◎社説 社会保障改革 持続的な制度への出発点に 

2013.08.14

◎社説 社会保障改革 持続的な制度への出発点に 

・・・医療では「患者はどこの病院でも受診できる」という常識の転換を迫る。
紹介状なしで大病院を受診した場合、重い窓口負担を求められる。
地域医療機関を門番役にし、高度医療を担う病院の負担軽減と、医療費がかさむ長期入院患者を減らす狙いだ。・・・・

2013・8・13
2013.08.13 京都新聞



 現行の社会保障制度は「受益と負担」のバランスが崩れ、将来世代にツケを回しつつ自転車操業を続けている。これをいかに立て直し、持続可能な制度とするか。

 政府の社会保障制度改革国民会議が最終報告書を安倍晋三首相に提出した。少子高齢化を背景に、年金、医療、介護などの社会保障給付は年100兆円を突破し、増え続けている。4割が国や地方の公費で賄われており、1千兆円近い長期債務の原因となってきた。

 報告書の眼目は、財政負担を増やさず、消費税増税の増収分を生かした社会保険制度の手直しだ。抜本改革にはほど遠く、痛みや課題も伴うが、国民皆保険を基礎とした社会保障制度という「国民共有の財産」を守る出発点として、政府は着実に実行してほしい。


不公平感なくすには


 報告書は「税や社会保険料の負担増は避けられない」とし、年齢ではなく、経済力に応じた負担で財源を確保するよう主張する。

 若年層の間には、例えば年金料を払っても将来受給できるのか、不安と不信がある。非正規雇用の増加とともに、年金や健康保険に加入しない人も増えている。世代間の不公平感が増し、こうした現象が広がれば、社会保険の土台が崩れてしまう。

 若年層が負担し、高齢者が受給する構造を、経済力に応じて全世代が負担し、必要に応じて全世代がサービスを受けられる構造に転換するのは時代の要請といえる。

 ただ、支払い能力をどう評価するのかは極めて難しい。2015年から導入される共通番号制を利用しても、収入や資産を把握しきれるかどうか。

 後期高齢者医療を支えるため、企業の健保組合の負担を増やす方向を打ち出したのも「負担の公平化」の一環だ。健保組合側が反発しているが、皆保険を守るためには仕方あるまい。

 物足りないのは改革によって保険料収入がどれくらい増え、給付をどれくらい減らせるのか、試算がないことだ。痛みを伴う以上、効果を示して当然だろう。

 報告書には、家庭や地域社会にとって身近な改革案が並ぶが、問題点も少なくない。

 医療では「患者はどこの病院でも受診できる」という常識の転換を迫る。紹介状なしで大病院を受診した場合、重い窓口負担を求められる。地域医療機関を門番役にし、高度医療を担う病院の負担軽減と、医療費がかさむ長期入院患者を減らす狙いだ。


早期の地域ケアこそ


 こうした方向自体は間違っていない。しかし、以前から厚生労働省が進めてきたものの、地域の受け皿が整わないまま療養病床削減やリハビリ期間短縮などを急いだ結果、行き場をなくした「医療難民」を生んだ苦い経験がある。

 問題は、住み慣れた町での療養や豊かな老いを描けるかだ。

 報告書で気になるのは、食事や掃除など身の回りの世話の一部で介護予防サービスを受ける「要支援1、2」の約150万人を介護保険から切り離し、市町村事業に移す提案だ。国が昨年策定した「認知症施策オレンジプラン」が打ち出す初期対応重視の地域ケアに逆行しており、京都の関係者からも懸念の声が漏れる。

 京都では、医療や介護職とできるだけ早期に認知症の人が出合うことで、家族や周囲との関係が崩れることを防ぎ、地域生活を支える新しいケアが始まっている。初期の患者と家族への手厚いケアは社会的費用の節約にもつながる。かかりつけ医と介護保険の切れ目ない連携が不可欠だ。

 もう一つの懸念は、国保の運営を都道府県に移す提案だ。現在国保の運営主体である市町村は、パートの非正規労働者の加入が増える一方、高齢者医療費がかさみ、赤字で危機的な状況にある。

 都道府県が運営すれば財政基盤は改善するだろうが、域内で国保料を一律にすれば、かえって不公平感が高まりかねない。京都府の場合、府北部と京都市域では医師数や病院数で大きな差がある。運営責任を都道府県に負わせるなら、医師をバランスよく配置する政策手段も持たせるのが筋だ。

 報告書はまた、医師不足の弊害を指摘しながら、医師数の増員に踏み込んでおらず、物足りない。さらに薬価や診療報酬の構造、医師権限の看護職らへの委譲にも切り込む必要がある。

 政府は21日までに、報告書に沿って改革の工程を定めた「プログラム法案」を閣議決定し、秋の臨時国会での成立を目指す。


広い視野で論議を


 高齢者や非正規雇用の増加で所得格差が広がり、社会保険料の負担が重くなっている。デフレ脱却に向けた政府の物価上昇政策や、来年4月に予定される消費税増税も、逆進性が強い。低所得者の保険料引き下げなどを優先して実施すべきだろう。

 25年には「団塊の世代」が75歳に達し、給付はピークを迎える。それ以後も社会保障制度が持続可能であるためには、抜本改革は避けて通れまい。

 国民会議では年金・医療・介護の3分野に関心が集中し、ややもすれば「社会保険改革」の趣があった。抜本改革の際は視野をより広げ、社会保険の前提となる雇用、生活保護や格差対策、さらには高齢者や低所得者の住まいの確保など、社会保障のあり方を総合的に論議する必要がある