進まぬ病床再編 「急性期」向けに偏重

2013.06.04

進まぬ病床再編 「急性期」向けに偏重
2013.06.03 読売新聞

・・・ 山形県酒田市。県立病院と市立病院がそれぞれ急性期医療を担っていたが、08年度に県と市が新組織を設立して両病院の経営を統合。
急性期を旧県立病院に、回復期などを旧市立病院に集約した。・・・・


 超高齢社会の医療ニーズに合わせた病院・病床の機能再編が課題となっている。
日本の病院は役割分担が不明確で、発症間もない「急性期」の患者向けに病床が偏り、回復期の高齢者に適した病床が少ない。
このため、急性期病床が行き場のない高齢者であふれ、新たな救急患者が入れないなどの問題や、医療費の無駄遣いが生じている。(本田麻由美、野口博文)

 ■リハビリできず

 「そりゃ、自分の家で、自分の口で食べられる方がいいに決まってるよ」

 東京都内にある世田谷記念病院の一室で、退院間近の男性患者Aさん(89)が話す。

 昨年8月にのどの急性炎症で別の病院に救急入院。すぐに気管切開手術を受けて状態は落ち着いたが、のみ込みができない嚥下(えんげ)障害になり、チューブで胃に栄養剤を注入する「胃ろう」を作った。発症直後の治療を担う「急性期病院」だったため、生活上のリハビリなどは行われず、3か月間の入院中はほぼ寝たきり。歩行も困難になって自宅に戻れず、昨年11月に世田谷記念病院に転院してきた。

 同病院は、急性期病院で治療を終えた患者を受け入れ、治療管理とともに在宅復帰に向けたリハビリを行う「急性期後」の役割に力を入れている。
高齢者に多い比較的軽症の肺炎や脱水症状などの救急患者にも対応している。

 Aさんは、転院初日から言語聴覚士による嚥下訓練を始め、次いでゼリー食などの食事訓練も開始。並行して、医師が気管に入れたチューブを少しずつ細くしていき、気管切開の穴をふさいだ。
胃ろうも不要になった。歩行訓練なども積極的に行い、今ではしっかりした足取りで歩き、身の回りのこともほぼ自力でできるまで回復。
在宅復帰が可能になった。担当する武久敬洋医師は、「適切なリハビリによって、自宅に戻れる高齢患者は多い。
高齢化とともに、こうした急性期後の役割を担う病院へのニーズが高まっている」と指摘する。

 だが、日本は病床数は多いが、急性期に偏り、急性期を脱した患者向けの病床が圧倒的に不足している。

 医療法では、病床を「一般病床(約90万床)」と長期療養目的の「療養病床(約21万床)」に大別している。急性期など機能別の区分はない。
ただし、大学病院などを除く一般病床(約67万床)には、看護師配置に応じて4区分あり、配置が手厚いほど急性期向けと想定されている。
現在は最も手厚い区分にその半数が集中。診療報酬が高く設定されているため、病院がこぞって選択した。

 こうした高齢化の現状に合わない、いびつな病床構成が、様々な弊害を生んでいる。

 一つは、救急医療へのしわ寄せだ。急性期を脱した高齢患者にふさわしい病院がほとんどないため、退院できずにいるケースも目立つ。
東京・多摩地域で急性期医療の中核を担う公立昭和病院の上西紀夫院長は、「こうした高齢患者が急性期の病床をふさいでしまい、新たな救急患者を受け入れられない病院もあるのが実情」と指摘する。

 さらに、医療費の無駄遣いも問題だ。

 急性期の看板を掲げながら、入院患者の大半は状態が落ち着いた慢性期の高齢患者という病院も多い。病床数で3万とも10万とも言われる。
医療費は療養病床に比べて1人当たり月約20万円も余計にかかる。高度な医療施設や人材の無駄遣いでもあり、そのツケは国民に回ってくる。

 ■高齢者にどう対応

 高齢者にとっても望ましいことではない。

 高度急性期を担う大病院に居続けた方が安心だと考える患者・家族は多いが、在宅復帰へ向けたリハビリなどの機能を持たないため、寝たきり生活が続いて身体機能が衰えがち。
結局、自宅に戻れなくなる場合も多い。

 「病院・病床の役割分担を早急に進めなければ、団塊の世代が後期高齢者になる2025年には、日本の医療は立ち行かなくなる」と、公立昭和病院の上西院長は警鐘を鳴らす。

 国も、一般病床を「高度急性期」「一般急性期」「亜急性期」などの機能別に再編する方針を打ち出している。これを先取りして、病床再編に乗り出した地域もある。

 山形県酒田市。県立病院と市立病院がそれぞれ急性期医療を担っていたが、08年度に県と市が新組織を設立して両病院の経営を統合。
急性期を旧県立病院に、回復期などを旧市立病院に集約した。

 実現できたのは、ともに公立病院だったことが大きい。
ところが、日本の病院の8割は民間。経営上の利害がぶつかり合い、再編は一向に進んでいない。

 このため、政府の社会保障制度改革国民会議では、消費税引き上げ分で基金を創設し、将来の医療ニーズに合った病床再編を行う地域に補助金を出す案も提示された。
病院の自主性に任せるだけでは進まないとの判断からで、地域の複数病院や介護施設が一体化して取り組むことなどが条件だ。

 今後、75歳以上の高齢者が急速に増える。埼玉、千葉、神奈川県などでは約2倍に膨らむ。大都市圏を中心に高齢者の医療需要は一気に高まる。

 高橋泰・国際医療福祉大教授は、「地域ごとに、高齢者数の増加ペースやピークは大きく異なる。
地域の特性を踏まえ、長期的視点で病床再編を進める必要がある。ここ数年で本格的に動き出さないと、25年に間に合わない」と強調している。