増えぬ新規参入 減らぬ待機児童

2013.05.05

 

増えぬ新規参入 減らぬ待機児童
保育園問題の不合理
(週刊ダイヤモンド2010・2・16)

共働き世帯の増加に合わせて急増する保育園の需要。だが、供給がまったく追いついていない。
認可保育園に入れない子どもは80万人を超えているが、少ない予算、硬直した制度や既存保育園の反対などにより新規参入は進まず、増加のスピードは遅い。

株式会社はなぜ排除されるのか。
制度のどこが問題なのか。予算は本当に足りないのか。子どもの前に横たわる問題を追い、処方箋を示したい。(「週刊ダイヤモンド」編集部 清水量介 深澤献)

急増する待機児童
少ない予算と硬直した制度で
80万人が保育園に入れない!

税金が投入されている認可保育園に入れない子どもが80万人以上もいるという不平等が長らく放置されている。
誰が待機児童を生み出しているのか、その原因を追った。

 小学校に入れない子どもが80万人いる状況を想像してほしい。
もしそんな国があれば、とても先進国とはいえないはずだ。

 ところが、日本ではそれに近いことが、保育園で起こっている。



 国が定めた設置基準を満たし、公費によって運営される保育園を「認可保育園」と呼ぶが、この認可保育園に申し込みをしながらも入園できない「待機児童」は現在、2万5000人を超えている。

 さらに、厚生労働省の試算によれば、潜在的需要は80万人を超えるといわれている。
最初から諦めて申し込まない家庭や、近隣に保育園がない家庭もあるからだ。

 近年、待機児童問題を解消すべく保育園の増設が進んでいるが、それでも需要に追いつかない。

 その背景には、保育園に子どもを預けたいと思う共働き世帯の増加がある。
しかも、2008年の世界同時不況以降、夫の収入の減少を補おうと、働く女性が増えている。

「増えぬ新規参入 減らぬ待機児童
保育園問題の不合理 」

 もっとも、たとえ景気が好転しても、保育園に対するニーズは高止まりしたままだろう。

 日本の労働人口は2030年には現在の84%にまで減少すると予測されている。それを補うためには女性の社会進出を促すしかない。



 女性の社会進出の度合いを測る指数(GEM)は、日本は世界で54位でベトナムより低い。
逆にいえば、まだまだ余地は大きいことになる。子どもがいても安心して働ける社会をつくるためにも、保育園の拡充は急務なのである。

税金が投入されている園に
入れないという不平等
 
保育園不足のために「働きたい親が働けない」ことも問題だが、待機児童問題の本質は、大量の税金が投入されている認可保育園に入れる家庭と入れない家庭があるという「不平等」にこそある。

 まずは、小学校入学前の子どもを受け入れる施設について整理したい。
大きく分けると「幼稚園」と、「保育園」と「その他」の三つがある(

 幼稚園は預かり時間が短く、母親が専業主婦である場合を対象としている。
現在、3歳未満の児童を対象とした預かり保育という仕組みが広まっているものの、基本的には3歳児からの利用となる。

 一方の保育園は、対象は0歳児からで、預かり時間が長い。
つまり、共働き世帯の増加とともに増える待機児童の需要を満たすのは、幼稚園ではなく保育園やその他の施設ということになる。

 その保育園は認可と認可外に分かれている。

 認可保育園は前述のように設備や広さなど一定の条件を満たし自治体の認可を得た保育園。
さらに、公立認可保育園と、主に社会福祉法人が運営する私立認可保育園に分かれる。

 対して認可外保育園は、各種法人が自由に設置できる。ベビーホテルなどもある。

 そして、認可外保育園の中には東京都の「認証保育園」のように自治体が独自に設置基準を設け、補助金を出している例もあるが(同様のものは横浜市などにもある)、基本的に認可と認可外の違いは国や自治体からの補助金をもらえるか否かにある。


「増えぬ新規参入 減らぬ待機児童
保育園問題の不合理」

私立認可保育園には国や自治体から年間6800億円もの運営費が投入されている。
認可外保育園には東京都の認証保育園などの例外を除き、補助金はゼロだ。

 こうした補助金は保育料に還元される。

 たとえば、東京都23区内の公立認可保育園の場合、0歳児1人当たりに対して月40万~50万円台半ばが補助される。
もちろん、東京都や横浜市など財政に比較的余裕がある自治体だからこそ、補助金も多いわけで、地方の認可保育園では補助金が少ない地域もある。

