院内感染率低減論文.

2013.04.30

 

院内感染率低減論文

記事原文

銅の表面がICU内の院内感染率を軽減する


著者:Cassandra D. Salgado, MD;i Kent A. Sepkowitz, MD;ii Joseph F. John, MD;iii J. Robert Cantey, MD;i Hubert H. Attaway, MS;iv Katherine D. Freeman, DrPH;v Peter A. Sharpe, MBA;vi, Harold T. Michels, PhD;vii Michael G. Schmidt, PhDvi


研究の目的: 院内感染症は、医療施設環境に存在する微生物によって引き起こされ、患者の死亡率や致死率を上げる原因となる。
院内感染症を減らすには、接触面の汚染微生物数を減らすことが有効な方法である。
通常の清掃に加えて、物質本来の性質として殺菌作用を保有する銅を環境表面に設置すれば、理論的には殺菌効果は一過性のものでなく持続するはずである。我々は、集中治療ユニット(ICU)内において、銅合金を環境表面に設置し、院内感染症リスクを低減できるかを調べることにした。

実験の設計: 無作為に選んだ治験意向患者(Intention-to-treat)、を2010年7月12日から2011年6月14日までの期間、調べた。

設定場所: 3つの異なる病院内のICU

患者: ICUでの治療が必要とされる者。

方法:  対象患者は無作為に銅合金の環境表面を設置したICU、もしくは設置されていない通常のICUでの治療を受け、それぞれの院内感染症の感染率、ならびにMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)もしくはVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)のコロニー化状況を調べる。

実験結果: 院内感染症感染率ならびにMRSAもしくはVREコロニー化率ともに、銅合金の環境表面を持つICUのほうが、通常のICUより低かった(0.071対0.123;P=.020)。
これは有意差のある減少である。院内感染症だけを取ると、感染率は0.081から0.034(P=.013)に低減した。

結論: 銅合金の環境表面を持つICUで治療を受けた患者の院内感染症感染率、ならびにMRSAもしくはVREのコロニー化状況は、通常のICUで治療を受けた患者との比較において、有意差をもって減少する。
銅合金の環境表面の臨床的な効果については、さまざまな環境下で治験を重ね、さらなる研究が必要である。

Infect Control Hosp Epidemiol 2013: 34(5)


所属:i. Department of Medicine, Medical University of South Carolina, Charleston, South Carolina; ii. Department of Medicine, Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, New York; iii. Department of Medicine, Ralph H. Johnson VA Medical Center, Charleston, South Carolina; vi. Department of Microbiology and Immunology, Medical University of South Carolina, Charleston, South Carolina; v. Extrapolate LLC, Delray Beach, Florida; vi. Sharpe and Associates, West Orange, New Jersey; vii. Copper Development Association, New York, New York.

本論文の受領: 2012年9月17日; 掲載許可2013年1月11日;電子出版2013年3月

Ⓒ2013 by The Society for Healthcare Epidemiology of America. All rights reserved. 0899-823X/2013/3504-00XX$15.00. DOI: 10.1086/670207

アメリカ合衆国では、入院患者の4.5%が入院中に感染症に罹患し(院内感染症)、その結果死亡する人は約10万人、それにともなう医療費は$350~450億増大していると推計される、。そのうえ、院内感染症を持つ患者の入院日数(LOS)は、持たない患者より長く(21.6日対4.9日)、退院後30日以内の再入院率も高く(29.8%対6.2%)、致死率も高い(9.4%対1.8%)。

ICUにいる患者は、疾病等の重篤性、体内に病原体が侵入繁殖する可能性の高さ、医療従事者と頻繁に接触する必要性の高さ、などの理由により、院内感染するリスクがより高くなる。
病院内に存在する微生物の動きは複雑で、環境表面に存在するのか、留置カテーテルなどの機器に内在するのか、患者自身に寄生しているのか、さらには医療従事者の手や衣服、または機器に存在する病原体の移動により、感染経路はさまざまである、、、。
環境汚染は、院内感染症を引き起こす病原体に感染する可能性を高めるが、このような病原体は医療施設で着用される衣服の布地に数週間も生存する。
患者が入院する場合、その病室には以前の入院患者が持っていたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、あるいはクロストリジウム・ディフィシルといった微生物が存在する可能性があり、患者はそういった病原体に感染するリスクにさらされる、。

