3年かけて、退院する患者の数を年10人から37人にまで押し上げた。

 専門職が主体性を発揮する文化を奨励してきたのは、ベテラン精神科医の田中敬造理事長(68)。「医師よりも患者に接する時間が長く、たくさんの情報を持っている」と評価する。「まず患者がどんな生活を望んでいるのか知る。医療は後からついていくぐらいでいい」

 (論説委員・浜田陽太郎)