 しかし、確かにいえることは全国の多くの認可外保育園にはこうした補助金がないということだ。

 つまり、この国には税金を原資にした公的な補助を豊富に受ける認可保育園の子どもと、まったくその枠組みからはずれた認可外保育園の子どもが存在する。

これが待機児童問題が意味するところである。いわば、公立小学校に入れる子どもと入れない子どもがいるという構図と同じなのである。

 しかも、認可保育園には正社員夫婦が優先的に入園でき、求職中や非正規雇用の夫婦の場合は、優先度が低い。
運用ルールも不平等極まりないのだ。

 総務省の労働力調査によると、リーマンショック以前の2008年4~6月期と2009年7~9月期を比較すると、女性の正規従業員は10万人減少する一方で、非正規従業員は14万人増えている。
全員が既婚で幼児を抱えているわけではないが、少なからず悲劇が生まれていることは想像に難くない。

 これほどまでに困る人がいて、不平等がまかり通っているのに、なぜ保育園は増えないのだろうか。
背景には、少ない予算、硬直した制度、その制度を守りたい既存の保育園の存在がある。

 まずは予算だが、厚生労働省は待機児童の解消には年間の運営費だけでも最大1兆4000億円が必要としている。

 現在、保育園には、運営費として6800億円、施設整備のために安心子ども基金として3年間で2700億円が投入されているが、厳しい財政事情の下では一気に解消できるだけの予算枠を獲得するのは簡単ではない。


「増えぬ新規参入 減らぬ待機児童
保育園問題の不合理」

次に、自治体による認可という仕組みにも問題がある。

 じつは、日本全国を見れば保育園の総数は足りている。
保育園の充足率は、2009年で95.7%と定員割れを起こしているほどだ。

 というのも、待機児童が問題となっているのは、ほとんどが都市部で、主要7都道府県、政令指定都市、中核市だけで待機児童全体の80.6%を抱えている。

 そして、待機児童問題が深刻な横浜市でも一部地域では、定員割れする保育園も登場している。

 つまり待機児童問題は、都市部と地方の偏在、都市部の中での偏在と、二重の意味での複雑さを持っているのだ。

 保育園業界のコンサルティングを手がける船井総合研究所の大嶽広展氏は「ニーズのあるところに適量を機動的に配置できないことこそが最大の問題」と指摘する。

古い制度設計と既存保育園の猛反発
 機動的な配置をスムーズに行うためには、認可保育園の制度設計を見直す必要がある。

 また、少ない予算で待機児童問題を解消するため、質を落とさず業務を効率化するような新しい発想も必要だ。
その点は従来の保育園経営者だけではあまり期待できないため、株式会社の参入など新しい血の導入も一つの選択肢といえるのだが、それは遅々として進まない。

 私立認可保育園の運営主体の90%は社会福祉法人が占めている。国は2000年に株式会社やNPOの保育園経営への参入を解禁しているが、実際には2%以下にとどまっている。

 なぜなら、既存の保育園業界が猛反発しているからだ。

「増えぬ新規参入 減らぬ待機児童
保育園問題の不合理」

 社会福祉法人の運営する保育園が中心となって設立した団体に日本保育協会、全国私立保育連盟、全国保育協議会などがある。
こうした団体は政治力を駆使して、新規参入を断固拒否してきた。

 特に日本保育協会は歴史的に自民党の橋本派と強く結び付き、地方、中央と政治力を発揮してきた。
2009年夏の衆議院選挙でも、園長会で堂々と「自民党に投票しよう」と訴える日本保育協会の地方支部もあった。

 また、ある保育団体は、厚生労働省の部会で株式会社参入を擁護する発言をする委員をはずすように、政治家に依頼したこともある。

 政治家にすれば、幼児には選挙権はなくとも、親や祖父母は大きな票田だ。既存の保育園側の要求をむげにはできないのだ。

 既存の保育園経営者の多くは、「株式会社が参入すれば利益一辺倒の経営を追求し、保育の質が下がる」と主張する。
だが、はたして本当にそうか。この点については、次回以降で詳しく検証するが、必ずしもそうとはいえない。

 ある保育園園長は「保育園業界は古い体質で、とにかくなにかが変わることをいやがる」と明かす。
自らの立場が危うくなることを恐れているのではないだろうか。

 変化を嫌うのは自治体も同じだ。株式会社が手を挙げても自治体は社会福祉法人を選択するケースも多い。
そればかりか、新設保育園の募集の条件として堂々と「社会福祉法人に限る」と表明している自治体も少なくない。

 少ない予算、古い制度設計、関係者のしがらみ──。これらが入り乱れて、保育園の新設のスピードを鈍化させている。

 そしてその傍らでは、あまりの不合理、不平等の犠牲となっている親子の不満が噴出し続けている。