院内感染を低減するためにさまざまな対策が取られ、CVCバンドルがもっとも一般的に広く用いられる方法であろうが、その他にも手洗いの徹底による衛生管理や多剤耐性病原体のスクリーニングなども行われる。

アメリカ合衆国疾病予防管理センター(CDC)は、院内感染予防のために、定期的かつ徹底的な清掃を推奨しているが、清掃の強化や抗菌力があるとされるものを設置することで院内感染が低減できるかについては、証明されていない。
目新しい方法としては、紫外線灯や過酸化水素水の噴霧があり、これらによって環境に存在する病原体数を減らせることはわかっているものの、院内感染の低減に臨床的効果があるかという疑問については、まだ解決されていない、。

金属である銅は、本来の性質として広範囲に有効な殺菌性を有している。実験室での研究では、銅の表面において、通常医療施設に存在する微生物、を含む微生物コロニーは2時間以内にその数を10-7以下と大幅に減少することが証明されている、、、、、が、臨床的な効果については、まだ調査がなされていなかった。我々は銅合金を表面に持つ6品目をICU内に設置し、その効果を測定する臨床実験を実施した、、、、。

実験内容

実施した病院

実験は3つの医療施設で行なわれた。1)サウスカロライナ大学医学部付属病院(MUSC);660床の3次医療大学病院、ICU内病床数は17、2)スローン‐ケタリング記念癌センター(MSKCC);病床数460、学術研究を行なう癌専門病院、外科手術患者用のICU病床数20、3)ラルフ・H・ジョンソン退役軍人医療センター(RHJVA)、病床数98、ICU内の病床数8。

それぞれの病院で、鼻腔内のMRSAコロニー化数をモニターした。MUSCとMSKCCでは他にも示しているとおりクロムアガー培養地を用いて、RHJVAにおいては、Jain他が述べているとおり、ポリマレーゼ連鎖反応を基にしたテストによって、微生物の存在を調べた。 直腸周辺のVREスクリーニングはMUSCとMSKCCでのみ行なわれ、他で述べているとおりの常例的微生物培養法を用いた。

すべての医療施設で、それまで通常実施されていたその病院の等級に合致する消毒剤を用いての清掃、消毒作業を続けた。
一般の病室ではVirex256を最低一日一度は使用した消毒と徹底した清掃を、さらにクロストリジウム・ディフィシルを持つ患者の病室では、Cavicideを使って、部屋の家具や器具などをその都度消毒した。こういった通常の消毒プロセス以上のことは行なっていない。

実験の設計と被験者

院内感染症の感染率ならびにMRSAもしくはVREのコロニー化率に対する銅合金の効果を測定するため、それぞれの病院のICUに銅合金の表面を持つ製品が設置された。
実験に際して、それぞれの病床を担当する看護・介護士は無作為に選ばれ、患者もベッドに空きのあるICU室に入れられた。
銅の表面があることで、看護における露出、部屋の条件などの偏りをなくすため、通常のICU室には隣接した準備室を設け、担当患者に接する前に、看護担当者はその部屋を通過することとした。
看護担当者は、どの部屋に銅が設置されているかを知らされていなかったが、医療行為を実施する医師は知らされていた。
合計650人の患者が無作為に選ばれ、2010年7月12日から2011年6月14日まであいだにICU内の16室(銅を設置した部屋8、通常の部屋8)に滞在することとなった(図-1)。この実験は、それぞれの施設の理事会、ならびに陸軍危機防御室で検討のあと承認されている。

