解消しない待機児童問題に親の怒り爆発!

2013.05.05

解消しない待機児童問題に親の怒り爆発!
姑息な株式会社外しではなく根本議論を
( 週刊ダイヤモンド 2013年3月21日 週刊ダイヤモンド編集部 )



 東京都心部で働くママの怒りが頂点に達しようとしている。

 この春、認可保育園に申し込みをしたが、多くの子どもの入園がかなわなかった。
そこで、親が抗議の声を上げているのだ。杉並区、大田区、渋谷区などで行政不服審査法に基づく意義を申し立て、保育園増設などを訴えた。

 保育園問題に熱心に取り組む山田耕平・杉並区議(日本共産党)は「杉並区は予測ができなかったというが、他の区に比べても認可保育園の設置に消極的でこの状況は起こるべくして起こった」と批判する。

 待機児童問題と聞いても、東京都心などで子育てをしていない人にとっては、あまりピンとこないかもしれない。
そこで、小学校入学前の子どもを受け入れる施設にどのようなものがあるか、解説しよう。

 まず大きくは、保育園と幼稚園にわかれる。幼稚園は基本的には保育園に比べて子どもを預けることができる時間が短い。
つまり、共働きのケースでは保育園の利用が大多数となる。

 さらに、その保育園も大きく分けて、認可保育園と認可外保育園がある。
認可保育園は国と地方自治体により補助金が出るため、施設や人員などが認可外保育園に比べて恵まれていて、親の支払う保育料も安い。

 ただし、認可外保育園の中には東京都の独自基準「認証保育園」のように、一定の補助を受けているケースもある(認可保育園よりは少ない)。

 しかし、総じて、認可保育園に比べて、設備、人員、保育料という面で劣る。
認可保育園には都心部ですら園庭がある園は珍しくないが、一方の認可外保育園は補助を受ける認証保育園ですら雑居ビルの一室に入居するものが多い。

 そこにすし詰め状態で子どもが遊んでいるため、地方出身の親がその様子を初めて見たときにはショックを受けることもあるほどだ。
それでいて、認可外保育園の保育料は月に10万円近くかかるケースもある。
認可保育園は子どもの年齢や親の状況によってかなり異なるが認可外保育園よりは安い。



解消しない待機児童問題に親の怒り爆発!
姑息な株式会社外しではなく根本議論を

もちろん、認可外保育園イコール悪というわけではなく、現場の保育士の質が必ずしも低いというわけではない。
一部には補助金をもらえる代わりに制約の多い認可にはなりたくないからと、あえて認可外保育園として良質な保育園を極めようという経営者もいる。

 しかし、一般的には認可保育園のほうが補助金も厚く設備も備えるから、多くの親にとって、「認可保育園に子どもを入れたい」というのは偽らざる気持ちだろう。

 それでも、認可保育園に入れることができない、というのが待機児童の問題なのである。

 根拠となる法律も存在意義も異なるが、あえて待機児童問題を小学校に置き換えて例えるとこういうことになる。

 毎年、春になると、小学校に入れない子どもがたくさん出てくる。
しかも、その状況は都道府県や市区町村によってまったく異なる。入れなかった子どもは認可外小学校で空きを待つことになる。同じ日本国民でも受けられる福祉、教育が異なってしまう――。 

 各地でママ達が異議申し立てをするのは当然と言えよう。

杉並区では申し込みの半分
認可外でも順番待ちで“保活”
 では、どれくらい入れないのか。

これはなかなか衝撃的な数である。
例えば、杉並区では認可保育所への申込数が2560人だが、認可保育所に入園できたのはおよそ半数の1243人だ。全国での待機児童数は12年4月時点でおよそ2万5000人だった。

 各自治体は緊急対策を発表しているが、保育園はすぐには建たない。
東京都心で働く親が認可保育園の申し込みで外れた場合、認可外保育園に通わせるしかない。

 ところが、今や認可外保育園ですら入れないのである。
先ほど、認可外保育園の一例として東京都の独自基準である認証保育園を紹介したが、杉並区などの待機児童が多い区では、認証保育園ですら入園待ちの児童を多数抱えている。





解消しない待機児童問題に親の怒り爆発!
姑息な株式会社外しではなく根本議論を
 区が申し込みを取り仕切る認可保育園と違い、認証保育園は申し込んだ順に入れる“早いもの勝ち”というところがほとんどだ。

