(点検20年 県政の現場:5)「医」細る「生活大県」 /茨城県

2013.09.07

(点検20年 県政の現場:5)「医」細る「生活大県」 /茨城県
2013.09.06 朝日新聞


 水戸市の主婦(30)は3日、夕飯の準備をしながら見たニュースに「ああ、よかったな」と胸をなで下ろした。

 7月から出産予約を休止していた水戸赤十字病院の受け付け再開を伝える内容だった。
主婦は約3年前に同病院で第1子を出産。2人目もここで産むかもしれない、と考えていた。

 一方、ニュースに不安を覚えた人もいる。
子宮がんや卵巣がんなどの患者たちだ。
出産予約は再開したものの、来春に8人の産婦人科医が2人減る事態は避けられない。婦人科がんの診療態勢について、病院は未定としている。

 県北地域に住む女性(42)は6年前、卵巣がんが見つかり、日立製作所日立総合病院で手術を受けた。
だが、同病院は、派遣元の東大が医師の引き揚げを決めたため、2009年4月に産婦人科の診療を休止。
治療を受けられなくなり、月に1度、水戸赤十字病院まで電車などで通うようになった。

 リンパ浮腫で足がはれ、歩くのもつらい。
再発の不安も抱える。「日赤で診てもらえなくなったら、今度はどこまで行けばいいのか」

 水戸市の水戸済生会総合病院産婦人科の藤木豊主任部長は、一つの中核病院の診療が立ちゆかなくなれば、県全体に影響が波及しかねない、と心配する。

 済生会総合病院が昨年に扱った出産は666件で、開院以来最高だった。
県内に3カ所ある総合周産期母子医療センターに指定され、胎盤異常で緊急手術が必要な妊婦や出産時の大量出血で生命の危機にある妊婦など重症の救急搬送は年間160件ある。

 7人の産婦人科医で365日フル回転。年長の藤木部長でも月に8日から10日は自宅に帰れない。
ギリギリの状況で、お産をさらに増やすのは難しい。

     ■   ■

 厚生労働省の調査によると、10年時点の県内の産婦人科医は211人で、15~49歳までの女性10万人あたり34・8人と全国平均39・4人を下回る。
医療施設に従事する医師全体でみると、茨城県は人口10万人あたり158人で、埼玉県に次いで2番目に少ない。

 「生活大県」を掲げる県は医師確保に努めている。
県内で医療者を志す医学部生に月額10万円を貸す修学資金制度もその一つだ。
筑波大や東京医大など6大学に設けられた計29人の県地域枠の学生には月額15万円が貸与される。

 大学への寄付講座を通じて医師を派遣してもらう取り組みも進める。
09年の筑波大を皮切りに5大学に寄付講座を設け、昨年度は土浦協同病院への11人をはじめ計48人が派遣された。
今年度の事業費は5億8千万円にのぼる。

 とはいえ、「カネ」で医師をつなぎとめる手法には限界がある。

 常勤医22人のうち14人が退職し、今年度から診療態勢を縮小した鹿島労災病院。
県と神栖市の寄付で東京医大が講座を開き、7月から整形外科医3人の派遣が決まった。
平日の昼間に限り救急搬送受け入れも再開した。

だが、外科や神経内科などは休診状態が続いている。

 医師不足への対策には、地域の病院の再編も不可欠だ。

 筑西市民病院と県西総合病院(桜川市)を再編統合して新中核病院をつくる計画は、統合の枠組みや建設地を巡り、筑西、桜川両市の協議が進んでいない。
再編計画は県がつくった地域医療再生計画の一環。
しかし、県は現在、積極的な仲介には乗り出していない。(栗田有宏)