患者の年齢性別などの属性、および臨床特性はデータとして取り込まれ、部屋の割り振りに偏りがないよう配慮した。
ICUでの実験は比較的出入りの少ない場所にいる患者を研究する機会を与えられるもので、この環境下であれば実験とは関係のない接触の可能性を抑えられる。
この実験期間中、参加したどの病院においても、院内感染、MRSA、ならびにVREの感染を低減する新たな方法は導入されず、また院内感染症や疫学的に重要な微生物による感染症の大流行は起きなかった。
すべての病院で衛生管理の基準を順守していることをモニターしてきた。

実験環境および表面を銅合金にした製品について

MUSCとMSKCCでは銅合金の表面を持つ製品を設置した部屋を3、それと同じ製品で通常の表面を持つものを置いた部屋を3、RHJVAではそれぞれを2部屋ずつとした。
以前の研究によって、ICU内で汚染微生物数が多く、なおかつ頻繁に触れる製品を6品選び、それらの表面を銅合金で覆った。
すべての病院で共通する品目は4、ベッドの手すり、オーバーベッド・テーブル、点滴用の支柱、見舞客用の椅子の肘置きである。
残りの2品目は、病院によって異なった。ナースコール用のボタン(MUSCとRHJVA)、コンピュータのマウス(MSKCC)、タッチスクリーンのモニター表面(MUSCとMSKCC)、ラップトップ・パソコンの手のひらを置くパッドである25。

すべての製品はそれぞれの病院で、同一の業者が表面に銅合金を覆う加工を行ない、合金の種類は用途により、耐久性、清掃のしやすさ、見た目などを考慮の上選ばれた25、。
これらの合金はすべて、米国環境保全局(EPA)によって殺菌性を認められたものである16。

環境のサンプリング

すべての場所で、上述6製品の環境的サンプリングが毎週実施された。
滅菌されたテンプレートを露出した表面に押しつけ、水平に5回、垂直に5回、均等に力を加えながら上からこすりつける。
サンプルはMUSCに送られ、結果を調べた。微生物学的な方法については、他の文献で述べられたとおりである25、。
サンプルの温度は、テンプレート製造者の指示どおり冷凍保冷パックによって4℃に保たれ、Dickson SP425によって、常にモニターを続けられた。
20℃を越えたサンプル、および輸送に3時間以上かかったサンプルは破棄された。MSKCCとRHJVAの表面微生物の凝縮方法として使用されたこの輸送方式は、輸送前、さらに輸送後、湿らせた綿棒にMRSA、VRE、緑膿菌、アシネトバクター、大腸菌の凝縮法によってそれと確定された微生物を置くことによって、有効性を証明されている。
銅設置室と通常の部屋での清掃による偏りをなくすために、銅ではない製品(ベッドの足載せ台)もすべての部屋で、対象品ではないということを実験に参加する病院の看護・介護士、環境サービスを行なう者、ならびに医療チームには伏せて、サンプル採取を行なった。

測定調査

最初に調べたのは、院内感染症の感染率、ならびにMRSA、VREのコロニー化率である。
患者はICUに入れられたときから、退院まで常に院内感染症の感染、もしくはMRSA、VREのコロニー化状況をモニターされ、これには国立ヘルスケア・セーフティ・ネットワークが定めた方法に基づき、それぞれの病院で実験内容を知らせていない研究者によって調べられた。
コロニー化しているかどうかは、モニターにより、あるいは臨床的培養により明らかになった。また院内感染症の感染やコロニー化が、ICUに入って48時間以後、もしくはICUを出てから48時間以内に見られた場合、その感染はICUで起きたと見なした。

患者の統計的属性、臨床特性、調査結果はインターネットを使ったフォーマットに記録され、それらの数値は自動的に電子データベースに送られて、分析された。
それぞれの病院でデータを採取する研究者は、この実験を行なう者には、研究者であることがわからないようにした上、今回の実験の二倍の規模を持つ院内感染症に感染していない患者を無作為に選んだサンプルとの比較により、院内感染症患者であることをはっきりと証明した。