 多くの親たちは、認可保育園に入れなかった場合を見越して、生まれたばかりの子どもを抱えて、認証保育園回りをしているのだ。

 これが学生の就職活動の略称「就活」をもじって、“保活”と言われている。

 認可保育園にも認証保育園にも入れない子どもは、ベビーホテルと呼ばれる認可外保育園に預ける、あるいは、空きが出るまで、他県に住む両親に子どもを預けて働き、週末だけ会うというケースすらある。

 児童福祉法では、両親が共働きなどで保育できない子どもを、市町村は保育所で保育しなければならないと定めている。
つまり、現状は明確な違法状態なのである。

 さらに、国は社会への男女の参画を進めると声高に主張しているし、育児休業法は改正され企業の育児支援制度も進んでいる。
しかし、保育園に入れることができないということは、それら全てが無意味となってしまう。

 保活に疲れ果てた上での、認可保育園への落選……。親たちの間には怒りと不満が渦巻く。

 よく耳にするのは政治家による口利き疑惑だ。
ある親からは「区議に口利きを依頼して入園できた」と聞いたが、一方で、「大丈夫だと区議に言われたのに入れなくて、突然、認証保育園探しを迫られ、途方にくれた」という親もいた。

 一方、保育園関係者からも「多くの区の申し込み方法は申込者の状況に応じて点数化しているから、不正はほぼ不可能だと思う」「選考で点数が近い世帯があれば、区の担当者は口利きしたほうを選ぶということはあると思うし、園側としてもそれを感じる時もある」と、正反対の意見が聞かれた。

 いずれにしても、親たちのあいだに猜疑心が生まれているのは事実だ。



解消しない待機児童問題に親の怒り爆発!
姑息な株式会社外しではなく根本議論を

時代に逆行するか
国の株式会社外し?
 この待機児童問題はどのように解決したらいいのか。

 まずは、予算の増大が求められる。なにしろ、福祉としてくくられる保育園問題だが、実は経済の問題でもある。
この惨状を見て「2人目はつくれない」と漏らす親も多い。国力として人口増加を真剣に考えるならば、人口が最も集中する東京での子どもを欲しいと思えない状況をなんとかすべきだろう。

 予算という国家レベルでの取り組みが大枠とするならば、現場でのヒントとなるのは横浜市の取り組みだ。
横浜市では他の地域ではなかなか進まない株式会社の保育園参入を促すなどし、待機児童解消にほぼ成功している。

 株式会社の参入――。これは保育園業界にとって長年のテーマだ。

 保育園の多くは、社会福祉法人という団体が運営している。社会福祉法人が加入する保育園の業界団体は、株式会社が参入することで「保育の質が下がる」として猛反発してきた。

「保育の質が低くなる」「利潤を追求しコスト削減のしわ寄せが現場にくる」など、既存の保育園業界の株式会社へのアレルギーはすさまじいものがあった。
冒頭で紹介した杉並区の保育問題に熱心に取り組む共産党区議らも株式会社の参入には否定的だ。

 批判を意識してか、すでに株式会社の保育園運営への参入は解禁されているが、長年、自治体窓口に実務上拒否されてきた。
それでも、徐々に参入が進み、現在では、東京23区のうち、世田谷区のみが株式会社の参入を強く拒んでいる。

 そうした状況の中、横浜市は株式会社の活用に大きく舵を切ったのだ。

 認可保育園を経営する株式会社の関係者は、株式会社であることのメリットをこう解説する。

「一つの園、あるいは少数の園しか持たない社会福祉法人の経営者には土地を探すノウハウが少ないが、認証と認可を含めて多くの園を経営している株式会社には土地探し一つとっても、ノウハウを多く持つ。
さらに大きいのは決断と行動のスピード感。社会福祉法人は遅すぎる」




解消しない待機児童問題に親の怒り爆発!
姑息な株式会社外しではなく根本議論を

 ちなみに、待機児童を抱える多くの自治体は「土地が足りない」と弁明する。
しかし、この株式会社経営者は「それはウソだ」とはっきりと言う。「数年前、世田谷区に土地まで確保した上で新設を提案したが、株式会社というだけで拒否された」

 株式会社といえども、万全ではないので、野方図に拡大するのは問題があるが、一定の成果を出しているのは間違いがない。

 そもそも保育の質という言葉は曖昧だ。
認可保育園の中には社会福祉法人ではなく、市区町村が運営する公立の認可保育園もある。これらの公立認可保育園には、歴史が長いからか、“独自”の保育方針を持っているところもある。

