患者紹介料、規制へ一歩 医療界には慎重論

2013.10.24

患者紹介料、規制へ一歩 医療界には慎重論
2013年10月24日朝日新聞

「訪問診療」をめぐる問題事例と厚労省が示した対策
 
患者を食い物にするケースが次々明るみに出た高齢者施設への訪問診療について、厚生労働省は23日、規制を強める方針を示した。

検討の柱は、業者が医師に患者を紹介し、見返りに手数料を受け取る「患者紹介ビジネス」の禁止や診療報酬の引き下げだ。
ただ、医療界には慎重論も根強い。有効な対策がとれるかが、今後の議論の焦点だ。

 「患者紹介を受け、紹介料を払うことは、患者を取引の対象とするもの。
保険診療への信頼を損なう。
過剰な診療のおそれもある」

 23日に厚生労働省内で開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)。医療行為の公定価格である診療報酬を話し合う場で、厚労省が規制強化の検討を求めた。

 訪問診療の問題点は以前も中医協で議題になったが、十分な対策はとられなかった。
8月以降、朝日新聞がさまざまな問題事例を報じ、厚労省も実態把握や対応を迫られた。

 出先機関を通じて調べたところ、20施設で不適切な事例が見つかった。
しかし担当者は「もう少し報告があると思ったのだが。患者紹介はグレーゾーンなので、現場も実態をつかめていないのでは」と漏らす。

 だが問題の広がりはデータからも垣間見える。
この数年、訪問診療の件数が増加傾向にあるなか、同じ施設で複数の患者を診察する割合も伸び続けている。
昨年度の調査では1日に60人を訪問診療した医師もいた。「荒稼ぎ」を防げていないのが実情だ。

 厚労省は、この日の中医協で医療機関の患者紹介料の支払い禁止を提案した。
高齢者施設や仲介業者の紹介行為自体は違法とは言えない。
そこで保険診療のルールを定めた省令を改正し、医師の側を規制する。

 診療報酬の請求時、訪問場所などの記録を求めないルールも改め、記録提出を要件にする方針だ。集中的な訪問診療による「うまみ」を減らすため、同じ施設で多くの患者を訪問診療した時の報酬引き下げも検討する。

 だが医療界では慎重な意見が出ている。
中医協委員の鈴木邦彦・日本医師会常任理事は「本来取り締まるべきは紹介業者。
医師を規制しても解決にならないのでは」。
また訪問診療に力を入れるある医師は「むやみな診療報酬の引き下げは、在宅医療の普及にブレーキをかけてしまう」と心配する。

 厚労省は、来年4月の診療報酬改定に合わせて対策を実施したい考え。
ただ、中医協では診療側委員の発言力が強い。意見集約は難航する可能性もある。

 

■氷山の一角か 急病時には往診せず/「無料だからいいでしょ」

 今回の調査について厚労省は「網羅的ではない」と認めており、まだ氷山の一角の可能性がある。
患者紹介ビジネスの実態を朝日新聞が報じてから、読者から150件を超える情報が寄せられている。
大半は高齢者施設の入居者の親族からで、施設で受ける診療に不満があり、紹介業者の関与を疑っている。

 大阪市内の女性(49)は昨年12月ごろ、両親をサービス付き高齢者向け住宅に入居させた。
父親を通い慣れた病院に通院させたかったが、施設の「仲介業者」と名乗る人から「施設で両親の具合が悪くなったら、誰が診るんですか」と言われ、やむなく施設側が紹介した医師に切り替えた。

 自宅では、かかりつけ医が1~2カ月に1度往診していたが、施設では月2回に。月1回にするように頼んでも、紹介された医師は「2回でないと、何かあっても病院を紹介できない」と拒んだ。

ところが、父親の足のむくみが急にひどくなったときに往診を頼むと、医師は「私は行けない」と対応してくれず、やむなくタクシーで父親を病院に連れて行った。
女性は「施設では高齢者が食い物になっている」と憤る。

 神奈川県の女性(74)の妹(70)が入居する有料老人ホームでは、2週間に1度、ホームにくる医師が60人の入居者を次々に診察する。
妹の診察料は月6万円になったほか、「頻尿だから」「骨を強くするため」などと言われて薬代も月6万円にのぼる。

 妹には視覚障害があり、国の助成で医療費の自己負担はないが、女性は「保険料を払っている若い人にしわ寄せがいく」と心配する。
「医療費が高い」と診療を減らすように頼んでも、看護師は「無料だからいいでしょ」と取り合ってくれないという。

 日本では、患者が診療所や病院を自由に選ぶ権利が保障されている。
施設側とトラブルになったら、都道府県や政令指定都市に相談窓口がある。また訪問診療してもらえる医師を自分で探すには、全国に約4千カ所ある地域包括支援センターのほか、一般社団法人「全国在宅療養支援診療所連絡会」(本部・東京、03・5213・3766)で相談に乗ってもらえる。

 (沢伸也、月舘彩子)

 ■訪問診療、制度に抜け穴

 《解説》訪問診療は、「高齢者が長く住み慣れた地域で暮らせるようにする」との理念のもと、国が普及に力を入れてきた。
不必要な入院で無駄な医療費が使われる状態を是正する狙いもある。
だが大義名分の陰で、一部の医師や業者がもうけに走った。被害者は患者だけではない。保険料や税金を払う国民全体に負担を押しつけている形だ。

 問題事例の多くは、明らかな不正と隣り合わせの「グレーゾーン」にある。
厚労省によると、医師と施設が入居者の診察を独占する契約を結んだり、患者紹介料をやりとりしたりする行為は、今の制度では違法とは言えないという。

 訪問診療は月2回以上訪問すると特別な上乗せがあるなど診療報酬で優遇されている。
でも訪問先の記録提出は不要だ。こうした運用やチェックの甘さも、もうけ優先の医師らがつけこむ穴となっている。健康保険の運営団体の幹部は「今のやり方は粗すぎる」と批判する。

 厚労省の担当者は「アクセルとブレーキの加減が難しい。まじめに訪問診療をしている医師のやる気をそいではいけない」と言う。

 高齢者医療の現場では、医師の立場が圧倒的に強い。患者を犠牲にして利益をむさぼる事例の防止と、在宅医療の推進をどう両立させるかは難題だ。
実態把握をさらに進め、診療報酬や規制をきめ細かく見直すことが欠かせない。

 (高橋健次郎)