(社説)精神科医療 病院と地域の溝うめよ

2014.01.24

(社説)精神科医療 病院と地域の溝うめよ
2014年1月24日朝日新聞
 

精神疾患で入院している患者は日本に約32万人。入院患者全体のほぼ4人に1人にあたる。

 そして年間2万人が病院で人生を終える。
何年も入院生活を続け、年老いた統合失調症の患者も多いとみられる。

 こんな状況をいつまでも放置しておくわけにはいかない。

 病院から地域へ。

 日本の精神科医療に突きつけられてきたこの課題について、厚生労働省が近く新たな検討会を立ち上げる。

 議論の中心テーマは、既存の精神科病院の建物を居住施設に「転換」して活用するかどうかである。

 日本には精神科のベッドが突出して多い。人口あたりで見ると、先進国平均の約3・9倍になり、入院期間も長い。

 厚労省は10年近く前、大きな方向性を打ち出した。

 入院は短く、退院後は住みなれた地域で、訪問診療や看護、精神保健の専門職に支えられて暮らす――。

 しかしこの間、入院患者の数に大きな変化はない。改革の歩みはあまりに遅い。

 背景には、精神科病院の9割が民間という事情がある。単にベッドを減らせば、入院の診療報酬に支えられてきた経営が行き詰まる。
借金は返せなくなり、病院職員も仕事を失う。

 そこで病院団体側は、病院の一部を居住施設に転換できるよう提案し、国の財政支援を要望している。

 これに対して、地域への移行を望む患者や支援者は「看板の掛け替えに過ぎず、病院が患者を囲い込む実態は変わらない」と強く反発してきた。

 この対立の構図に、いま変化が起きている。患者の退院と地域移行の支援で実績を上げてきた団体が、「転換型」の議論に意欲を示しているからだ。

 病院のままでは、入院患者に外部の専門家からの支援を届けにくい。
居住施設になれば、患者に接触してその要望を聞き取るのが容易になり、本格的な地域での暮らしにつなげやすい。そんな考え方が背景にある。

 むろん制度設計や運用次第で「看板の掛け替え」に終わる危険性も否定できない。反対する側が抱く不信感の源がどこにあるのか、丁寧にひもとく作業が大前提となる。

 新年度の診療報酬改定でも、退院促進や在宅医療を充実させる方向が打ち出された。
これを追い風に、病院中心から地域中心への流れを加速させたい。

 病院と地域の溝を埋め、患者が元の生活に戻りやすくする知恵を今こそ絞るべきだ。