一体改革で高齢化の負担増抑えよ

2014.02.17

一体改革で高齢化の負担増抑えよ

(社説・医療と介護を立て直す(上))効率追求し若者へのつけ回し断て 朝日新聞 2.16
 


1949年に生まれた最後の団塊世代がことし65歳になる。総人口に占める高齢者の割合は一段と高まる。
日本人が長命になったのは喜ばしいが、それは医療・介護サービスを旺盛に消費する層が劇的に増えるのを意味する。

 国民医療費と介護保険サービス費を合わせた額は、足元で年50兆円を突破し、国内総生産(GDP)の10%を超えたもようだ。


GDPの10%を突破


 アベノミクスは成長路線への回帰を追求しているが、医療・介護費の膨張ペースはもっと速い。
日本経済新聞社は2010年3月に公表した改革提言で、医療・介護費の合計がGDP比10%を超えたときは、抑制策をとるよう求めた。今がそのときである。

 しかし制度が内包する無駄を省き、サービス提供を効率化させ、医療・介護費が膨れあがるのを抑える意欲は与党の自公両党、厚生労働省ともに薄い。
4月の消費税増税が社会保障費のやり繰りをいっとき楽にすることも、改革への意欲をそいでいる。

 効率化の飽くなき追求こそが制度の持続性を高め、若い世代の保険料や税負担の増大をくい止める抜本策である。
政府・与党はタガを締め改革にまい進してほしい。

 1人あたり医療費は現状、次のようなものだ。
生涯に消費する医療費は男2359万円、女2609万円に達する。
11年度は75歳以上の後期高齢者が92万円を使ったのに対して現役世代は20万円だ。

 負担・給付の世代間格差が浮き彫りなのは、年金と同じ構図だ。安倍政権は4月から70代前半の窓口負担を法定の原則20%にする。
しかし70歳になる人から順に適用するので、すべての対象者を20%にするのに5年の歳月を費やす。
法の定めどおり全対象者を一度に20%にするのが筋だった。

 13年末の財務、厚労両相の閣僚折衝を経て政権は診療報酬を14年度に0.1%増額する。
これは消費税増税で病院・診療所の仕入れ費がかさむ分の手当てを含む。具体的にどう手当てするか。
厚労相の諮問機関、中央社会保険医療協議会は初診料を120円、再診料を30円上げるよう答申した。

 初再診料という基本料金の引き上げは、すべての患者にその分が転嫁される。
企業の健康保険組合や市区町村が運営する国民健康保険の給付もその分、増大する。

 これは本来、消費税がかからないはずの保険診療費に消費税を課しているのと変わりない。
ならば診療報酬を課税対象にして患者や健保運営者に税の負担意識をもたせるほうがすっきりするのではないか。
15年10月に予定している再増税時の検討課題にしてほしい。

 政権は14年度に人口高齢化に即した病棟再編を促すため、国と地方自治体の分を合わせ900億円強の基金をつくる方針だ。
財源は消費税収と看護師養成などに使っていた一般財源を充てる。

 急性期の患者に対応する病床は減らし、慢性期対応の病床を増やしたり在宅医療を拡充したりするという。


基金ばらまき排せ


 しかし政府や自治体がカネを配れば医療の提供体制がすんなり変わるとは考えにくい。
医療法人などが運営する民間病院に高度な急性期医療を担いたいという意欲をもつ経営者が少なからずいるなかで、この基金が実効を上げられるのか。

 数ある官製ファンドと同様に、基金を単なる病院へのばらまき原資にしてはなるまい。

 これから著しく増える後期高齢者のなかには慢性疾患をかかえ、いくつかの病気を併発している人が少なくない。治療より介護が必要な人も増えている。

 その観点から、首相官邸の社会保障制度改革国民会議が昨夏、病院完結型の医療から地域完結型の医療への移行を提言したのは的確だった。
問題はその方法だ。

 日本の患者は大学病院など設備が整った病院への志向がつよい。
そうした病院は重篤な急性期患者の治療に専念するのが本来の役割だが、だれもが行きたい病院にかかれる自由アクセス制がその発揮を阻んでいる面がある。

