徳洲会に群がる政治家 徳田ファミリーvs.元金庫番の仁義なき争い

2013.12.16

徳洲会に群がる政治家 徳田ファミリーvs.元金庫番の仁義なき争い
2013.12.16 AERA


 本来なら、こんな文書が表に出るはずはなかった。
内部抗争の中で元「金庫番」が徳洲会に連なる人脈を暴露。

 医療改革の理想を掲げた男が築き上げた「王国」は、もはや崩壊の間際にある。

 (編集部 鈴木毅)


 徹底した「善人性」と「悪人性」が矛盾なく同居する--一代にして日本最大の医療グループ「徳洲会」を築き上げたカリスマ、徳田虎雄前理事長(75)は、そんな人物なのだという。

 自身の出身地である奄美群島・徳之島での極貧生活から、離島や僻地医療の充実を理想に掲げる一方、強引なまでに都市部への拡大をはかる。
理想実現のためには「殺人以外なら何でもやる」とまで言い切り、政治力を追い求める。目的が正しければ、どんな手段も正当化される。

 その二面性は、東京地検特捜部が公職選挙法違反容疑で強制捜査に踏み切った徳洲会事件の構図にも深く刻まれている。

 特捜部などが11月に虎雄氏の娘2人を含むグループ幹部6人を逮捕したのを皮切りに、警視庁が12月3日、元専務理事兼事務総長の能宗克行容疑者(57)を、グループ関連会社から3千万円を横領したとして業務上横領の疑いで逮捕。

その翌日、特捜部は、次女・スターン美千代容疑者(46)らを公選法違反容疑で再逮捕すると同時に、懸案であった虎雄氏の妻・秀子容疑者(75)の逮捕にも踏み切った。


 ●内紛の末、ケンカ両成敗

 よくある話だが、これらの事件が表面化したのは、ドロドロの内部抗争からだった。

 長らく虎雄氏の最側近として政界工作をはじめとする”汚れ仕事”を一手に担ってきた能宗容疑者は、徳洲会の元「金庫番」として、カネの流れのすべてを知り尽くす存在だ。ところが、10年ほど前に虎雄氏が難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患って以降、病院経営への関与を強める徳田ファミリーと対立。
昨年9月に事務総長職を解かれ、今年2月に懲戒解雇となりグループから追放された。

 「抗争に敗れた能宗氏は、一矢報いることを考えます。
事務総長として経営や実務を取り仕切ってきた内部資料を、ごっそり検察に持ち込んだのです。そして事件化したのが、虎雄氏の次男・毅衆院議員(42)が3選を果たした昨年12月の衆院選をめぐるカネの問題でした。

猪瀬直樹・東京都知事に現金5千万円を渡した問題が明るみに出たのも、ここが発端。
しかし同時に、ネタ元である能宗氏も逮捕してしまうあたり、検察はやはり冷酷ですね」(司法記者)

 選挙違反事件と横領事件。この同時並行する二つの事件は、いわば“ケンカ両成敗”なのだ。

 徳田ファミリーが能宗容疑者に対して抱いた疑惑は、億単位の使途不明金の着服や、暴力団との交際などだった。
帳簿や契約書類を徹底的に洗った結果、虎雄氏を失脚させ、グループ乗っ取りまで画策していた形跡があったという。

 「能宗氏の解雇は、ファミリーたちがそこまで気が付いて決断した。これによって最悪の事態は免れた」(徳洲会関係者)

 これに対し、能宗容疑者は疑惑を否定するために、1月29日に開かれた徳洲会内の懲罰委員会で、83ページに及ぶ反論書を提出した。
それは、使途不明金は私腹を肥やすためではなく、あくまでも政界工作のための表にできないカネだった、と暴露した文書だった。
そこには、こんなことが書かれている。

 〈平成8年(1996年)から全国的な選挙をした自由連合の選挙費用は、多くは徳洲会の関連会社が貸し付けて行われましたが、表向きの支出以外に、帳簿の出せない費用も多くありました。政治的な活動にはそのような資金が必要です〉


 ●「裏ガネ」と民主党人脈

 これは「裏ガネ」の告白以外の何物でもないだろう。自由連合は虎雄氏によって設立され、94年に政党になった。
その資金繰りに奔走したのが能宗容疑者だった。文書はこう続く。

 〈民主党を立ち上げる時に、徳田理事長は鳩山(由紀夫)氏などに億単位の現金を提供しました。

これは、その後すぐに、徳洲会の税金申告漏れ記事が新聞掲載されると返還されましたが、石原慎太郎知事にも億単位の資金提供がされており、かき集めたその資金の中には、税金から拠出された政党助成金も含まれており、他から現金を持ってきて穴埋めしました〉

 同様の内容は、懲罰委での証言記録の中にもあった。

 〈平成8年、10年、12年、13年と大きな国政選挙を行う中で自由連合の借金は恐らく87億、未払い利息を入れて100億となった。
(中略)あらゆる手練手管を使っていろんなところからここに金を集める。
当時、政治関係は私に一任されていた。場合によっては候補者まで私が選んでいた。当然、いろいろな金が動く。石原慎太郎さんにも億単位の金がいっている〉

