スウェーデンに「出会いの場」と呼ばれる場所がある。といっても婚活の場所ではない。 初期の認知症の人などが出かけ、数時間過ごすところだ。

2013.10.31

スウェーデンに「出会いの場」と呼ばれる場所がある。といっても婚活の場所ではない。

初期の認知症の人などが出かけ、数時間過ごすところだ。
朝日新聞 2013年10月31日




 認知症は早期発見と早期診断が望ましいと言われる。

適切な医療と介護で進行を遅らせたり、精神的な支援をしたりすることができる。
でも実践は難しい。
日本でも初期の人への本格的な対策が一部で動き出したばかりだ。

 訪問先は、スウェーデン西部のイエーテボリにある行政区が実施する出会いの場。
介護施設の一室に入ると、広いキッチンがあり、利用者5人が昼食の準備をしていた。

 「これ以上太りたくないな」。
シーヴァルト・アンダーソンさん(82)が野菜の皮をむきながらつぶやくと、隣の男性が「朝食はゆで卵1個にしないと」と応じ、2人は笑い合った。
それを見て、妻のブリットさん(82)も笑う。

 ブリットさんは少し物忘れの症状がある。
野菜を切っている途中でも手がとまり、ぼんやりしがちだ。
1人だと他人と会話することは難しい。
ここは認知症と診断される前でも参加できる。夫も一緒なので、自然に人の輪に入れる。

 約1時間でジャガイモとタマネギ、牛肉のスープができた。全員でテーブルを囲んで食べる。
このときも、認知症の人とそうでない人が交じり合い、笑いが起きた。
認知症の人は元気な人に影響され、活発になるのだという。

 区内在住で65歳以上であれば、だれでも登録して参加できる。
あえて「認知症の人」に限定しないのは、物忘れが始まっていても自分を認知症だと認めたくない人でも参加しやすいからだ。
気軽に立ち寄れることを重視する。

 利用料は昼食代の40スウェーデンクローナ(約650円)。
ここは毎週木曜に開かれる。
別の曜日には別の集会所で、体操や合唱の活動がある。お年寄りのクラブ活動のような印象だが、いずれも区職員のマルガレータ・マグヌソンさん(60)が見守る。

 区によると、登録者約230人のうち、数十人に物忘れの症状があるか、認知症と診断されている。
マグヌソンさんら職員は、利用者と接して生活不安を抱える人に気づいたら、訪問介護や、より認知症で症状が進んだ人向けのデイケアを紹介する。
次の段階の支援につなぐのが、出会いの場の大きな役割だ。

 もう一つ重要なのは、高齢者の孤立を防ぐことだ。
スティーグ・ヨハンソンさん(85)は今春、妻を亡くして一人暮らしに。
少し物忘れがある。
「バカ話が楽しみでここに来るんだ。
ふだんは相手がいなくてできないから」

 マグヌソンさんは「一人暮らしだと物忘れが始まってもまわりは気づかない。
支援が遅れて症状が悪化する心配がある。ここに来てくれたら私たちが関われる」と話す。

 ■介護者も一息

 認知症の人とそうでない人を区別せず受け入れる場所はデンマークにもある。

 ロスキレ市の介護付き高齢者住宅「アスタース・バイ」併設のデイケアだ。
65歳以上の利用登録者約80人のうち、認知症の人が半数いる。
ほかは身体介助を受けている人か、健康だが独居で社会的なつながりを必要としている人たちだという。

 1年半前に認知症と診断されたアルフ・ビスゴーさん(93)は週5日利用する。妻のヒルダさん(86)は健康なので週に1日だけ利用する。
それぞれ友人もでき、2人で過ごすこともあれば、友人同士で一緒にいることもある。

 介護者の孤立を防ぐ狙いもある。
庭師だったビスゴーさんは温厚な性格だが、同じことを何度も聞いたり、物をしまう場所を間違えてしまったりする。
ヒルダさんは「2人だけでいるとストレスを感じることもある。ほかの人もいるのがちょうどいいわ」。

 アスタース・バイの責任者、ギッテ・リムキレさん(55)は「認知症の人が楽しく過ごせ、家族は負担を軽くして一緒に過ごせる。
長く在宅で暮らすための支援として必要な場所だ」と強調した。(畑山敦子)



 ■カフェで居場所作り 日本

 日本で始まった初期の認知症の人への対策は、厚生労働省が昨年発表した認知症施策の5カ年計画「オレンジプラン」に盛り込まれている。

 一つは、早期診断・早期対応のための初期集中支援チームの設置だ。
認知症やその疑いのある人の家庭を介護福祉士や保健師が訪問し、必要に応じて介護や医療につなげる。
現在、全国14カ所でモデル事業が行われている。

 また認知症の人と家族の居場所づくりを後押しするために、「認知症カフェ」を普及させる。
認知症カフェは病院や家族会などが開いているものがすでに約数十カ所ある。
医師や作業療法士などに介護の相談ができるカフェもある。

 ◆キーワード

 <スウェーデンの認知症ケア> かつて、認知症の人は療養型病床のある施設などで受け入れるのが一般的だった。
1992年に「エーデル改革」という社会保障改革があり、ケアの場を医療から福祉へ移行。
施設もケア付き住宅に転換した。各自治体は認知症の人が長く地域で暮らせる在宅介護を充実させた。

 「ニルスの国の認知症ケア」などの著書がある藤原瑠美さんは認知症の母親の介護をした経験から同国のケアに関心を持ち、数回訪れて取材してきた。

 「デイケアでは、職員が利用者に『今日は何がしたい?』と聞いているのをよく目にした。
スウェーデンのケアには個人の尊重が根底にあると感じた」と話す。