核心リポート--01--膨張続ける調剤バブル 誰がツケを払うのか

2013.12.22

核心リポート--01--膨張続ける調剤バブル 誰がツケを払うのか 
2013.12.21 週刊東洋経済  
 
 
 
 核心リポート 
膨張続ける調剤バブル 誰がツケを払うのか 
規模の力で高収益となった調剤チェーン。だが、いびつな構造問題を抱える。 
 
 本誌:古庄英一 
 
  医薬品のインターネット販売解禁を盛り込んだ薬事法改正案が12月5日の参議院本会議で可決、成立した。 
 
  これにより一般用医薬品(大衆薬)のうち28品目を除く99・8%がネット販売できるようになる。 
 
 「禁じられたのはわずか28品目だけ。ほとんどの大衆薬が解禁されるのだからいいではないか」といった意見もある中で、楽天の三木谷浩史会長兼社長を筆頭とする解禁論者は猛烈に反発している。 
 
  その理由は、大衆薬のネット解禁を行った一方、医療用医薬品(処方箋薬)については薬剤師による対面販売義務づけを堅持する、という文言を附帯決議の中に盛り込んだため。 
 
この政治判断は、既得権益者である調剤薬局に配慮した結果ではないか、というのだ。 
 
  それというのも、処方箋薬の市場規模は大衆薬の15倍の約10兆円にも及ぶ。 
 調剤薬局大手やドラッグストア大手が薬剤師を大量採用して、店舗拡大とM&Aで業績を伸ばしている様子は、「調剤バブル」とも評される状況になっている。 
 
  大手調剤薬局が巨大化する現状を、日本医師会も問題視する。薬事担当の鈴木邦彦常任理事は「医薬分業で医療機関の薬価差益はほとんどなくなり、その利益は調剤薬局に移った。 
 
 調剤薬局は規模のメリットで利益が膨らむ、という分析結果が出ている。チェーン薬局に手厚い制度の見直しが必要」と政府審議会などの場で訴えている。 
 
  そもそも医薬分業は、医療機関が薬価差益で潤いすぎたという批判から、欧米の制度に倣って院内の薬局機能を分離した、国の政策だ。そこには膨張が見込まれる薬剤費の総額を抑制する目的が込められていた。しかし、今や処方箋薬10兆円のうち約7兆円が院外の調剤市場になっている(左ページ上図)。 
 
  調剤市場が1兆円を超えたのは、20年前の1993年のこと。 
その同じ年に旭川市で1号店を出した業界最大手のアインファーマシーズは現在、全国に約600店を展開し、調剤で年間売上高約1400億円、営業利益約130億円を叩き出す。 
 
  調剤大手各社の2013年度決算は、出店増による増収効果で軒並み利益拡大が続く。 
 今期は2年に1度の薬価基準引き下げによるマイナス影響がない点も追い風になっている。 
 
 年商3億の店が儲かる 
 
 調剤薬局は国が定める調剤報酬によって収入が決まる。調剤報酬は調剤技術料、薬学管理料、薬剤料、特定保険医療材料料からなる。 
これらには報酬点数が付けられている。薬剤料には薬価差が含まれており、医療機関や調剤薬局の経営を支えてきたが、近年では極めて小さくなっている。 
 
  また、営業努力にも報酬点数が付く。後発医薬品、長期投与、在宅患者、夜間・休日といった付加サービスへの報酬加算が認められているほか、患者に「お薬手帳」の作成や更新をさせれば、これも報酬加算される。 
 
  調剤報酬は、個人経営の零細薬局が存続できる水準(処方箋1日30枚程度)に設定されているとみられる。1人の薬剤師が扱える処方箋は1日平均40枚までとの規制も、零細薬局が取り扱う枚数30~40枚を想定しているとも受け取れる。 
 