 そうした弊害を減らすには、どんな病気もひと通り診られる家庭医の養成を急ぐのが有効である。

 保険財政、提供体制の両面で推し進めるべき医療改革は山積している。その行程を明確にするのが政府・与党の責務である。
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一体改革で高齢化の負担増抑えよ 医療と介護を立て直す(下)
2014/2/16朝日新聞
 

介護が必要になりやすい75歳以上の高齢者は2025年には約2200万人に増える。介護費用の膨張をいかに抑え、持続可能な制度にしていくか。
国会に提出された医療・介護の改革法案はその一歩だが、踏み込みは足りない。

 法案は利用者の負担を増やすことが大きな柱だ。1割に据え置かれてきた自己負担の割合は、所得の多い人は2割になる。
低所得でも資産があるなら、特別養護老人ホーム入居時の補助をなくす。


「2割」の効果は限定的


 だが、財政への寄与度はわずかだ。厚生労働省の試算では、65歳以上の人が支払う保険料を抑える効果は2割への引き上げなどで月39円分、特養補助の見直しと合わせても計75円分でしかない。

 経済的に苦しい人への配慮は必要だが、2割負担の対象範囲を広げるなど、さらなる見直しが必要ではないか。
現在は40歳となっている徴収開始年齢の引き下げや、保険料の引き上げなども選択肢だ。財源なくしてサービスはない。納得できる分担のあり方を真剣に議論する時期にきている。

 もちろん、より効率的にサービスを提供し、高齢化のコストを抑制することは欠かせない。

 比較的軽度の「要支援」の人への訪問介護と通所介護を、全国一律のサービスから市町村が独自に内容を決める事業に変えるのは、その一歩だろう。

財源が介護保険から出るのは同じだが、ボランティアなども活用すれば費用の増加を抑えられる。

 だが、初期の段階から専門家の支援が必要なケースもある。丁寧な対応をしなければ状態を悪化させかねない。
認知症への対応を含め、高齢者への窓口となる地域包括支援センターの役割がより重要になる。

 医療と介護をより一体的にとらえ、両者の連携により在宅での生活を支える仕組みを整えることもカギを握る。

 高齢者をいたずらに病院や介護施設で受け入れてばかりでは、膨大なコストがかかる。
できるだけ長く自宅で暮らしたいという高齢者の願いにも反する。それぞれの人の状態に応じながら「入院から介護へ」「施設から在宅へ」の流れを促す工夫が必要だ。

 改革法案では、多額の公費が必要な特別養護老人ホームへの新規入居は原則、介護の必要性が高い人に限ることが打ち出された。
だが現状では、在宅での生活を支えるサービスは十分とはいえない。

 在宅医療や訪問看護、介護や生活支援サービスなどの体制整備を急がなければならない。
なかなか進まない「24時間対応」をどう増やすかなど課題は山積みだ。

 独り暮らしや夫婦だけの世帯も増えている。高齢者に適した住まいを増やしていくことも重要だ。

 なにより大事なのは、高齢化社会を支える核となる人材をどう育成、確保していくかである。

 例えば25年には、介護職員は現在の1.5倍の人数が必要とされているが、離職率が高く、確保は容易ではない。
処遇や職場環境の改善を進め、働き続けやすくすることが欠かせない。介護事業所の経営を安定させるうえでは、保険外のサービスを育てていくことも大事になるだろう。


外国人材の拡大急げ


 海外の人材をもっと受け入れることも必要だ。

 経済連携協定に基づき看護師、介護福祉士候補者の受け入れが始まって何年もたつが、まだまだ数が少ない。日本語の壁を低くするなど、定着への支援を続けたい。技能実習制度の介護分野への拡大も検討する必要がある。

 看護師の活躍の場もいっそう広げていく必要があるだろう。今回の改革法案では、医師が事前に示した手順書に従って、脱水状態の患者への点滴など特定の医療行為を行う看護師への研修制度が創設される。

指示書の範囲内なら、その場でいちいち医師の判断を仰がなくていい。在宅医療を進める支えにもなる。

 患者の安全が大切なのはもちろんだが、制度の具体的な検討が始まってからすでに4年近くがたつ。
看護師の能力を高めて、委ねられるところは委ねたい。

 高齢化への対応は総力戦だ。
医療は医療、介護は介護、といった縦割りの発想では乗り切れない。
改革法案はスタート地点にすぎない。論点は多様だ。審議が不十分になっては将来に禍根を残す。