交論 国保の都道府県移管 山崎泰彦氏/山田啓二氏

2013.10.01

交論 国保の都道府県移管 山崎泰彦氏/山田啓二氏
2013.09.29 中国新聞


交論

国保の都道府県移管

 社会保障改革の一環として政府は、国民健康保険(国保)の運営責任を担う主体を、市町村から都道府県に移管する方針だ。
2017年度までを目標とするが、国保の赤字体質の改善になるのか。
狙いと課題について識者と知事側に聞いた。(聞き手は、共同編集委員・諏訪雄三)

神奈川県立保健福祉大名誉教授 山崎泰彦氏

質の高い医療提供が狙い

 ―国保の移管の狙いは。

 一番求められているのは、今後の急速な高齢化や医療ニーズの変化に対応した、効率的で質の高い地域医療を提供する体制の整備だ。

そのためには、医療計画の策定に責任を持つ都道府県が、国保の財政責任も担うべきだ。
これが改革をより実効あるものにする上で必要だと考える。

 ―今の国保制度にどのような問題があると考えますか。

 加入者には無職者や失業者、非正規労働者などの低所得者が多い。
年齢構成が高く、医療費がかさむ。
所得が低い割に保険料の負担が重いなどの問題から保険料を上げられないことも。
このため国保会計の赤字補〓(ほてん)のため市町村が、一般会計から法定外の繰り入れをしばしば行っている。
さらに小規模の市町村では財政運営が不安定になるとか、保険料格差が大きいという問題がある。

 ―国保の赤字は。

 2011年度でみると、国保制度全体で500億円の黒字だ。
しかし、赤字穴埋めとなる法定外の繰り入れが3500億円あり、実質的には3千億円の赤字。
市町村の人口規模に比例し赤字が大きくなる傾向がある。
被保険者1人当たりの法定外の繰入金を都道府県単位で集計するとトップの東京は3万円を超え次が神奈川、埼玉の順だ。

 ―市町村の運営努力に問題はないのでしょうか。

 11年度の保険料収納率は全国平均が89%。町村が93%に対し、政令指定都市・特別区は87%と低い。徴収漏れの保険料のかなりの部分を一般会計から穴埋めしていることになる。
所得水準に見合うように保険料を引き上げ徴収することは、住民や議会の反発もあり難しい。
このため財政力のある大都市部では引き上げる代わりに一般会計から穴埋めしている、という指摘もある。

 ―運営主体を都道府県に移せば解決しますか。

 全国知事会が主張する通りだ。
つまり移管するだけでは、問題は何ら解決せず、巨大な赤字団体を生むだけだ。
仮に後期高齢者医療制度のように都道府県内で一律の保険料とすると、地域の医療費の多寡、健康づくりの努力が反映されなくなる。
このため全国的には、町村部の保険料が上がる半面、都市部の保険料が下がり、かえって不公平が拡大する。
モラルハザード(倫理観の欠如)を招くことになる。

 ―知事会は保険の一元化も言っていますが。

 健康保険組合など被用者保険との一元化は非現実的だ。
赤字対策は後期高齢者医療に対する被用者保険からの拠出を負担能力に応じて求め、浮いた協会けんぽへの国庫補助分を国保の財政対策に充てる案が軸だが、国保の運営努力を損なわないものにしてほしい。

 ―その他には。

 国保の運営で最も大事なのは保険料の決定だ。
都道府県が、医療提供水準に見合った保険料水準を市町村ごとに定めるべきだ。
赤字には、国が資金援助し都道府県ごとに設ける基金を使う。赤字が出た市町村は、基金からの貸し付けを受け、保険料を引き上げるなどして返済する。
法定外繰り入れはやめ国保会計の財政規律を守るべきだ。

 ―市町村と都道府県の関係はどうなりますか。

 保険料の徴収や保健事業を通した医療費の適正化対策は従来どおり市町村が分担するなど、都道府県と適切に役割を分担し協働する。
分権的な広域化を目指すべきだ。

 やまさき・やすひこ 45年廿日市市出身。横浜市大卒。社会保障研究所、上智大教授などを経て11年から現職。社会保障制度改革国民会議委員。著書に「医療制度改革と保険者機能」(編著)など。

全国知事会長(京都府知事) 山田啓二氏

赤字体質の改善が前提に

 ―国保の運営を引き受けますか。

 市町村合併は進んだが、その規模に違いがありすぎ保険業務を安定的に行うのは非常に難しい。
京都府内の市町村間でも1人当たりの保険料は2倍、個人ごとでは所得などの違いもあり50~60倍の差がある。
公平な国民皆保険とは言えない。

 ―どうするのですか。

 保険サービスは市町村のままとしても、保険行政の安定化は国全体の問題として捉えるべきだ。
このまま国保を市町村に置いておけない。
今後も過疎、高齢化が進むので、都道府県という広域的な団体が格差是正の役割を果たすべきだ。

 ―後期高齢者医療制度の運営主体は市町村です。

 厳密には、市町村が都道府県ごとに一つずつ設立した広域連合が担う。
住民から見れば、広域連合も都道府県も同じ。
制度の安定性からは、都道府県が主体となって福祉行政を広域調整することが必要だ。

 ―国保は赤字体質といわれますが。

 全国知事会としては「構造的な問題が解決され持続可能な制度が構築されるならば、市町村とともに積極的に責任を担う覚悟」を表明した。
新制度の構築が大前提だ。2011年度で実質的に3千億円の赤字があり構造的に増える。
都道府県に任せれば終わりではない。対策は国と地方の協議の場で議論していく。

 ―具体的な削減策は。

 広域化による市町村の事務合理化もあるが効果は限定的だ。
国保は非正規の労働者や無職の人、退職者などもともと収入が少ないわりに、高齢者など医療サービスが必要な人の割合が大きい”弱者保険”の性格がある。

他の保険からの支援や調整の仕組みを考える必要がある。主に大企業のサラリーマンが入る健康保険組合、中小企業が中心の協会けんぽ、公務員らの共済組合から、国保に対し一定額の拠出をお願いすることが考えられる。知事会は最終的にこれらの一元化も求めている。
後期高齢者医療制度を一緒にすることも視野に入れてもいいだろう。

 ―役割分担は。

 国はナショナルミニマムとしての医療保険の制度設計や財政など全体の在り方を示す。
都道府県は標準的な保険料の決定と、医療体制を整備。市町村は引き続き徴収の業務や保健事業などを続けることになる。

 ―医療の供給体制は。

 一番住民に近いという理由で市町村が医療や介護を担っているが、「急性期、慢性期の病院をどのように配置していくのか」など広域的な課題に対処できない現実がある。
十分な権限と財源の下に都道府県が医療インフラをつくり、市町村がサービスを提供する。
国が制度的、財源的にサポートしていく体制に変えるべきだ。

 ―国の取り組みは。

 異常なスピードで少子高齢化が進んでいる。その中で思い切った手を打たないといけない。
消費税や保険料などによる負担の多い少ないで社会保障がどうなるのか、複数のケースを提示し国民が選択できるようにする。
将来を明確にしないと、国民的な合意は得られない。

 ―社会保障の今後は。

 「消費税を上げる」だけでは駄目だ。「こういう社会をつくるから負担もしてください」と自治体が現場感覚を持って訴え議論していくべきだ。
国が進める、赤字を削減するためだけの数合わせや財源合わせでは必ず行き詰まる。

 やまだ・けいじ 54年兵庫県出身。東京大卒。自治省に入り、京都府副知事などを経て02年から知事、11年から全国知事会長。著書に「危機来襲」(編著)。