  1日の取扱処方箋枚数に応じて薬剤師の人数を調整すれば、人件費、光熱費などコストをうまくコントロールすることで、利益が増える。 
 
  東京都心のある個人薬局は、複数の診療科が入居するビルを建てて医療モールを開設。 
 1階にある薬局が途端に儲かり出した。「利益が出すぎる。 
 赤字事業に多角化して節税を考えている」と言う。 
 
  業界のM&A動向に詳しい専門家は、「1店舗当たり年商3億円ぐらいの業者が最も儲けている」と見ている。 
 1日100枚の処方箋が集まる店舗を3~4人の薬剤師で分担するケースだ。 
さらに「年商が20億~100億円の地場のチェーンに対しては、大手がこぞって買収に名乗りを上げる」と打ち明ける。 
 
  調剤薬局が儲かるか儲からないかは、立地がすべてでもある。 
 立地がよければ、その繁盛ぶりは際立つ。横浜市郊外の医療モール1階にある調剤薬局は、近隣に大学付属病院もあり、社員とパート合わせて薬剤師9名が対応する大規模店だ。 
 多い月は5600枚の処方箋を取り扱う。 
 
  ここで働く事務スタッフの一人は、薬剤師が患者のために休む間もなく働く様子を横目に「繁盛ぶりに矛盾を感じることもある」と言う。 
 「毎日のように違う科に通院し、そのつど薬局に来て大量の薬をもらっている老人を見るたびに、病院のほうで何とかするべきと思う」。 
 
  処方箋がなければ調剤薬局は薬を出せない。処方箋を安易に書く医師側のモラルに問題があるというわけだ。 
 
  通院が難しい高齢者に配慮し、長期処方が認められている。結果として、「医師が処方しすぎて、薬が余ってしまう事態が起きている」(調剤大手幹部)。 
 
  薬を余計に売る、ということでは、他人に成り済まして睡眠薬などの劇薬を二重購入し、「それをネットなどで転売して利益を得る」(同)といった事件も後を絶たない。 
 早稲田大学商学部の土田武史教授は「現状のシステムでは、重複処方の問題は医師も薬剤師もチェックしきれない」と話す。 
 
  調剤バブルを増長する“薬漬け”の落とし穴は、いろいろなところにあるのだ。 
 
  そのバブルぶりが、最も表れるのが出店競争だ。 
 
  調剤薬局大手にとって、地域の中核病院の出入り口前に店舗を構えることこそが事業を拡大させる生命線。 
 
 病院建築に詳しい大手ゼネコン幹部は「薬局の出店は、外来患者の出入り口がどこになるかがカギ。 
 
これを聞き出そうと、不動産ブローカーはあの手この手で設計者に近づいてくる」と明かす。 
 
  こうした土地の先行取得に長じるのが、アインファーマシーズと規模で双璧の日本調剤。 
 
 同社は今年10月に、兵庫県の山間部・小野市に開設された北播磨総合医療センターに、非常識ともいえる高額な入札価格で出店したことが話題を集めた。 
 
 超高値落札の不思議 
 
  今年3月末の入札で、日本調剤は4・2億円で落札。わずか78坪の敷地しかなく、1平方メートル当たり約163万円で、市内住宅地の公示地価の数十倍の超高値だ。 
 
  正面玄関前に同じ土地面積の薬局がもう1軒あり、こちらの落札者は、日本保険薬局協会前会長(現名誉会長)の岩崎壽毅氏がオーナーを務める、地元大手の阪神調剤薬局。 
 落札額は日本調剤の約2・4倍の10億円だった。 
 
  北播磨総合医療センターは三木市と小野市の病院が統合するプロジェクトで、県下で6番目の規模となる総合病院。 
 事業収支計画では用地関連費を12億円と見積もっていた。つまりこの新築公立病院の土地・造成財源は、調剤薬局2社がすべて支払ったうえ、お釣りまであった、という計算になる。これは偶然なのだろうか。 
 
  日本調剤の創業社長は、三津原博氏。 
 
 前期の13年3月期は4割の営業減益だったが、有価証券報告書によれば「報酬等の総額」(子会社を含む)は5・9億円、12年3月期は6・5億円だった。国内屈指の高額所得者だ。 
 