臨床特性の分布は偏りがないようシャピロ・ウィルクス・テストを用いたカーブに沿った通常の曲線を描くようにし、標準偏差では中間値、もしくは四分位数範囲の中央点を示す形になるよう設計された。
実験グループと比較のためのコントロール・グループの差は、tテストもしくはウィルコクソンの符号順位検定を使って、想定した標準に合致しているかを分析した。
各カテゴリーのデータは相対度数表で示され、その差異はカイ二乗検定、もしくは正確率検定を使って分析された。二つのグループの院内感染症の感染率ならびにコロニー化率に関する差異の第一次分析も、同様にして行なわれた。第二次分析は、誤解を生じさせる可能性を探り、効果の加工・修正がないかを調べるためのものであり、以下の方法で行なわれた。
準備として、ロジスティック回帰モデルに含まれるべき非依存要因を決定し、二次変数アウトカムにおけるサンプル属性や臨床特性が、それぞれの要因、二変量関連、一次結果における効果の差に影響を与えていないかを検定する。
テスト方法は、上記記載のとおりである。
さらに、ロジスティック回帰モデルを用いて、個々の要因(たとえば、年齢、性別など)が、部屋の割り当てと新しく発生した感染症もしくはコロニー化についての二項対立アウトカムの関係性の変化に影響を与えているのかを結論づける。
混乱や効果の歪みを修正するための最初の多変量モデルには.20未満の二変量関連分岐点Pを持つ変数が含まれる。最終モデルには、非依存変数ならびに.05未満のPで有意な相互作用のみが残る。

元々存在した院内感染と効果が認められたサブ・サンプルの一致に関しては、k統計量と95%が呼応する信頼区間が推論される。これにはSAS-version 9.2 (SASインスティテュート発行)を利用した。

分析の結果、実験グループと比較用の標準グループとのあいだの院内感染率ならびにMRSAもしくはVREのコロニー化率の50%の差を調べる際に(α=.05を持つ両側検定としては)、最低90%の検出力を得るためには、患者数の合計は620名(1グループあたり310名)必要であることがわかった。実験中の欠落率を、標準グループは20%、実験グループは10%になるだろうと想定した。

実験結果

実験に参加した患者は614名、平均年齢は60.4 歳 (標準偏差14.9歳)、APACHE-IIスコアは23 (IQR、18–28)、ICUに入る際に、そのうち47.6%が感染症に感染していた。属性および臨床的特性の違いは、銅製品ありの部屋、なしの部屋を別にして表-1に示したとおりである。

患者の介護などのために家具の移動が必要となったため、ICU滞在中すべての期間を通じて6製品すべての銅製品が部屋にあった患者は、銅製品ありの部屋の患者のうち46.6%であった。
一方、銅製品なしの部屋に割り当てられた患者の86.6%が、銅製品に接触する機会は一度もなかった。

院内感染症感染率およびMRSAもしくはVREのコロニー化率

46名の患者(7.5%)が院内感染症に感染し(36名は感染のみ、10名は感染もしくはコロニー化)、26名(4.2%)がMRSAもしくはVREの保菌者(16名は保菌のみ)となった。部屋の銅製品のありなしを比較すると、院内感染ならびにMRSAもしくはVREの保菌者となった患者は銅製品ありの部屋では、銅製品なしの部屋の患者より、有意差を持って低くなった(0.071対 0.128; P=.020;表-2)。

また、院内感染症罹患率だけを見ると、銅製品ありの部屋の患者はその割合が低くなり(0.034対0.081;P=.013)、MRSAもしくはVREの保菌者も銅製品ありの部屋の患者のほうが2.7倍減少したが、これは統計的に有意差を認められる数字にはならなかった(P=.063)。院内感染症に感染した患者46名から、42種の病原体が見つかった(表-3)が、院内感染症の種類やそれを引き起こす病原体の種類に関しては、銅製品あり・なしにかかわらず、その分布に違いは見られなかった。


入院日数(LOS)に関しては、グループによる違いは認められず(中間値、ともに4日、P=0.74)、また死亡率にも差はなかった(銅製品ありの部屋では14.3%、標準グループでは15.0%; P=.20)この期間中の院内感染症感染率にも有意差のある違いはなく(ともにP=.53)、また衛生基準の順守率は61%から95%と幅があったが、それによる院内感染症との関連性も見られなかった。

