医学部新設の議論が再過熱 反対する医師会は戦々恐々

2013.10.21

医学部新設の議論が再過熱 反対する医師会は戦々恐々

2013.10.26 週刊ダイヤモンド

医学部新設をめぐる攻防が再び過熱している。
9月以降、自民党政権が推進派の意をくむ動きを見せており、医師会ら反対派は戦々恐々としている。


 医師を養成する医学部新設をめぐる攻防の潮目が変わった。
医学部新設については、政権交代を果たした2009年の衆議院選挙のマニフェストに「医師数を1・5倍に増やす」と掲げた民主党政権下で文部科学省が検討会を設置し、新設是非の議論が行われた。
しかし、日本医師会らが猛反発して尻すぼみに終わり、その後の議論は沈静化した。

 ところが、現自民党政権が9月20日の産業競争力会議で新設の可能性を示した。
医学部新設に意欲を見せる村井嘉浩・宮城県知事が10月4日に安倍晋三首相と会談して、東日本大震災後に医師不足が深刻化した東北での新設を要請すると、これに応えるかたちで安倍首相は下村博文・文部科学相に対し、新設を禁じた文部科学省告示を復興支援のために見直すことについて検討を指示した。

 医学部の新設は1979年の琉球大学が最後。
以来、医師数の過剰による質の低下を防ぐために新設は認められてこなかった。
しかし、診療科や地域の偏りも原因とした医師不足が深刻化する中で、政府は国家戦略特区で進める規制緩和や被災地復興の名目で新設を認める可能性について検討を始めたのである。

 東北では11年に、仙台市の仙台厚生病院が同市の東北福祉大学と連携して、医学部新設構想を発表した。
さらに10月11日には同じ仙台市の東北薬科大学が新設に名乗りを上げた。
東北以外でも国際医療福祉大学と手を組んだ千葉県成田市のほか、北海道函館市や新潟県、茨城県、埼玉県、神奈川県、静岡県など医師数が不足している東日本の自治体が手を挙げている。


主張が平行線の推進派と反対派 政治の強硬決着も


 医師会は今回も猛反発している。
既存医学部の定員増、および一定期間は地元で働く条件で入学を認める地域枠の設定で医師の不足と偏在は解決できるとの主張を崩さない。

 対して、推進派である仙台厚生病院の目黒泰一郎理事長は「地域枠では、都市部と過疎地のどちらで働くかまでは強制できない。
われわれは奨学金制度を設けて大学が学費を貸与し、卒業後に医師を受け入れた東北の病院が奨学金を返還するシステムで地元定着を図る」とし、「そもそも今の医学部教育では過疎地で十分な医療を行える医師は育たない。
われわれは地域医療を重視した医学部をつくる」と譲らない。

 「医学部が新設されれば、教員が必要になるので医師不足をさらに深刻化させる」という指摘には、「東北からは教員を採用しないという条件をつけてもらって構わない。
西日本には、喜んで教員を送り込むと言ってくれる大学が複数ある」と返す。
が、全国医学部病院長会議の森山寛顧問(東京慈恵会医科大学名誉教授)は「新設された医学部が質の高い教育を提供できるようになるまでには何十年もかかる」という問題点を指摘する。

 反対派が執拗に新設を退けたい背景の一つには、歯科医界の惨状がある。
歯科医師数が過剰状態に陥り、食えない歯科医師が急増。
定員割れとなった歯学部の一部では、教育現場の質が劣化している。
こうした懸念に対して目黒理事長は「将来、国内の医師供給が過剰になって東北の医師が充足したならば、われわれは国外で働く医師の教育へ切り替えることだってできる」と言ってのける。

 議論を尽くしても推進派と反対派の主張が平行線をたどるばかり。門戸開放に動くとすれば「政治の強制的な判断による」(関係者)とされ、両派とも永田町の動きに固唾をのんでいる。

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Column 建て替え計画に水を差す東京五輪開催で落胆


 2020年の東京オリンピック開催が決定して日本中が歓喜した瞬間、首都圏の病院グループ経営陣はがっくりと肩を落とした。
新設移転を計画している病院の建築費がさらに高騰し、工期も延びることを覚悟しなければならないからだ。

 東日本大震災後の被災地復興需要の影響で建築費はすでに15~20%増しになっている。
東京オリンピックが重なったことで「これからは50%増しを覚悟しなければならない」と病院経営者たちは嘆く。

 何しろ、建て替えに必要な資金については絶好の借り手市場となっている。
医療分野は他の産業に比べて安定的な将来成長が期待できるとして、メガバンクや地方銀行がこぞって病院への融資を強化。
金融機関の融資獲得競争は熾烈化して金利は下がり続け、「1%を切るようなケースもざらにある」(銀行融資担当者)という。

 資金調達に労はなくても、「病院の収益は診療報酬によって単価が決まっているので、年間の医業収益を大幅に上回る建築コストはかけられない」と病院への融資経験が長い東京都民銀行の今泉富美夫執行役員・医療・福祉事業部長は明かす
。建築コストを甘く計算すれば、火の車になるのは目に見えている。

 日本では1970~80年代に大量に病院が建設、増築された。
これらの病院が築30~40年となり、近年は建て替えラッシュが続いていたが、東京オリンピック開催によって計画変更を余儀なくされる病院も出てこよう。
ただ、借り放題をいいことにばら色の将来を描いて身の丈を超えた巨大投資に走ろうとしていた病院もあり、頭を冷やすいい機会ともいえる。
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Column 医療費は非課税なのに病院が消費増税を憂う訳


 2014年4月から消費税の税率が5%から8%に上がることに、医療機関が憂いている。
医療費は美容整形などの自由診療を除けば、消費税は非課税だ。であれば影響はないようにも思えるが、非課税であることが問題なのだ。

 病院や診療所などの医療機関は、医薬品や医療機器、医療材料などを購入する際に、消費税を支払う。
しかし、患者が窓口で支払う医療費は非課税であるため、消費税の差額分だけ医療機関が負担して損をすることになる。
いわゆる控除対象外消費税額、消費税の“損税”が発生する。

 1000床規模の病院の場合、消費税が1%上がれば、2億円の負担が生じるといわれる。
3%上昇すれば、負担は6億円となる。医療機関の負担はいかにも大きい。

 政府も無策ではなく、来年度の診療報酬を引き上げることで負担分を解消させる予定だ。
初診料や再診料などを増額して、医療機関の負担分の回収に充てるのだ。

 だが、政府の対応に、多くの病院経営者らは疑心暗鬼の姿勢を見せる。診療報酬の引き上げによる対応は、消費税導入時や3%から5%への増税時にも行われた。このとき、その後の診療報酬改定で連続的に報酬額が切り下げられた。
結果的に、現在でも、1病院当たり500床以上の自治体病院で3億円以上、私立大学病院では4億円以上の消費税負担が生じているといわれる。

 診療報酬の引き上げは、患者の窓口負担額の増加にもつながる。「過去の例から、患者の受診抑制が生じるのは間違いない」と多くの医療関係者はみており、医療界にとって消費増税はまさしく鬼門なのである。