 石原氏と虎雄氏は自他ともに認める「盟友」。鳩山氏は首相時代、沖縄の基地移設問題をめぐって虎雄氏と面会したことが記憶に新しい。

 能宗容疑者は2006年、国立国府台病院の払い下げをめぐっても、民主党人脈を使って動いた。
〈厚労省と強い関係のある国際医療福祉大学との出来レースが噂されていた〉ため、その阻止を狙ったのだ。

 間を取り持ったのは、虎雄氏と30年来の知人で、96年に鳩山氏らと民主党の創設に奔走した元衆院議員、高見裕一氏だった。


 ●医師会、政治との軋轢

 〈(高見氏は)民主党議員と強いコネクションを持ち、特に菅(直人元首相)、前原(誠司元外相)、仙谷(由人元官房長官)、枝野(幸男元官房長官)グループとの関係は特筆される〉

 〈(06年)5月から高見氏は行動開始し、まず5月16日、菅衆院議員に相談し、長妻(昭)衆院議員を使い、公正な入札が行われない疑念があるとの質問状を国会に提出(5月31日、6月12日)して牽制しました〉

 09年に民主党政権となり、能宗容疑者と高見氏のラインは、さらに強まった。

 〈医療の進歩のための政権党向け工作資金という視野に立って顧問契約を結びました〉

 〈折から、日本政府も「メディカルツーリズム」への支援体制の検討に入り、観光庁を内包する国交省がその中心になりました。

この政府の動きの裏には、国交省前原大臣に対し、徳洲会にプラスになるだろうと高見氏が強力にメディカルツーリズムを推進すべきだと膝をつき合わせて説いたことが極めて大きく影響しています。
(中略)前原氏が外務大臣になった際には、メディカルツーリズム構築へ向けた医療ビザ創設への働きかけも相当強力に行いました〉

 文書には、虎雄氏と亀井静香衆院議員の二十数年にわたる蜜月についても書かれている。

 虎雄氏がここまで政治にこだわるのにはわけがある。徳洲会の拡大の歴史は、日本医師会や政界との軋轢の歴史だからだ。

 虎雄氏の原点は小学3年のころ、深夜に突然、高熱に倒れた3歳の弟を亡くしたことにある。
以来、「生命だけは平等だ」「年中無休・24時間オープン」を理念として邁進してきた。


 ●TPPの生け贄

 都市部の病院で稼ぎ、僻地医療へまわす。
田舎を嫌う医者も、グループ内で数カ月ごとのローテーションで行かせる。これが徳洲会のシステムだ。

 ところが都市部に病院建設計画を立てても、各地の地域医療計画によって病床数は決まっている。
経営が圧迫される地元医師会は猛反発する。
自民党は、最大支援団体の一つである医師会の意向に沿って動く。
虎雄氏が自ら政界進出したのも、こうした勢力に対抗するためには政治力が必要だと考えたからだった。

 『トラオ~徳田虎雄 不随の病院王』の著者でジャーナリストの青木理氏が、こう語る。

 「医師会側からすれば、いきなり病院をつくって進出する徳洲会のやり方は強引で、地域の開業医は干上がり、逆に地域医療を壊すことになる。
それに選挙に対して露骨で、票集めにしか見えないという指摘は、そのとおりでしょう。

ただ、虎雄氏としては、それで何が悪いんだと言う。
能宗氏が惚れ込んだのも、既得権益をぶち壊すために猪突猛進する姿でした。
善も悪も混然一体の虎雄氏のような人間は、いまの世の中では認められなくなったということでしょう」

 そうして築いた「王国」も、いまや瓦解の一途。事件をめぐっては、こんな声も出ている。

 「結局、ほくそ笑んでいるのは医師会と安倍政権ですよ。
目下、交渉が進んでいるTPPでは、医療分野の開放が一つの論点になっている。
政府、医師会が考えているのは、徳洲会を米国への生け贄として差し出すこと。
徳田家がいなくなれば、グループはバラバラになり、そこを米国ファンドなどが買い取ることになるのでは」(自民党関係者)

 能宗ペーパーで名前の挙がった政治家たちは、どう答えるのか。事実関係を確認すると、

 「徳洲会から金銭的な面倒をみてもらったことはない」(石原事務所)

 「事実ではありません。迷惑なだけです」(前原事務所)

 「質問状など出していないし、徳洲会とも関係ない」(長妻議員)

 などと一様に否定した。高見事務所は、「このような状況でコメントできる状態でないので、時期がきたら整理してお話ししたい」と答えた。

 強引、カネに汚い、などと言われるが、徳洲会が離島や僻地医療に果たした役割は、否定できない。
逮捕前、秀子容疑者は知人にこう漏らしたという。

 「とにかく離島の医療だけは守らなきゃ。
そのためにやってきただけなのに。『王国』とか言うけれど、病院を拡大しようなんて考えたことない。
数が増えたのは結果。何も悪いことやってないのに、もし私が罪ならば法律が悪いんだわ」

 しかし、目的と手段が入れ替わってしまったならば、最初の純粋な理想も色あせて見える。