守れるか社会保障制度 見えた医療改革の方向性

2013.05.16

 

NEWS&REPORT 02--守れるか社会保障制度 見えた医療改革の方向性
2013.05.18 週刊東洋経済



国民会議は国保の財政基盤強化と病院機能の再編で具体案を打ち出した。

本誌:長谷川高宏

 2014年4月からの消費増税に伴い、持続可能な社会保障制度のあり方を議論している政府の社会保障制度改革国民会議(会長・清家篤慶応義塾長)。その本丸ともいえる医療・介護分野の議論が一巡し、改革案の骨格が見えてきた。

 この国民会議が目指している医療・介護改革とは、増税で得られる新たな財源を元に病院・介護施設を地域の将来ニーズに合った形へと再編成。既存の病院・病床を有効活用しながら、入院期間を減らし在宅療養・介護にシフトすることで来るべき高齢化のピークを乗り切る──そんな姿だ。

 問題は、目指す青写真があってもそれを具体化する策がこれまで整わなかったことにある。それが今回の国民会議では、最難関ともいえる医療・介護体制の再構築について、総合的な政策パッケージの大枠を示すところまで議論が煮詰まってきた。

 改革内容は大きく分けて二つ。国民健康保険の財政基盤強化と、病院機能の抜本再編だ。
それを実現する手段として、左ページ下表のような提案を8月の最終報告に盛り込む方向で調整が進められている。

国保は都道府県に移管

 国保の基盤強化では、運営を現在の市町村から都道府県単位に広げる案に加え、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度への現役世代の支援金について、給与が高くなるほど保険料が上がる「総報酬割」を全面導入。
これによって浮く国庫負担2000億円を国保の赤字補填に使う案が出ている。

 高齢者支援金は加入者の人数に応じた「加入者割」が基本になっているが、これを総報酬割に転換すれば、加入者の所得が高い健保組合の負担は増える代わりに、中小企業主体の協会けんぽに対する国の補助金が約2000億円減少、国保の補填財源を生み出すことが可能になる。

 国保は公的な健康保険制度の一つで、無職の人やパートをはじめとする非正規労働者、自営業者などが加入。
しかし、高齢化で医療費の支払いがかさむ反面、非正規雇用によるワーキングプアの増加によって収入基盤は細り、赤字が慢性化している。

 財政基盤の弱い市町村では保険料が高騰。自治体間格差が問題となっているほか、低所得者の中には保険料が支払えず無保険状態に置かれる人も出てきている。
国民皆保険を国是とする日本にとって、「最後の砦」である国保を守り抜くことは改革の大前提といえる。

 そして、さらにその先に控えているテーマが病院機能の抜本再編だ。

 日本の医療は、国際的に見て人口1人当たりの病院・病床数が突出している反面、病床当たりの医師・看護師数は少なく、過重労働が常態化。医療機関の役割分担があいまいで、診療科目や医師の配置が地域的に偏り、救急患者が受け入れ不能になる事態もたびたび指摘されている。
さらに、リハビリや在宅療養・介護の体制整備も遅れているため、入院が長期化し、それが医療費を圧迫している。

 しかも、こうした問題は今後の超高齢化でさらに深刻化することが明白だ。
左図のように、医療・介護の受け入れ能力と高齢化の度合いは地域で大きな差があり、このままいくと北海道などでは能力がダブつく反面、埼玉県和光市や愛知県岡崎市をはじめとした大都市圏では受け皿が不足し、医療・介護難民が発生することが予測されている。
しかし、日本は民間病院が多く、公立病院中心の欧州と違って国がトップダウンで再編するには限界がある。

 では、どうするか。もちろん、現状維持では問題は改善しない。そのうえ、医療費は高齢化によって自然と増え続ける。
そこで、あえて公費を追加投入することで、必要な医療・介護を確保し問題解決を図ることが08年の国民会議で検討され、それに必要な財源も消費税率換算で試算された。
「税と社会保障の一体改革」は、これと呼応する形で行われたものであり、増税が決まった今、残された社会保障サイドの具体的な改革策を用意することが求められているわけである。

 今年1月に提示された財務省の審議会報告書は、そうした経緯が表現されている。「急性期病床への医療資源の集中投入等により『高密度医療』を実現し、平均在院日数の減少等を通じて医療費の適正化につなげるという政策パッケージのためにあえて行う公費負担であり、その政策効果の発現には、診療報酬の重点配分を図るといったソフトな動機付けだけでは不十分なことは明らかである」。

つまり「今回の会議は財源をどう使うかが焦点。長い議論を踏まえると、選択肢は限られている」(委員の権丈善一・慶応大学教授)。

増税財源の使い道を議論

 こうした流れで提示された案が、補助金を用いて自治体や病院などに医療・介護の自発的な再編を促すスキームだ。
増税財源の一部を使って基金を創設。医療・介護資源の再配分に向けてシンクタンク機能を担う専門チームを国に組織し、本気で改革に取り組む意志のある自治体を資金と知恵の両面で支援する。

 さらに、医療法を改正し、医療機関の指定・取り消し権限を与えるなど都道府県の役割を拡大。
医療法人の統合を促すための仕組みとして持ち株会社制の導入や、高齢者住宅の整備に向けた資金調達手段としてのヘルスケアREIT(不動産投資信託)など、各種の規制改革策も組み合わせて改革を促す方向だ。

 国民会議の期限は8月21日。政府にも、その日までに「必要な法制上の措置」を講じることが法で義務づけられている。
最終報告には、総報酬割の全面導入のように大企業が反発しかねない政策も盛り込まれる見通しだ。経済界の反発をはねのけ、政治的な決断を下せるか。
今後はそこも焦点になってくるだろう。

[写真]国民会議の委員は学者が中心。政治家などの利害関係者を排除し、「専門家の観点から最も望ましい案を提示する」(清家会長)役割を担う