「医療後進国」になるな 産業化で競争力 皆保険維持に不可欠 

2013.05.09

 

「医療後進国」になるな 産業化で競争力 皆保険維持に不可欠 読売新聞社提言
2013.05.08 読売新聞) 


 日本の医療には確実に危機が忍び寄っている。
地域や診療科による医師の不足や偏在は深刻化したままで、急増する救急患者への対策も不十分だ。
公的医療保険制度は財源不足で持続への黄信号がともっている。
基礎研究の成果は医療の現場に生かされず、国民は、高い水準を誇る研究の果実を享受しきれていない。
日本の医薬品と医療機器は国際競争力に乏しく、約3兆円もの貿易赤字で成長の足かせとなっている。
安心で良質な医療を再構築するには何が必要か。読売新聞社は医療改革に関する5項目の提言をまとめた。医療の国際競争力を高めて成長エンジンとし、優れた研究成果を医療現場につなげるよう求めている。


 〈提言のポイント〉

 ■医療を成長のエンジンに  医薬品と医療機器の競争力を高めよ

 ■優れた研究成果を生かせ  医工連携で技術革新を

 ■安全安心の日本ブランドを 高度技術で海外に打って出よう

 ■産業化で地域医療を元気に 情報通信技術や特区を活用

 ■国民皆保険を堅持しよう  混合診療の拡大で新技術を促進


 読売新聞社は、編集局や論説委員会などの専門記者による「医療改革研究会」で、外部有識者との意見交換を通じて医療の改革について検討してきた。
医療に関する提言は、「医療は公共財」との視点から、信頼できる医療体制の確立を目指した2008年10月の提言に続くものだ。

 日本の2010年度の医療費は37兆円に達した。高齢化や技術の進歩に伴う医療費の高額化で25年度には62兆円に膨れあがるという。
地域医療の疲弊も、突き詰めれば財源不足に行き当たる。資金面での基盤強化は不可欠だ。

 国民皆保険など優れた医療保険制度は維持すべきだ。
ただ、保険料引き上げだけで対応するのは難しい。保険医療のこれ以上の水準切り下げも望ましくない。

 国民皆保険を断固守るには、危機感を持って取り組む必要がある。医療を周辺の医薬品、医療機器、健康産業などを含めて「基幹産業」と位置づけ、産業化を進めるべきだ。
一部に競争原理を導入するなどして、効率化を図り、制度維持に民間資金を活用することも考えたい。
対応を急がなければ、高い技術を持ちながら、国民がその恩恵を受けられない“医療後進国”になりかねない。

 医療や周辺産業の競争力を強めることが肝要だ。
医薬品や医療機器の貿易赤字は年々拡大し、11年は2・9兆円に上る。国民が払う税金や保険料が国外に流出しているともいえる。

 医薬品や医療機器が承認されるまでの時間が長い。企業の開発意欲をそいでいる不合理な審査は見直すべきだ。
その場合、公正・透明なルールの下、安全性を確保するのは当然だ。外国と比べて高い法人税実効税率の引き下げや研究開発減税の拡大で国内投資を促し、産業の空洞化を食い止めなければならない。

 医療・福祉分野の就業者数は約730万人で、基幹産業の自動車関連(約545万人)を大きく上回る。医療分野が成長産業になれば雇用や消費拡大を通じ、経済の活性化にもつながる。

 ◆特区拡大し技術集積

 iPS細胞(人工多能性幹細胞)研究が昨年、ノーベル賞を受けた。こうした優れた研究成果を基礎研究で終わらせず、臨床への応用や製品化に生かし、国民医療の向上につなげたい。現在は研究成果や、それに伴う特許料などは、多くが海外に流れている。流出を防ぐためにも、第二の「iPS」ともいうべき画期的な研究成果を見つけ、国内で育てるべきだ。

 米国では新興企業が集まる医療産業集積地が研究開発の一大拠点となっている。日本にはそれがなく、研究開発の遅れの一因となっている。本格的な医療産業集積地を特区の拡大などで促し、人材や資金、情報を集中させるべきだ。研究費の戦略的な予算配分も欠かせない。縦割りを排する政府の体制整備も急ぐべきだ。