この結果を二変量分析により、属性もしくは臨床特性によるものなのか、それとも部屋の状況の違いによるものなのか、非依存的に院内感染率やコロニー化率のリスクが高くなったかを調べたところ、APACHEIIスコアが、院内感染症の感染ならびにMRSAもしくはVREのコロニー化状況と関連して有意差を持って増大(P=.011)させることがわかった。

患者がICUに入る際には、その感染症感染率、もしくはコロニー化率は、有意差を持って異なっていた (P=.047)。つまり、銅製品なしの部屋の患者はICUに入る時点で、院内感染症感染率もしくはコロニー化率は16.6%であったのに対し、銅製品ありの部屋の患者では5.7%であった。ところが、APACHE IIスコアの偏りをなくすための多変量分析においては、ICUに入る時点での感染率は、部屋の割り振りによって非依存的に関連づけられるものではなく、また院内感染症の感染率もしくはコロニー化率に影響を与えるものでもない。最終モデルでは、院内感染症の感染率もしくはコロニー化率は、APACHE IIスコア (P =.011)部屋の割り振り (P=.027)ともに有意差を持って関連性を有している。これを検証するために行なった分析では、0.52(信頼区間95%、0.37~0.70)のk統計量であることが明らかになった。この検証結果が合致しないほとんどの理由が肺炎によるものである。肺炎のケースを分けて考えることのむずかしさは、以前に文書にしたとおりである。

614名の患者のうち半数が、ICUでの治療期間中、環境サンプリングの実験を受けた。この部分母集団のなかで37件の院内感染が起こった。汚染微生物数は銅製品のあるなしにかかわらず、四分位に階層化された。汚染微生物数と院内感染リスクのあいだには、有意差のある関連が存在した(図-2)。累積的汚染微生物数は、銅製品のある部屋のほうが、有意差を持って低かった。実験期間中、4,450,545個のバクテリアが採取されたが、その中で銅製品から採取されたのは、予想された50%より低い17%であった(0.76乗低い、P<.0001)25。ちなみに足載せ台に関しては、銅製品ありの部屋もなしの部屋も、大きな差は出なかった(100cm2あたり2,786CFU対2,388CFU)。

図-2 被験者がICUに滞在する期間の院内感染の分布は、その中の汚染微生物数の数値により四分位に階層化された。汚染微生物数と院内感染には有意な関連性があり(P=.038)、院内感染の89%は汚染微生物数が100cm2あたり500CFU以上の部屋で発生した。





今後の議論

我々の研究は、ICU内にある人の手が触れやすい6品目の日常的製品の表面を銅合金で覆うことで、院内感染のリスクを半分以下に低減できることを証明した。これは実験したすべての施設で確認できた。我々は、この院内感染の低減は環境病原体が銅の継続的殺菌効果により減少したことによるものであると、信じるに至った。これまでにも、病室において銅の表面は通常の表面に比べて汚染微生物数を83%減らすことを報告したが25、銅製品がある、なしにかかわらず、汚染微生物数の多い病室は、汚染微生物数の少ない病室と比較して、院内感染のリスクをはるかに大きくすることが考えられる。このことは、活動性感染のある人が環境サンプリングにより採取されたバクテリアをより多く排出するだろうという可能性を示唆するのかもしれないが、その差をじゅうぶんに説明しきれてはいない。感染者、もしくは保菌者の環境はバクテリアの配列を示すからである25。さらに、院内感染が起こる前のICU滞在の中間値は、どちらの部屋の患者も差異はなかった。

我々は、我々のアプローチが斬新なものであり、今後の可能性にも期待が持てると信じている。院内感染を低減するためのこれまでの方法では、医療従事者の関与、たとえば予防バンドル、手洗いの徹底、患者のスクリーニングが必要とされ、さらに汚染微生物数を減らすためのシステム設計、たとえば過酸化水素水の噴霧、紫外線灯、清掃の質と量を高くすることなどは、病原体の増殖を一度抑えても、再増殖するので、効果には限度がある26。

