★論説★ 医学部の新設 医師の引き抜きは困る 2013年11月3日

2013.11.06

★論説★ 医学部の新設 医師の引き抜きは困る 2013年11月3日
岩手日報


 宮城県で大学医学部を新設する機運が高まっている。先ごろ3選された同県の村井嘉浩知事は選挙前、安倍晋三首相に直談判。
首相は「東北に新設する重要性は認識している」と応じたという。

 その指示を受けた下村博文文科相は早速、前向きに検討する意向を示した。
大震災の復興支援という意味合いがあるが、その大目的は言うまでもなく医師不足の解消だ。
実現すれば、地域医療の環境整備に朗報には違いない。

 しかし、医師不足は今、そこにある課題だ。仮に即決で新設されたとしても、医学生が医師として一人前になるには10年を要するという。
直面する医師不足解消へ、即効性は期待できそうにない。

 文科省が2009年に公表した各都道府県の地元医学部卒業者の「地域定着の動向」で提示された07年度卒業者の場合、東北各県がおしなべて40~45%にある中、宮城は25~30%と低さが際立つ。

 同県が新設を切望する背景には、そうした個別の事情も少なからず影響していると推察されるが、隣県としては、同じ医師不足の現場にあって違った「事情」もある。
医学部教員として病院などから医師が引き抜かれる結果、ますます環境が悪化するのではないかという懸念だ。

 日本医師会は、一つの医学部に教員となる医師が300人は必要と分析して新設に反対を表明。
本県医師会も同調している。
宮古市の山本正徳市長は「岩手の中から(医師を)引き抜かれては地域医療が立ちゆかなくなる」と達増知事に訴えた。
東北市長会も「東北の医師の採用を禁ずる配慮を」などとする特別決議を採択している。

 医学部新設は、医師の供給過剰への配慮から1979年の琉球大を最後に認められていない。
03年には文科省が新設しない方針を告示した。
裏腹に地方を中心に医師不足が顕在化。
同省は告示を維持しつつ08年度以降、既存医学部の入学定員を増やしてきた。

 12年度の入学定員は07年度比1366人増。
岩手医大は45人、東北大医学部も25人増えるなど、東北6県では190人増員されている。
この間にも医師不足が深刻化しているのは、それが絶対数だけの問題ではなく地域的偏在や診療科の偏り、勤務医不足など個別、具体的な事情による。

 医学部への入り口を担う文科省は、どこまで地域医療の現実を把握しているのか。
法曹人口拡大へ同省が設置を進めた法科大学院が、想定と異なる状況にあるのは教訓だ。

 東北復興への配慮はありがたいが、医学部新設への転換は、それが地域医療と国民生活にどう資するかという観点から、真に医療政策として吟味、検討されるべきだろう。