 日本企業には優れた「ものづくり力」がある。医師や研究者、企業による「医工連携」を進めることで、卓越した成果を生む、医療イノベーション(技術革新)が期待できる。高齢化が進む日本には優れた「日本式医療」システムもある。官民一体で海外展開し、新興国を中心に売り込むべきだ。医薬品、医療機器などの市場開拓にも結びつく。

 産業化による医療の底上げや関連産業の振興は、地域医療の充実や経済の活性化、雇用確保につながる。また「いざという時に十分な医療・介護が受けられる」という安心感は国内各地域の活力維持に欠かせない。米国では複数の病院によるネットワークが地域医療を支える。日本も情報通信技術などを活用し、医療機関の連携を強めるべきだ。

 環太平洋経済連携協定(TPP)で、日本の医療制度は交渉の議題にはならない見通しだ。ただ将来、保険外診療の拡大などで国民皆保険が影響を受けないようにするため、産業化に加えて、制度の見直しが大事だ。

 公的保険を適用する治療法、薬剤については、費用対効果を適正に評価する改革を進め、適用範囲の見直しも必要だ。iPS細胞などへの混合診療の拡大も、早期に実現すべきだ。


 ■医療改革提言関連

 成長戦略の中核  3

 技術実用化急げ 17

 臨床応用迅速に 18

 日の丸機器展開 19


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医療改革 読売新聞社提言 日の丸機器 積極展開=特集その3
) 


 〈3〉安全安心の日本ブランドを

 ■高齢化日本ならではの産業展開を

 ◆福祉ロボ 突破口に

 世界の先頭を走る超高齢社会の日本で、得意の産業ロボット技術を活用し、福祉ロボットの開発、普及を目指すべきだ。

 日本の2012年の高齢化率は24%と世界一だ。経済産業省がまとめた介護・福祉分野でのロボットの市場予測によれば、15年に167億円、35年には4000億円を超す。

 日本の福祉ロボットは、既に海外から注目を集めている。その好例が、ロボットスーツ「HAL(ハル)」だ。筑波大の山海嘉之(さんかいよしゆき)教授が開発し、医療機器新興企業「サイバーダイン」が09年、世界で初めて発売した。

 筋肉の微弱な電気信号の変化をセンサーでとらえ、腕や足に障害を持つ人の運動を補助する。ドイツの病院にも試験導入された。

 産業技術総合研究所が開発したアザラシ型ロボット「パロ」は、ギネスブックで「世界一の癒やしロボ」と紹介され、国内で約2000台、世界30か国以上に約500台が出荷された。高齢者の精神的安定と老後の豊かな生活につながるとして、国際的評価も高い。

 福祉ロボットは、食事や排せつ、移動などの支援で開発が進む。高齢者や障害者を助けるだけでなく、介護にあたる人を重労働から解放する。しかし、国内の介護現場に普及はしていない。

 1台あたり数十万~数百万円と価格が高く、介護現場に有用性の情報が十分に伝わっていない。操作や管理が難しかったり、人が介護するより時間や手間がかかったりするなど、高齢者や障害者、介護者が「使いやすい」「作業が楽になった」と感じるまで、機能が成熟していない。

 ロボット技術者の発想と工夫だけでは足りない。国が主導し、産業界と高齢者福祉の現場を結んで、真に魅力ある製品開発に向けた交流と意見交換を支援したい。国内で安全と信頼の実績をまず作らなければならない。

 国は、機能を簡素化した1台10万円程度の介護ロボットの普及に乗り出す。世界市場の開拓が見込めるロボットの研究と導入に助成し、未来の世界市場を先取りする機器の開発と普及を促すべきだ。

 補聴器や音声の字幕変換装置、点字ディスプレーなど、高齢者や障害者が失った五感を補完する電子機器やソフトも、世界的に市場の拡大が見込まれる。

 国連が12年10月に発表した報告書によると、世界の60歳以上人口は50年に20億人、総人口の22%に及ぶ。65歳以上の高齢化率は50年に韓国で33%、中国は26%の見込み。富裕層が生まれるアジアの高齢化が進んでおり、海外展開の好機だ。

