薬が効かない新たな「殺人菌」 国境越えた医療で拡散

2013.07.16

薬が効かない新たな「殺人菌」 国境越えた医療で拡散
2013年7月12日 朝日新聞


新型耐性菌 CREとは

【中村通子】「切り札」抗菌薬カルバペネムを分解する新たな耐性菌が、世界各地で急速に広がっている。多種類の菌を行き来する五つの遺伝子が元凶だ。

このほど日本で初報告された新型耐性遺伝子OXA48を持つ肺炎桿(かん)菌は、新耐性菌の代表である。現状と対策を探った。

■国境越えた医療で拡散

 「殺人菌を食い止めろ!」。米疾病対策センター(CDC)は今春、米国で急速に広がる新型多剤耐性菌「CRE」への注意を呼びかけた。

 CREとは「カルバペネム耐性腸内細菌科の菌」という意味の英語の頭文字。ほとんど全ての抗菌薬が効かない。
CDCによると、昨年1~6月の半年間に、全米の病院の4%でCRE患者が見つかった。敗血症を起こした2人のうち1人は死亡した。

■恐ろしさ、3つの理由

 CREの恐ろしさには、三つの理由がある。

【理由(1)】遺伝子が五つ

 カルバペネム分解遺伝子は少なくとも5種類見つかっている。腸内細菌がそのどれかを持つとCREになるが、特徴が違う。名古屋大の荒川宜親教授(細菌学)は「種類が多いので検出が難しく、見落としやすい」と話す。

【理由(2)】強力な増殖力

 細菌は通常、1個が2個、2個が4個……と、分裂して増えていく。しかし、CREは、それを上回る驚異的な増え方をする。

 秘密はリング状の細胞内物質「プラスミド」にある。

 プラスミドは、自分の複製を作り他の菌に渡す。5種類の耐性遺伝子はこの物質に潜んでおり、プラスミドが複製・伝達されるたび耐性遺伝子も複製・伝達され、周囲の菌をCREに変えていく。
分裂とプラスミド伝達の相乗効果で、爆発的に増殖する。いわば、ネズミ算の細菌版だ。

【理由(3)】腸内潜伏

 CREに変化するのは、腸内に常在している平凡な大腸菌や肺炎桿菌だ。腸以外の臓器に移動すると、膀胱(ぼうこう)炎や肺炎などを起こすが、普段はおとなしい。

 CRE遺伝子の一つ、OXA48を持つ肺炎桿菌を昨年に日本で初めて見つけた千葉県船橋市立医療センター微生物検査室の長野則之主任は「自分の腸内細菌がCREに変わっても、健康な時ならまず気付かない」という。

 だが、いったん抗菌薬を使うと状況は一変する。腸内にいる「薬が効く」菌は死んでいき、CREがはびこるのだ。そして肺炎や敗血症を引き起こし、便を介して他人にうつる。フランスでは3年前にCREの院内感染が起き、7人中5人が死亡した。

     ◇

 国立感染症研究所によると、CREが世界的に広がる背景には、外国で手術などを受ける医療ツアーの普及がある。英の感染研は、英国内のCRE患者の多くは、インドやパキスタンで手術を受けた人や、その人と接触のあった人だと発表している。

 医療ツアーがまだ一般的でない日本は、先進国でほぼ唯一の「CRE低汚染国」だ。しかし、海外で入院して帰国した人から見つかる例が増え始めている。

 昨年5月、80歳代の男性がエジプト観光中に高熱を出した。現地の病院に入院し、数日後に国立国際医療研究センター(東京都新宿区)に転院。この時の検便からCREが見つかった。

 同センターの大曲貴夫(おおまがりのりお)・国際感染症センター長は警告する。「海外で医療を受けた人はCREを持っている前提で対応すべきです」

■封じ込めには基本の徹底

 現在、CREによく効く薬はない。しかも、新規抗菌薬の開発は滞っている。製薬企業にとっては、開発の成功率が低く経済的に見合わないからだ。

 東邦大の舘田(たてだ)一博教授(感染症学)は「産官学が力を合わせて新薬開発を急がなくては、人類初の抗生物質ペニシリン発見以前の暗黒時代に戻りかねません」と危機感を示す。

 米政府は一昨年、創薬を促す新法を作った。新規抗菌薬には、特許延長や優先審査など優遇するという内容だ。「20年までに10の新薬」と目標を掲げる。

 新薬が登場するまでに出来ることは何か。

 幸い、日本ではまだCRE汚染は広がっていない。専門家は「監視、院内感染予防策や検出技術の向上・抗菌薬の適正使用といった基本を徹底すれば、封じ込めは可能です」と口をそろえる。





7・13朝日新聞http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201307100653.html

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http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887323994204578343281390027100.html