一方、銅合金の表面は、受動的な方法で汚染微生物数を低減する。スタッフは余分な作業を強いられることも、複雑な手順を要求されることもないし、他のスタッフからの合意を得る必要もない。その上、銅の殺菌効果は持続的なものなので、微生物の急激な再増殖も低減できる。さらに重要なのは、この実験で銅の表面を使った方法であれば、汚染微生物数や院内感染を低減するための標準的な予防・防止策と組み合わせて一緒に使えるということである。

実験としての限界もあった。看護とは動的な性質を持つものであるため、銅製品を設置した部屋に、6品目すべてが常に存在したわけではなかったからである。銅製品を設置したはずの病室での銅製品の毎日の存在状況を調べたところ、53.4%の部屋で少なくとも1品目の製品が患者の滞在中に部屋からとりのぞかれていた。いちばん多かった原因は、治療の必要性からベッドを実験用のものからそうでないものに取り換えたことだった。同様に、銅製品を設置していないはずの部屋の患者も、その13.4%が何らかの形で銅製品に接触する機会を持ってしまった。いちばん多かった原因は、見舞客により銅製品の肘置きが付いた椅子が持ち込まれたことによる。しかしながら、こういったことがらは、銅の院内感染やコロニー化に対する銅の効果を過小評価させる方向に作用しただけであろうと思われる。

汚染微生物数が低減し院内感染率が下がった原因が、銅製品を置いたことだけによるものだ、と断言することはできず、それ以外の要因も考えられるのは事実である。最大の議論としては、部屋が他とは違って見えるため、医療従事者の行動に違いが生まれたという点である。今回の研究は、他に例を見ない種類のコンセプトを実証するためのものであったため、二重盲検法で実験することができなかった。銅合金は、はっきりそれとわかる外観があり、さらに特徴的な臭いもあるため、効果的な目隠しは無理である。ただ、今回見られた感染率の低減は、医療従事者の行動がこれまでとは変わったからだ、という意見に対しては、銅製品は、実験開始に先立つ9か月間にわたって部屋に置かれており、ICUのスタッフは研究が臨床実験の段階にいつ入ったのかを知らされていなかったと反論しておく。また、先にも述べたとおり、銅製品を設置した部屋のすべてで、汚染微生物数は有意差を持って少なかった(P<.001)ことも事実25であり、加えて、スタッフ等の関係者には知らせずに設置した一般的な表面の製品から採取されたサンプルについては、銅製品のある部屋、ない部屋で汚染微生物数に差はなかった。最後に、院内感染率は、実験期間を通して、銅製品を設置した部屋、ならびにしていない部屋でも変動がなかった。つまり、感染率が実験の最初のほうが低かったわけではないという事実は、銅製品を設置した部屋で見られた感染率の低減が医療従事者の行動が原因ではないということを示すものである。

この実験設計は、他の研究者によって申し立てられているような銅使用の限界、たとえば、しみがついたり、変色したりといったことについて、その可能性のすべてに答を出すものでもない25、。しかしながら、米国環境保全局は、認可する殺菌銅素材は清掃なしに、生存する病原体が連続して8回、1×10-6CFUになる不活化効果を99.9%発揮しなければならないと定めており16、また、すべての病院では、患者を取り巻く環境で頻繁に触れられる場所は、最低一日一回の清掃を義務づけてもいる。過去2年間の変色に関する環境モニタリングでは、変色は最小限に留まってきたのと同時に、銅の殺菌効果は、時間の経過とともに、有効性が低くなるということはなかった。結果的には、銅の表面に変色が起こりはするものの、銅の表面に触れる汚染微生物数(平均100cm2あたり465CFU)を考えると、銅の殺菌効果に影響を与えるものではないと考えられる。