 福祉ロボットや福祉機器の世界展開は、日本の国際的な信用を高めることにもつながる。「福祉・健康分野のクール・ジャパン」としてアピールすべきだ。

 ■予防・在宅医療を輸出の核に

 ◆魅力の20兆円市場

 政府が今後推進する医療システムの輸出では、予防医療など日本の得意分野を生かすべきだ。

 経済産業省の試算では、ロシア、中国、東南アジアなどの新興国の中間層の5%程度に日本式医療が浸透すれば、20兆円の市場規模が見込めるとしている。

 先行するのは、米国や韓国だ。医療機関と企業が一体となり、医療機器と情報通信技術(ICT)を含む医療機関の輸出を推進。韓国のサムスン医療院は2010年、アラブ首長国連邦(UAE)に医療センターを開設しており、新規参入には日本ならではの特長を売り込む必要がある。

 脳や心臓のドック、がん検診など画像診断による予防医療は、日本の得意分野の一つ。新興国に画像診断センターを作り、遠隔システムで結んで日本で診断する。

 在宅医療も日本で独自の発展を遂げつつある。米国では看護師による訪問が中心だが、日本では医師が24時間体制で往診し、入院病棟とほぼ同じ医療を提供する診療所もある。

 GEヘルスケア・ジャパン(東京)は青森県と組み、12年12月から超音波、エックス線などの小型診断機器を搭載した車を使い、地域医療システムの実証実験を始めた。従来なら入院が必要な人も、在宅で検査を行えるようになったという。

 カルテの管理にモバイル端末を使うICTの活用も進む。こうした在宅システムは、近くに大きな医療機関のない新興国の地方都市などに需要がある。

 政府は4月、日本の医薬品や医療機器と医療システムをパッケージにして輸出するため、官民共同組織を設置。ロシアとUAEにがん治療施設などを建設するプロジェクトを担う見通しだ。まず、新興国の富裕層に照準を当てるが、中間層への拡大も視野に入れる。

 輸出を加速させるためには、中間層も意識したニーズ調査と日本型ビジネスモデルの創出が欠かせない。医師と企業が一体となって付加価値の高い医療システムを開発し、政府と連携して売り込みを図るべきだ。

 ■日本型付加価値を創出しよう

 ◆診断系を売り込め

 医療機器は「安全・安心」という、日本らしい付加価値を前面に押し出した製品を開発し、世界展開を図るべきだ。

 医療機器を治療系と診断系に大別した場合、診断系で日本は一定の国際競争力を持ち、健闘している。

 例えば、高度医療に必須のコンピューター断層撮影(CT)装置。日本貿易振興機構によれば、日本製品のシェア(市場占有率)はシンガポールで81%、タイ55%、ベトナム41%と、いずれも首位だ。超音波診断装置でもシンガポール、ベトナム、台湾で40%前後と、トップシェアを誇る。

 手術の傷が小さく、患者の社会復帰が早い「内視鏡手術」は、途上国の病院でも普及しつつある。内視鏡の中でも、先端が柔らかく動く「軟性内視鏡」は、医師と患者の双方の負担を軽くする画期的な機器だ。

 軟性内視鏡は、国内企業3社で世界シェアのほぼ100%を誇る。光学機器で優れた技術を持つ企業がいち早く医療機器に参入し、技術開発を進めた結果だ。

 日本製品に対する信頼が強い国・地域を足がかりにして、ブランド戦略に活路を見いだすべきだ。

 日本の医療機器の承認審査は、安全性や性能の検証に手間がかかり、国内外の医療機器メーカーに不評だ。優れた機器が、患者に届くまでの期間が短縮できない問題点も抱えるが、それが武器になることもある。

