真相深層医師不足解消の突破口

2013.12.05

真相深層医師不足解消の突破口
医学部新設 三十数年ぶり解禁 若者誘い偏在是正へ一歩 (日本経済新聞 12・5)


 1981年から途絶えていた大学医学部の新設が再開する。
安倍晋三首相が震災復興の象徴として東北地方への設置を指示したのに続き、国家戦略特区での新設が現実味を帯びてきた。三十数年ぶりの解禁は、へき地などの医師不足を和らげる決め手になるだろうか。


 話は40年前にさかのぼる。列島改造を推し進めた田中角栄首相は、一方で73年に「福祉元年」を宣言し、年金増額や老人医療の無料化を一気に実現させた。

同時に一県一医大構想を打ち出し、閣議決定に持ち込んだ。医学部がない15の県にあまねく設置する計画だ。

 同年、まず山形大が医学部を設け、81年に1期生が入学した琉球大まで毎年のように医学部が誕生した。

構想が現実になると政府は一転、凍結に動く。

82年、中曽根政権は医師が増えすぎないようにする旨を閣議決定した。
2003年には文部科学相告示で新設の凍結を明示した。

大学の新設は教員、施設などの要件が整えば文科省が審査に入るが、医学部は申請さえ受け付けない門前払いを続けてきた。

 日本の医師数はどれほど少ないのか。
人口千人あたりでは2.2人と欧州各国の3~4人程度よりかなり少ない。半面、突出して多いのは病院・診療所の病床だ。

医師数を100床あたりで比べると16人となり、スウェーデンの約140人はもとより、独仏の40人台より際だって少ない。

 もうひとつの日本の特質が地域偏在だ。
ドイツは地域や診療科ごとの医師数に一定の枠を設けている。
日本は医師がどこに開業するか、どの診療科を名乗るかの2点が原則自由。
このため都市圏に集中しやすい。
この10年間にへき地などの公立病院が産科医療をやめたり、外科医や麻酔医の人手が足りなくなったりしたのは記憶に新しい。

 こうしてみると医師の養成枠を広げ、地域医療に携わる人材を増やすには医学部の新設は避けて通れない課題だ。

ところが政府は文科相告示を盾に新設計画をはねつけてきた。
一方で、今ある医学部の定員増は容認した。
全国の総定員は84年に8280人だったのを03年にかけて7600人程度に減らした。
その後は枠を広げ、13年は9040人程度に増えた。

 定員増でしのいできた背景には新設に反対する日本医師会などへの配慮があった。
医学部をひとつ増やすと教員として300人の医師が現場から引き抜かれる、などが医師会の主張。これは法曹人口の拡大に反対する日本弁護士連合会の見解に似ていないだろうか。


まず東北から


 いずれにしても、政府は医学部の新設容認へかじを切った。
真っ先に実現しそうなのは東北だ。
村井嘉浩宮城県知事が地元に定着する病院勤務医などを増やしたいと、首相に訴えたのがきっかけだ。
6県のどこにつくるかは知事間の話し合い待ち。調整に時間がかかれば、首相自らが候補地を絞り込むこともあろう。

 戦略特区は今国会での法案成立が第一歩。

首相が議長を務める特区諮問会議で「年明けに最初の特区が認定される見通し」(特区ワーキンググループ座長の八田達夫・大阪大招へい教授)だ。

すでに千葉県成田市や静岡県が医学部・付属病院の誘致に名乗りをあげた。
成田市は国際医療福祉大(栃木県大田原市)と連携し、空港近接を生かして海外の医師を招く計画だ。
医学生の学費は会社員世帯が無理なく払える水準に抑えるという。

 これらの計画について文科省は告示を守りつつ例外として扱う方針だが、省内には「新規参入を阻むような規制は本来望ましくない」(幹部)との声も出てきている。

 医学部の新設は医師偏在の緩和にどこまで有効か。

ある公立医大が在学生にアンケート調査したところ「医師は一定期間、過疎地勤務を義務にすべきだ」と考える割合は16%にすぎず、62%は反対と答えた。
偏在を和らげるには、単に医学部を新設するだけでなく、医療界をめざす若者を根付かせる工夫が必要だ。

 東北地方は一定年限の地元での勤務を条件にした学費減免や奨学制度が課題になる。
大学を公設民営にして私学助成だけでなく企業や自治体の寄付で財源を充実させるのも一案だ。
若き担い手を地域に定着させる試みが偏在解消に向けた突破口になりうる。


(編集委員 大林尚)