不妊治療、台湾が台頭 費用は米の2割 日本語通訳も

2013.11.04

不妊治療、台湾が台頭 費用は米の2割 日本語通訳も
2013年11月3日朝日新聞
 

台湾の複数の医療機関が、日本人向けに有償で卵子提供を始めた。
中国や韓国、米国からも患者が訪れ、新たな生殖補助医療の拠点になりつつある。

これまで日本の不妊夫婦は米国や韓国、タイなどに渡り、有償で卵子提供や代理出産を依頼してきた。
この10年、生殖医療をめぐる法整備の動きは止まっていたが、自民党は先月、検討チームを立ち上げ、法制化へ踏み出した。

 台北市の不妊クリニック・宏孕生殖医学センターは8月から、インターネット上で日本語による卵子提供の案内を始めた。
提供を受けて患者が払う治療費は、日本円で85万円。米国の500万円、タイの200万円と比べると、かなり低い。

 台北の不動産会社に勤める台湾人女性(25)は10月、卵子を提供するため、感染症の検査を受けた。

 「提供を決めた一番の理由は、お金です」

 病院が提供者に払う謝礼は、13個以上採れれば30万円だが、5個以下だと15万円。女性の月給は10万円台前半で、生活に余裕がないという。
「自分の卵子は『子ども』というよりは、『物』と考えている。いい人に使って欲しい」

 張宏吉院長は「日本では卵子提供を受けるのは難しいと聞く。
台湾は飛行機で3時間で費用も安く、需要は高いはず」と話す。

 台湾では2007年に施行された人工生殖法で、有償の卵子提供が認められた。
提供者は20~40歳の女性で、最高で約30万円の「栄養費」が受け取れる。
07年は205人、11年は318人と提供者は年々増加。10近い医療機関は、日本人向けに生殖医療に関する案内を始めている。

 台湾大学付属病院ではこの1~2年で、日本から2組の患者が卵子提供を受けた。
1組は双子を出産、1組は治療を継続中という。
病院が通訳も用意し、患者をサポートする。治療費は約90万円。

 提供者は血液型や身長、学歴、肌や目の色などを申告する。患者は提供者を選べず、医師が「患者に最も背景が似ている人」を選び、公的な審査を経て決定する。中国や韓国、米国からも患者が来ており、陳思原教授(産婦人科)は「現在も30人待ち」と話す。

 新竹市の送子鳥生殖センターでは日本人留学生2人が卵子を提供したという。

 また、代理出産も認める方向で、現在、法案を審議中だ。台湾生殖医学会の陳信孚・前理事長は「今後、台湾が東アジアの生殖医療の中心地になる可能性がある」と話している。(岡崎明子)

 ■日本の法整備、進まず

 日本の不妊夫婦が海外に渡る背景には、国内には生殖医療に関する法制度がないことがある。
このため、日本産科婦人科学会は、卵子や受精卵の提供を事実上、認めていない。

 生殖医療目的の海外渡航は当初、あっせんビジネスが広がる米国が唯一の選択肢だった。
だが、費用は代理出産で2千万~3千万円、卵子提供で500万円程度と高額だ。
03年ごろから韓国が新たな行き先に加わった。
しかし、韓国は05年、有償の卵子提供を原則禁止した。その後、費用が安いタイやインドに渡る人が増えた。

 厚生労働省の研究班は、海外で卵子の提供を受けて生まれた子どもは12年に少なくとも300人に上り、3年前の3倍に増えたと推計している。
提供を受けた国・地域は米国65件、タイ18件などが多かった。

 ただ、有償で卵子などを求めることは、人を生殖の道具として利用していることにつながる、との批判がついてまわる。

総合研究大学院大学の米本昌平教授(生命倫理)は「有償の卵子提供や代理出産は人体の売買に限りなく近い。生殖医療ツーリズムのどこに問題点があるのか、国として研究プロジェクトを立ち上げ議論すべきだ」と話す。

 生殖医療をめぐる法整備の動きはこの10年、止まったままだ。
厚労省が03年、卵子や受精卵の提供について、営利目的のあっせんを禁止した上で認めるほか、代理出産は禁止するとの報告書をまとめ、法制化を目指した。しかし、与党内で議論が深まらず、すぐに立ち消えになった。

 大半の先進国は、法整備している。卵子提供や代理出産は遺伝的な親と生みの親が異なるため、親子関係を法的にもはっきりさせることが重要になる。

 日本生殖医学会理事長の吉村泰典・慶応大学教授は「卵子提供の是非など議論はあるが、現に生まれてきている子どもがいる。法制化を急ぐべきだ」と話している。

 (阿部彰芳)

 ■自民、検討チーム立ち上げ

 「生殖補助医療に関心を持つ国民が少なく、当事者も隠している場合が多い。国家の問題として法律をつくってほしいという機運が生まれてこなかった」

 自民党の野田聖子総務会長は1日の会見で、感慨深げに語った。
小渕優子元少子化担当相や医師の古川俊治参院議員と働きかけ、党に10月、「生殖補助医療に関するプロジェクトチーム(PT)」が設置された。
野田氏が一昨年、米国で卵子提供による体外受精を受けて出産しているだけに「これから(議論が)加速していくのではないか」と生殖補助医療の制度化に期待する。

 PTは月内にも初会合を開き、条件つきで他人からの卵子提供や代理出産を認める法案を、来年の通常国会に議員立法で提出することを目指す。
営利目的での卵子提供や代理出産、あっせんなどは禁止する方向で調整する。
生殖医療による親子の関係を規定する民法の特例法案も検討する。

 ただ、伝統的な家族のあり方の堅持を主張する自民党内の保守派議員から反対が予想される。
卵子提供や第三者のからだを借りた出産は、伝統的な家族のあり方と対立するからだ。

 早くもその兆しはある。
法律に基づいて結婚した夫婦の子と、そうでない男女の子(婚外子)との遺産相続分を同じにする民法改正案をめぐり、同党法務部会で保守派議員が「家族制度が壊れる」などと反対ののろしを上げ、法案了承が先延ばしになっているのだ。
PT設置にかかわった党関係者は「婚外子の扱いや夫婦別姓など『家族』に敏感な議員は、生殖補助医療法案にも抵抗感を持つだろう」と話す。

 (小林豪)

 ■生殖医療をめぐる国内外の動き

2003年 厚生労働省審議会が、無償の卵子、精子、受精卵の提供を認め、有償の提供や代理出産は禁止するとの報告書

  05年 韓国が生命倫理法を施行。卵子の売買を禁止

  07年 代理出産で生まれたタレントの向井亜紀さんの子どもを、最高裁が実子と認めない判決

      台湾が人工生殖法を施行

  08年 民間クリニック団体が精子、卵子提供による体外受精について指針を発表。独自に実施

  11年 自民党の野田聖子衆院議員が米国で卵子提供を受け出産

  13年 民間の卵子バンクが発足

      自民党が生殖医療のプロジェクトチームを設置