杉並区の特養、南伊豆に計画 区「施設不足解消」

2013.08.24

杉並区の特養、南伊豆に計画 区「施設不足解消」/地元「雇用増に期待」
。近くには海岸が広がり、温泉も出る=静岡県南伊豆町
2013年8月24日朝日新聞
  
 東京都杉並区が、区民が優先的に入れる特別養護老人ホームを静岡県南伊豆町に設けることを計画している。県と町も協力。
施設不足に悩む都市部と、雇用増に期待する地方の思いが重なった。
ただ、実現には法改正を伴う制度の一部変更が必要で、区や町は近く、国に要請する予定だ。
 
青い海と温暖な気候に恵まれた南伊豆町。
海水浴場から歩いて数分の場所に、杉並区所有の1万6千平方メートルの更地が広がる。
区立の教育施設が2011年度末に廃止された跡地だ。

ここに特養を建設・運営できる社会福祉法人を町が公募し、区、町、県が建設費などを補助する方法を考えている。
入所者60~80人の規模を想定し、3自治体の負担割合などは今後調整する。自然環境を生かした保養地型で、入所者の家族らの定期的なバスツアーも検討する。
 
計画が具体化したのは11年1月。特養の建設地不足に悩む杉並区が町に打診して動き始めた。
区の特養待機者は12年度末で1944人に上る。区内に特養は12施設あるが、区保健福祉部の田中哲参事は「地価も高く、区内での整備には限界がある」と明かす。
 区民の特養待機者へのアンケートでは、
回答した約800人のうち、120人が南伊豆での入所を希望したという。
 
県は、入所者80人規模の特養ができれば、地元に介護福祉士や調理職員ら約55人分の雇用が生まれると試算。
南伊豆町健康福祉課の黒田三千弥課長は「地元の食材も使ってくれるだろう。地域振興の手法として歓迎したい」と期待する。
 

■制度変更、国に求める
 現行制度でも、杉並区民が南伊豆町にある特養に入ることがまったく不可能なわけではない。
ただ、介護保険法に基づく厚労省令では、特養の入所者は「地元住民を優先させる」としているため、実際には難しいという。
 
入所できた場合は住民票を町に移すことになるが、こんどは入所者分の国民健康保険料を、どちらの自治体が負担するのかが問題になる。
現行制度でも特例として74歳までは入所者の国民健康保険料を杉並区が負担できる。
しかし、その後に75歳を迎え、後期高齢者医療制度に移行した場合、保険料を負担するのは町になる。
入所者が生活保護費を申請した場合も負担するのは県になる。
 
区と町、県がそろって厚労省に求めるのは、こうした制度の変更だ。入所基準を「杉並区民は地元住民と同等」とすることや、保険料、生活保護費は区が負担することを想定。

27日に開かれる厚労省の「都市部の高齢化対策に関する検討会」(座長=大森彌・東大名誉教授)などで制度変更を提案する予定だ。

実現には、省令の変更や国民健康保険法の改正が想定されている。
 淑徳大総合福祉学部の結城康博教授(社会保障論)は「東京23区は地価が高く、杉並区の取り組みは、あふれている待機者を減らす試みとして評価できる。現在の制度は現状に即していないと思う」と話す。
 
ただ、課題もある。南伊豆町の高齢化率(65歳以上の割合)は39・2%と高い。同町を含む伊豆半島南部の賀茂(かも)地域では、療養型の病院に406の病床があるが、満床状態が続く。
特養の入所者が病気などで療養が必要になっても、地元では受け入れ先が確保しにくいのだ。
 黒田課長は「特養の運営法人を選ぶ際、療養型病床のある施設とパイプを持っていることを選択基準に加えるなどしたい」としている。
 
■全国から熱視線
 厚労省が3月にまとめた全国の自治体へのアンケートでは、回答した約850のうち90を超す自治体が「高齢者施設を誘致したい」と回答した。
 山形県舟形町は「町の将来のため、福祉産業は鍵」と、東京都民専用の特養を町内に建てようと2010年から2度、国へ特区申請してきた。
いずれも却下されたが、町まちづくり課の中山進課長は「杉並区などのやり方を学んで、同じようにやりたい。廃校の跡地利用も進む」と期待する。
 茨城県かすみがうら市も「興味深い。十分検討したい」と関心を寄せる。都市部から有料老人ホームなどの誘致を検討したことがあり、「(都会から来る)高齢者に、農業を通じたいきがい作りも提案できる」。
 一方、杉並区と同じように特養不足に悩む東京都豊島区は、千葉県に区有地がある。担当者は「将来の高齢者問題は避けて通れない。杉並区の取り組みは、可能性を広げる」と話す。
 (古賀大己)