  他の調剤大手社長は「一部オーナーの高額報酬が調剤薬局全体への批判を助長している」と不快感をあらわにする。 
 確かに、日本調剤は、日本保険薬局協会から脱退しており、「独断専行で業界からは孤立している」などと同業他社から揶揄され、批判の矢面に立つ存在だ。 
 
  だが、日本調剤や三津原氏個人を責めても問題の解決にはならない。 
 調剤薬局に大きな富をもたらす調剤報酬の仕組みそのものにメスを入れる必要がある。 
 
  財務省の財政制度審議会は、14年度の予算編成へ向けた建議で、調剤報酬体系の見直しの観点から、診療報酬本体部分をマイナス改定とすべきことを提言。 
 
 14年度の診療報酬改定へ向けた攻防が白熱している。医療費の増大、国の財政悪化という形で、国民が調剤バブルのツケを負っていることはもっと認識されるべきだろう。 
 
 [写真]薬剤師が安全性チェックを行う体制は不可欠だが、調剤報酬体系の抜本見直しは必須だ 
 
[図]調剤2強は、10年間で4倍の規模に 
 
[表]高額年収の上場調剤チェーン社長 
 
 <INTERVIEW> 
 
“医療は非営利”が大原則のはず。調剤大手はそれを忘れている 
 
日本医師会常任理事 鈴木邦彦 
 
  「医師はお粥(かゆ)をすすり、薬剤師はすき焼き三昧(ざんまい)」との発言(9月の日本薬剤師会学術大会での講演)で波紋が広がっている。 
 
  地域で家族経営的にやっているところは問題視していない。問題は、医療は非営利だという原則を忘れているかのような行動を取る巨大な薬局チェーン。 
 
 最近は目に余るようになってきた。 
 個人的な高額報酬も問題だと思うし、わずかな土地を10億円という高値で購入するような行為は、入札を行う自治体にも問題があるが、医療の一翼を担う者がやることではない。 
 医療の分野で営利企業がどんどん巨大化していく状況にあり、どうしても批判せざるをえない。 
 
 院内調剤を認めるべき 
 
 ──中小地場の調剤薬局は、薬価引き下げ、消費増税、高齢者負担増のトリプルパンチで存続が危うい。 
 一方で、買収で巨大化する大手がある。 
 
  院外調剤を推進するために、かなりの加算をつけてきたものの、全病院のうち3分の2に達してからは伸びが鈍くなっている。 
 
 院外の調剤薬局は「お薬手帳」などで稼いでいる。誰でもやれるようなことにインセンティブはいらないのではないか。 
 薬価など基準が下がって得をするのは大手のみ。このままでは、ますます大規模化していく。 
 
  私は、やはり院内調剤をやれるところは、中でやったほうがいいと思う。そのほうが、薬歴管理などをしっかりとやれる。 
 
 院内調剤は全体の3分の1くらいまで減っており、院外と同じことをやって頑張っている。 
しかし、格差があまりにも大きくなったので、(保険点数などで)是正するべき。もちろん、医療側もかかりつけ医が服薬管理を行うなど、いろいろと頑張らないといけない。 
 
  ──調剤大手の中には、勤務医にクリニックの設立を勧誘し医療モールを形成させている事例がある。 
 
  公立病院などが敷地内にわざわざ公道を通して調剤薬局を出店させるのは、医療機関が敷地内に調剤薬局を併設することが禁止されているからだ。 
 
ところが調剤薬局は、診療所を誘致したビルの1階に店を作ることができる。これは不平等だ。多機能のワンストップサービスというメリットを求めた日本型の診療所とは意味合いが違う。 
 
 院外調剤推進ということで放置されてきたが、これも見直しが必要だ。 
 
すずき・くにひこ 
 
医師で茨城県常陸大宮市の医療法人博仁会理事長