 昨年1月、メキシコ政府は、日本の薬事法で承認を得た医療機器について、メキシコの衛生登録制度で認められたものと同等とみなす制度の導入を公示した。

 安全面で妥協しない日本の承認審査システムが海外で評価されたことを意味する。この審査を通った医療機器を、日本ブランドとして世界にアピールする手立てを考えたい。

 ■医療ツーリズムで顧客を呼ぼう

 ◆得意分野を提供

 世界では国境を越えて患者が移動している。日本も海外の患者の受け入れを進めるべきだ。

 海外の患者を自国に呼び込む「医療ツーリズム」は、アジアを中心に盛んになっている。タイには年間約150万人、インドにも同約85万人の患者が訪れる。

 アジア諸国では、年間数十万人の外国人患者が訪れる病院は、営業担当職員が中東、アフリカなどの政府高官に働きかけ、患者の争奪戦を繰り広げている。マレーシアや韓国は、医療ツーリズムを国策と位置づけ、誘致運動を展開する。

 日本でも、2010年に閣議決定された「新成長戦略」に外国人患者の受け入れ促進が盛り込まれた。

 だが、国内には多数の外国人患者の受け皿となる病院がない。海外の病院のように、外国人を診療した分、医師に報酬が入るわけではなく、言語や文化の違いなどでトラブルを抱えやすいからだ。日本で医療ツーリズムは成功しにくい。

 ただ、座して待っていても患者は来ない。そこで、国主導で医療ツーリズムを主眼に置いた「高度医療センター」を作ってはどうか。先行するアジア諸国との差別化を図るため、センターでは、日本でしか受けられない医療を提供する。

 生体肝移植は、長年、脳死移植の閉ざされた日本で飛躍的に発展した技術だ。肝臓病の多い中国やアジア諸国で、富裕層などに潜在的な需要は高い。安全、倫理面に配慮して受け入れたい。不妊男性の精子採取技術も水準が高く、海外の患者が訪れる専門医もいる。

 がん治療では、がん細胞をピンポイントで攻撃する、新たな放射線治療「ホウ素中性子捕捉療法」も注目される。国内で世界初の治験が始まっている。

 通訳の配置など医師に負担のない体制を整える。先端医療研究施設の集まる神戸に設ければ、医療産業の集積も起きやすい。

 日本ならではの医療が浸透すれば、健診や内視鏡治療など、もともと日本の強い分野に対象が広がるだけでなく、医療通訳や旅行・観光業、保険業などへの波及効果も期待できる。

 医療の国際化は、先端医療の発展など国内の患者の利益にもつながる。


 〈5〉国民皆保険を堅持しよう

 ■公的保険の範囲を見直せ

 ◆財源強化し土台を補強

 環太平洋経済連携協定(TPP)への参加で、国民皆保険など日本の医療制度が揺らぐとの指摘もある。皆保険制度は議題とならない見通しだが、保険外診療の過度な拡大を通じ、間接的に影響を受ける可能性がないわけではない。

 それに備える意味でも、皆保険の土台を強化する必要がある。高度成長期と違って財源が細る超高齢社会では、産業力や成長力を強化し、税収増を実現するなどして財源面からも皆保険の土台を補強しなければならない。そのために産業化の視点は大切だ。韓国では、医療界は生き残りのためにITを駆使して効率化を進め、皆保険を維持しながら医療の革新につなげた。産業化は日本の医療が衰退しないためにも必要だ。

 同時に、公的保険制度の強化に向けて公的保険の範囲見直しも欠かせない。医療給付費は毎年1兆円ずつ増えている。今後の医療革新で実用化される再生医療など様々な新技術の恵みを享受するためにも、制度の見直しが肝要だ。

 まず着手すべきは、新しい医療技術や薬剤に公的な保険を適用する基準の見直しだ。医療費増に直面する先進各国では、審査機関が費用対効果を適用や価格決定の物差しにしている。英国では生存年数と生活の質から費用対効果を評価する。ドイツでは新薬の費用対効果を従来の医薬品と比べている。日本でも費用対効果の視点導入を目指した検討が昨春に始まった。

