<地域医療 明日を見つめて>第1部 新たな風*3*誕生を支える*産科医不足解消 道半ば

2014.01.06

<地域医療 明日を見つめて>第1部 新たな風*3*誕生を支える*産科医不足解消 道半ば
2014.01.03 北海道新聞 


 希望と、かすかな緊張を感じて迎える新年だ。
檜山管内厚沢部町の主婦村松由美さん(25)は、妊娠7カ月。「無事に産んで、次に続く人に安心してもらいたい」と、おなかにそっと手を当てた。

 今春、車で10分ほどの道立江差病院で、第3子を出産する予定だ。
同病院は産婦人科医を十分に確保できず、2007年から分娩(ぶんべん)の受け入れを休止しているが、今年3月に再開する。村松さんは再開後の分娩「第1号」になる見通しという。

*初産受け入れず

 長女(3)と長男(2)を、函館の病院で産んだ。

60キロの道のりを車で通院したが、長女を身ごもっていた09年12月、凍結路面でスリップした。
車は回転し、おなかにシートベルトがぐいっと食い込んだ。
「赤ちゃんは大丈夫?」。胸の鼓動が鳴りやまなかった。この経験から、道立江差病院の分娩再開を知り、すぐに予約した。

 道内21の2次医療圏のうち、道立江差病院がある「南檜山」は唯一、地元でお産ができない空白地区だ。

高橋はるみ知事は自ら札医大に出向き、「一日も早く、分娩できる態勢で産婦人科医を派遣してほしい」と、島本和明学長らに迫った。

 この結果、常勤医1人が新たに派遣されることになり、空白地区の解消が決まった。

ただ、お産は複数の常勤医での対応が望ましいとされ、道立江差病院は3月以降も、初産の妊婦を受け入れることはできない。
お産の経験がある妊婦よりも、リスクが高いという。

 札医大の設置者である道のトップが強く働きかけても、分娩を完全に再開させられない現実。
産婦人科医の不足はそれほど深刻だ。

 産婦人科医は他の診療科医に比べ、お産で夜も呼び出されるなど勤務が厳しい。
トラブルで訴訟になる可能性も高く医学生から敬遠されがちだ。
こうした状況の改善を目指し、北大と関連病院の産婦人科医が08年、一般社団法人「ウインド(女性の健康と医療を守る医師連合)」を立ち上げた。

 ウインドは北大産婦人科医局に代わり、所属する医師を大学と関連病院で教育し、医師を地域に派遣する役割を担っている。現在158人が所属している。

 派遣先は、教授や関連病院の産婦人科の責任者に若手医師を加えた30人の理事会で、話し合いによって決まる。
本人の希望をできるだけ尊重し、研修はさまざまな地方の病院を経験させるのが基本方針だ。

*労働環境に配慮

 かつては産婦人科に限らず、大学病院の医師の派遣先は教授がトップダウンで決めることもあった。
北大病院婦人科講師で、ウインドの幹事長を務める渡利英道医師(49)は「民主的な運営に改めることで、産婦人科を志す医学生を一人でも増やしたい」と話す。

 こうした取り組みは徐々に浸透し、ウインド内の医療機関で新たに研修を受ける新人医師は年平均5人。
設立前に研修した医師数の2倍ほどで推移している。ウインドの所属医師も発足当時と比べると、30人ほど増えた。

 ウインドは派遣先の病院に、産婦人科医の労働環境に配慮した時間外手当などを支給するよう働きかけている。

メンバーの一人で、釧路赤十字病院で研修する石塚泰也医師(31)は「夜間にアルバイト診療をしなければならないようなこともなく、待遇は恵まれている」と話す。

 昨年12月26日、石塚医師は三重県から里帰り出産に来た森田つぐみさん(34)のお産を無事に終えた。担当患者では年内最後の分娩。「元気な赤ちゃんを見ると、また頑張ろうと思います」。生まれたばかりの男の子の頬をなでた。

<メモ>

 2002年に430人いた道内の産婦人科医は、06年には359人まで減少したが、08年から増加に転じ、12年は390人。
増加した背景には、出産事故の際、赤ちゃんとその家族に補償金を支給する制度が創設されたことなどがあるとされる。

 一般社団法人「ウインド」も、医療事故が発生した際などの支援を打ち出している。
ウインド常任理事の水上尚典・北大教授(62)の提案で、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会が出産前後の標準的診療法「産婦人科診療ガイドライン」をまとめた。

 「ガイドラインができたことで、医師が最善を尽くしたかどうか、裁判でも客観的に判断されるようになった」と水上教授。
全国の産婦人科関連の医療訴訟件数は12年、59件と減少傾向にある。