離島の命 ITで守る TV電話で患者問診 CT・MRI遠隔診断

2013.07.18

離島の命 ITで守る TV電話で患者問診 CT・MRI遠隔診断
2013.07.17 読売新聞 


 ◆医療格差是正に期待

 医師不足が課題となっている離島の医療現場で、情報技術(IT)の活用が広がってきた。
本土の医師がテレビ電話システムで患者を問診したり、コンピューター断層撮影法(CT)などの画像を遠隔診断したりする取り組みが各地で進む。
地域格差の是正に加え、離島医療を支えるスタッフの負担を減らす効果も期待される。(中村明博)

     □■□

 北九州市沖約12キロの響灘に浮かぶ藍島(あいのしま)(小倉北区)。
島内では約300人が暮らす。唯一の医療機関である市立藍島診療所に常駐するのは看護師1人。
医師が島を訪れるのは週2日で、不在時は薬も処方できず、本土への通院には1日3往復の船で渡るしかない。

 こうした中、市では島の診療所と本土の戸畑共立病院(戸畑区)をテレビ電話で結んだ遠隔診療を6月下旬から始めた。
診療所の患者に対し、本土の医師がテレビ電話で会話しながら問診。
看護師が撮影するビデオ映像で、のどの状態など患部を確認し、必要な検査や投薬を指示する。

 「医師の不在時は患者からの電話が鳴る度にドキドキする。
判断を仰げるのは心強い」と、診療所の看護師、田中ゆかりさん(46)は歓迎する。

市保健医療課の和田訓尚(のりひさ)係長(40)は「医師の確保が難しい現状をITで補い、島の医療を改善したい」と期待を寄せる。

     □■□

 医療の質を向上させるには、CTなど高度な画像診断技術もカギを握る。

 鹿児島県医師会が2012年度に運用を始めた「かごしま救急医療遠隔画像診断センター」(鹿児島市)。
離島などの医療機関から、患者のCT画像や磁気共鳴画像(MRI)を専用回線で受信し、放射線科の専門医が病状を判断して伝える仕組みだ。

 5人の専門医が24時間体制で遠隔診断を手がけ、緊急時は画像を受信してから30分以内で回答。
西之表市や奄美市などの離島を中心に12病院が利用し、依頼件数は12年度569件、今年4~6月は250件と前年を上回るペースだ。
「ヘリコプター搬送が必要な急患かどうかを見極めるためにも画像診断は重要」(医療関係者)で、深夜に脳梗塞の疑いなどで依頼されるケースもある。

 医師会の野村秀洋副会長は「本土でも画像診断の専門医は不足し、離島の状況はより深刻だ」と指摘。「遠隔診断のネットワークを広げて医療の地域格差を縮め、手薄な夜間救急の支援に力を入れたい」と語る。

 ◆訪問看護の負担軽減

 離島が多い長崎県の五島市では、地域医療を支える訪問看護のIT化が進む。

 長崎大や民間企業が訪問看護の支援システムを開発し、12年から一部の事業者が採用した。
看護師が患者宅で測った血圧などのデータを携行するパソコンに自動送信し、看護記録も車で移動する合間に音声入力すれば手軽に文章化できる。

 同市では在宅療養を希望する高齢者らが増え、訪問看護の要望が高い。看護師は患者宅を飛び回り、労働負担が重くのしかかる。

 今回のシステムで、看護師の残業時間は約3分の1に減った。
「書類作成などの負担が軽くなった分、余裕を持って患者さんに接することができる」。看護師の田頭めぐみさん(45)は、変化を肌で感じているという。

 医療現場の更なる効率化に向けて、同市は医師の診断から訪問看護や薬の処方まで、患者の医療データをすべて電子化して一元管理する構想も描いている。

 ◆市場規模 20年に倍増予測

 なかなか解消されない離島の医師不足は統計にも表れている。
厚生労働省などによると、人口10万人当たりに換算した医師数(2010年12月現在)は、長崎県平均で284・7人と全国平均(230・4人)を上回るが、地域別では離島の五島が189・6人、対馬は174・4人、壱岐も146・4人にとどまる。鹿児島でも県平均の242・3人に対し、離島の奄美が157・4人、熊毛(屋久島・種子島)は125・4人の状況だ。

 一方、医療分野の情報通信市場は成長の期待が高い。調査会社のシード・プランニング(東京)は、ITを使った在宅医療や介護のサービス市場規模(医療機器を除く)を12年で118億円と推定、20年には260億円に増えると予測する。

 〈1〉医師や薬剤師、看護師など職種間の連携〈2〉業務の効率化支援〈3〉遠隔医療・介護--などで、IT化の進展が見込まれている。

 長崎大の前田隆浩教授(地域医療学)は「離島医療の質を高めるには、少ない人材で効率良く患者に対応する必要がある。ITの活用こそ有効だ」と指摘。「個人情報を扱う際のセキュリティー対策に加え、システムの構築や運営のコスト負担も課題となるケースが多い。国や自治体の継続的な支援が求められる」としている。