 開発に巨額の資金がかかる新医療技術は高額になりがちだ。公的保険に導入する段階で、どのくらい延命効果があるのか、従来の医薬品などと比べて治療効果が高いのか、生活の質を改善できるのかなど、費用対効果の観点で検証する体制を早期に整えるべきだ。

 同時に、すでに使われている医療技術についても、著しく費用対効果が落ちるものを公的保険から外すなどして、医療費の適正化を図るべきだ。

 ただし、患者の数が少ない病気や、一つしか有効な治療薬がない病気は、費用対効果での選別にそぐわない。例外規定を設けるなどの配慮も欠かせない。

 医療技術の価格を決める診療報酬も改めるべきだ。調剤の技術料が高すぎるため、調剤薬局の収益がアンバランスに大きい「調剤バブル」のような現象も起きている。費用対効果や医師の技術レベルなどを適切に反映させる必要がある。

 介護保険の適正化も必要だ。現役並み所得の高齢者の自己負担割合や、介護の必要性の低い人へのサービスも見直すべきだ。

 ■病院経営にコスト意識を

 ◆人員配置適正化 業務改善を徹底

 国民に持続的に必要な医療を提供するには、病院の健全経営が欠かせない。だが、現状の経営基盤は極めて危うい。国公立を除く一般病院の33%、国公立病院の50%が赤字だった。無駄な支出を減らす経営努力が必要だ。

 特に、都道府県、市町村などの自治体病院の改革は待ったなしだ。973病院の赤字総額は06年度で1997億円に上る。病院長・管理者に、民間病院で実績を積んだ人材を招き、人員配置の適正化など徹底した業務改善を行うべきだ。

 民間医療法人の場合、経営を行う理事長は原則として、医師や歯科医師に限られる。経営立て直しの人材を広く集められるように要件を緩和すべきだ。病院の健全経営は、医師や職員の負担軽減につながるし、医療の質向上も期待できる。

 さらに、医療界全体でも、コスト意識を徹底すべきだ。高度な医療検査機器の人口当たりの台数は、日本が飛び抜けて多い。コンピューター断層撮影(CT)装置では、人口100万人当たり97・3台で、経済協力開発機構(OECD)各国平均の4倍強だ。地域での病床数を規制する医療計画の対象に、高度な医療機器も含めることを検討するべきだ。

 重篤な患者のための病床が全体の4割弱も占めるなど、医療提供体制はゆがんでいる。高齢化が進む将来は今以上に、容体の落ち着いた患者向けの病床の必要性が増す。機能の異なる病床ごとに数に上限を設け、再編を急ぐ必要がある。

 ■混合診療を拡充しよう

 ◆再生医療へ拡大

 医療の進歩に伴い、最先端の医療技術の恩恵を早く安全に受けたいという要望が強くなっている。一方、日本では公的保険で認められた検査や投薬などと、保険外の治療法を併用する「混合診療」は一部の例外を除いて禁止されている。

 例外となるのは、厚生労働省が指定した先進医療約100種類にとどまる。指定外の未承認の治療を受けると、本来は保険が適用される入院費用なども含めて全額が自己負担となる。高額の医療費が治療の妨げとなる患者もいる。

 今後、医療革新の果実を広めるためには、iPS細胞を使った再生医療への混合診療の拡充が必要だ。

 安全性の面から、混合診療を野放図に拡大するのは難しい。しかし、将来は、公的な評価機関で安全性に問題ないとされながら、費用対効果の観点から公的保険に入らない医療技術も、混合診療の対象に加えることも検討すべきだ。

 費用の割に延命効果が低い最先端の医療技術でも、患者・家族が最後の治療法として希望する場合がある。こうした要望に応えるだけでなく、製薬会社、医療機器メーカーの開発意欲を促すことにもつながる。

 混合診療の拡大によって、高額の治療法を医師が勧め、患者の自己負担や、国民医療費が膨らんでしまうなどの懸念もある。費用対効果を的確に検証し、治療を受ける利点、期待される延命効果、副作用を患者、医療機関にわかりやすく示す仕組みを構築すべきだ。