「荷物が多かったので一度、家に荷物を置いてから迎えに行ったら、“自宅に戻らず、まずは迎えにきなさい”と保育士に責められた」「夏にサンダルを履いて迎えにいったら指摘された」「自宅で仕事をしていると伝えたら、そんな日は子どもを預かれないと言われた」など、東京都の区立保育園では、その方針についていけずに転園を望む親も少なくない。

 保育の質というのは、曖昧でわかりにくい。
であるならば、社会福祉法人と株式会社を比べて、保育の質や事故の率、親の満足度などにどれくらい差があるかなどを調査すればいい(認可保育園と認可外の事故発生などを比較した調査はあるが、そもそも補助金の有無も異なる両者を比較して株式会社が劣るとするのは意味がない比較だ。
認可園で比較すべきである)。

 あるいは、社会福祉法人、公立、株式会社に対して分け隔てなく監査を強化するなどすればいい(地域によって異なるが現状の自治体や第三者機関による保育園の監査は“ザル”という指摘も多い)。

 もはや、お題目のように、「株式会社反対」と言い続ける状況ではない。共働き世帯は増加中で既に1000万世帯近くになり、専業主婦のいる世帯を上回っている。


解消しない待機児童問題に親の怒り爆発!
姑息な株式会社外しではなく根本議論を

 筆者は共産党区議、株式会社の双方に接しているが、子育て、待機児童問題に関する両者の思いはそれほど離れているように感じない。

 山田区議は「区議の中には、“女性は働かずに家で子育てをすればいい”という意見をもつ議員も多い」と明かす。

 実際に、待機児童問題への不満が高まる中、田中裕太郎・杉並区議が「子育ては本来家庭で行うもの」とブログに書き、袋だたきにあった。
このブログの投稿内容はチンプンカンプンなものだが、それでも「女性は家庭で子育てを」という強い考えがあることだけはわかる。

 実は、保育園の諸問題を遅々として進ませないのは、こうした考え方そのものなのではないかと思う。

 株式会社が待機児童問題解消に貢献するのならば、むしろ、問題が起こらないように制度設計をし、支援していくというのが筋ではないだろうか。

 ところが、国の政策決定の場では、その真逆の、株式会社排除の動きが進みそうだ。

 2013年4月から始まる「子ども・子育て会議(仮称)」では、保育園問題も含めて、総合的な子育てに関する政策が議論される。
これまで、この種の国レベルの会議には、株式会社が所属する保育園の業界団体も出席してきた。

 ところが、今回、水面下では株式会社の団体の代表は外される動きがあるという。このままでは、社会福祉法人やNPO法人が所属する団体のみで議論が進む可能性が高い。

 ちなみに、人選は厚生労働大臣含め、3大臣の協議で決めるというが、田村憲久厚生労働大臣は全国保育関係議員連盟に加わるなど既存の保育園団体、「日本保育協会」とつながりが深い。




解消しない待機児童問題に親の怒り爆発!
姑息な株式会社外しではなく根本議論を

 保育園問題は福祉、教育を超えて、経済問題でもある。
加えて、安倍晋三内閣は海外からは構造改革路線に踏み出すのではないかとの期待も広まっている。

 株式会社関係者を議論から除外し欠席裁判をするようなことだけはやめたほうがいい。怒れる親たちは、4月からのこの会議のメンバーおよび議論の内容に注目すべきだろう。

 実は、日本では人気の認可保育園だが、子ども1人当たりの職員数など法律の基準は世界的に見てかなり低い水準にある。

 橋井健司・新教育デザイニング社長は、外資系企業に長年勤め、保育園業界以外からの意見を取り入れた特徴ある教育をしたいと、世田谷区で保育園を設立した。幼児教育について調べ、他の園へのコンサルティングなども行っている。

 橋井社長は「認可か認可外か、社会福祉法人か株式会社かと争う議論だけにこだわるのではなく、国として保育問題に本腰を入れないと世界の中での幼児教育のレベルは低いままだし、待機児童問題も解決しない」と明かす。

 政府は3~5歳児の幼児教育の無料化を目指している。
少子化対策への意気込みは感じるが、待機児童や国際的に見て低い保育園の設置基準などを解決する前に無料化を進めるのは、ちぐはぐに見える。

 毎年春になったら後手にまわるような対策ではなく、根本の制度設計、それに合わせた予算を含めて議論をする時期に来ている。