ここまで、銅合金製品を設置したICUでの院内感染症の感染率およびMRSAもしくはVREのコロニー化率の減少を論じてきたが、これは、汚染微生物数の低減を目的とする手段が、ICUの患者に対して臨床的な効果をもたらすことができる機会の提案としては、初めてのものである。今回は試験的な実験であったため、問題の解決というよりは、さらなる問いかけを投げかける結果になったかもしれない。院内感染の発生は複雑であり、複数の宿主(潜在的な病気、免疫抑制)によって、さらには外的要因(留置カテーテルなどの機器、抗生物質の投与)などに影響される。環境汚染は、医療従事者の手や衣服、器具などを汚染し、汚染された手や衣服や機器は、通常の医療行為の際に、機器(中心静脈カテーテル、気管内チューブ、尿道カテーテル)へと病原体を運び、やがて院内感染を引き起こすことになる。我々の発見は、環境汚染の低減が、おそらくは患者に微生物を運ぶ可能性が少なくなることによって、院内感染の発生を減らすことを示している。ただ、今回の研究はどの院内感染症が、汚染微生物数の減少にもっとも影響を受けるのかという点については調べられていないので、この重要な問題についての答を出すために、引き続き研究が必要となるであろう。また、汚染微生物数を減らすことが院内感染コントロールにとって最大の必要用件であるのかを確かめ、銅合金の表面の有効性を断定できるようにすべきである。他の医療施設でも同様の結果が得て、効果を断定できれば、院内感染予防にとって、大きなインパクトを与えるものとなろう。

謝辞

サウスカロライナ大学医学部のLisa Steed博士とSally Fairey、ラルフ・H・ジョンソン退役軍人メディカルセンターのHadi Baag博士、スローン・ケタリング癌センターのSusan Singh医学修士とUrania Rappo博士、サウスカロライナ州ノース・チャールストンにある先端技術研究所のChuck Stark、Dennis Simon、Alan Tolley、ならびにKathy Zolman、銅開発協会のAdam Estelle、Wilton Moran、Jim Michel、これらの方々の助力と技術的サポートに感謝する。

財政的支援: 本研究は米国国防総省、US Army Materiel Command(米国陸軍武器研究開発維持管理調達部門)の資金提供によって行われた。問い合わせ先:米国国防総省 (問い合わせ番号 W81XWH-07-C-0053)。資金提供者は、本論文の準備、提出、原稿の推敲には参加していない。

利害関係が影響する可能性:Salgado、Sepkowitz、John、Cantey、Attaway、Freeman、Michels、Schmidtはこの研究に従事するための給与報酬を国防総省Army Materiel Commandから受け取ったことを報告する。Sharpは国防総省Army Materiel Commandの取引先業者から購入したことを報告する。Sepkowitz、Attaway、Schmidt他の準医療施設に研究目的で銅の表面を設置するため、銅開発協会からの財政的補助を受けたことを報告する。Salgadoは医療研究品質庁から院内感染研究のための財政的補助を受け、またOutcomes社に医学教育を継続するための教育コンサルタントとして仕事をしていることを報告する。FreemanはOrtho-McNeil-Janssenのコンサルタントとして仕事をしていることを報告する。Sharpは殺菌銅を機器や家具に応用するための技術移転に関するノウハウを銅開発協会とOlin Brass社に提供したことを報告する。Michelsは銅開発協会に雇用されていることを報告する。SharpはOlin Brass社とColdelco社のコンサルタントとして仕事をし、チリ国政府保健省から、殺菌銅の設置による院内感染率の低減に関して調査するための外部コンサルタントとして仕事をしていることを報告する。また、Sharpは国際銅協会から、旅費の援助を受けていることも報告する。

著者全員が利害関係の可能性に関する報告書を提出し、編集者はこの論文に関係があると判断したものをここで公開した。

医学博士Cassandra D. Salgadoの連絡先: MD, 135 Rutledge Avenue, Division of Infectious Diseases, Charleston, SC 29425 (salgado@musc.edu).

本論文の一部は、マサチューセッツ州ボストンで2011年10月20日から23日まで開かれた、アメリカ感染症科学会議第49回年次会議にて、発表された。
ここに示された所感、意見、ならびに発見は、著者のものであり、米国国防総省の公式見解として解釈されるべきではない。