混合診療は製薬会社の暴利とえせ医療のため

2013.03.18


    医療崩壊の根本原因は医療費抑制政策

     保険医協会講演会で李啓充氏が警鐘

    日本も見習う?弱者切り捨ての米病院会社

   

              高橋 清隆

         JANJAN 2008/11/20・21



 日本とアメリカで医師経験を持つ評論家の李啓充氏が講演して、社会保障制度〝改革〟や格差拡大が国民の健康を損なう可能性がある、と警鐘を鳴らした。

李氏は米国型の医療制度導入を図ろうとする動きに対しても、米・大リーグを例に挙げて充実した医療の実現に有害と述べ、出席した医師や一般参加者と質疑応答を交わした。

日米は同じ「小さな政府」だが、医療費を比べると米国は税金で1人当たり日本の3.5倍も負担している。

日本政府が言う「公的負担は限界に達した」は誤りだ。
医療保険を民間に依存する米国では貧乏人は加入できないのに加え、1人当たり医療費が日本の3倍近い。現在の日本が世界に誇る公的医療保険制度を崩壊させてはならない。

 東京保険医協会は15日、「医療費抑制政策と医療崩壊―『小さな政府=社会保障費抑制』路線からの転換」と題する政策講演会を都内で開いた。日米の医療に携わった、医師で評論家の 李啓充(り・けいじゅう)氏が講演し、民間保険と株式会社病院が幅を利かす米国の実態を紹介、「官から民へ」を合い言葉に進むわが国の医療保険制度改革に警鐘を鳴らした。
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「日本の国民1人当たりの保健医療支出は世界で13位であり、一方、その質は世界1とWHO(世界保健機関)も高く評価している。

ところが、医療市場の開放を狙った米国の圧力により、国を身売りする方向で進んでいる。
国の根幹は、国民の健康と生命を守ること。
せめてOECD諸国の中で上位半分に入る医療費を使って中身を改善してほしい。医者も国民も『生きててよかった』『医療に携わっててよかった』と思えるように」。
 
 李講師の講演概要は次の通り。(抜粋)

    日米国民負担比較

(50歳、自営業、4人家族、2008年度納付額)
 課税収入700万円(1ドル=106円)として比較
        日本    米国(カッコ内は2005年の比較データ)
所得税    97万円  99万円
住民税(州税)70万円  37万円
国民年金   17万円 115万円
医療保険   62万円 242万円(152万円)
 総計   248万円 493万円(417万円)

→国民負担「率」を上げると、実際の国民負担は上がる。

    

弱者を追い詰める民間保険天国の米国

 米国で民間医療保険の加入者は、総人口3億人のうちの約2億人にとどまる。市場原理なのでお年寄りやお金のない人は落ちこぼれる。
彼らを救済しようとする公的医療保険として、メディケア(高齢者・障害者)とメディケイド(低所得者)がある。各約4,000万人で、ほかに無保険者4,500万人がいる。

 日米医療費比較
               米国     日本
GDPに占める医療費の割合15.8%   8.0%
一人当たり医療費     $5,952  $2,249
民間負担         $3,282  $1,482*
税負担          $2,670@  $767*

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 日米は同じ「小さな政府」だが、医療費を比較すると上のようになる。米国は1人当たりにかかる税負担が日本の3.5倍。それなのに、わが国では「公的負担は限界に達した」と言われる。国家予算からの支出は米国が25%なのに対し、日本は10%にすぎない。

 米国で民間医療保険が高いのは(1)運営の効率が悪いことと(2)「サクランボ摘み」、つまり、いいとこ取りの弊害からである。

 (1)について、米国にメディカル・ロス(医療損失)という概念がある。徴収した保険料のうち、医療に使う支出の割合を示したもので、「民」の81に対して「公」は98となっている。営利の保険会社は85を超えると、ウォールストリートで「あの会社は経営が下手だ」と株価が下がる。今、日本では「公」を減らして「民」を増やすと言っている。

 (2)について、米国の保険会社は儲けを多くするため、病人を保険に入れない。自営業者の保険料が高く設定してあるのもそのためである。反対に大企業で働く人の保険料は安い。健康な人が多く、大口の顧客を獲得できるからである。そのため、公的保険に有病者が集中して加入者の負担が増すという悪循環に陥っている。

 テネシー州では入院日数を年間20日までとしたり、受診回数を10日までと制限を設けることが常態化している。ユタ州ではさらに、救急外来や専門医受診、入院医療を保険から外す動きが起きている。サービスカットされたこの新しいメディケイドは医療保険などと言えず、事実上の無保険者化である。そのことが民間保険への需要を高め、毎年2、3割も値上げすることにつながっている。社会に公の保険が1つだけなら、こうした悲劇は起こらない。

 
       

混合診療は製薬会社の暴利とえせ医療のため

 日本では保険診療と自由診療の混合を認めていない。ある46歳の男性がくも膜下出血を起こし、緊急手術した。術後血管攣縮(れんしゅく)による死亡や後遺症の発生が心配されるが、ニモジピンという薬を使えば、発症率を3割から2割に抑えられる。この薬は日本では保険外で、混合診療の禁止により、使用する場合は全額自己負担となる。だから混合診療は一見患者に好都合に思われるかもしれない。不幸にも、薬が届く前に脳血管攣縮が始まった。実はこの患者はわたしの弟である。しかし、混合診療がけしからんという意見は変わらない。

 第1に、財力による差別を容認する。ニモジピン1カプセルに10万円の値が付けられれば、3週間の投与で2,560万円の負担。この額を払える人だけが恩恵を得られる。

 第2に、えせ医療が横行する危険がある。医療保険に含まれるのは、有効性・安全性が認められたもののみ。確認なしの医療が自由診療の市場で大手を振ると、いかがわしい医療が横行しかねない。

 第3に、医療保険本体がアビュース(乱用)される危険。美容形成手術が本来の目的で入院した患者が、肝障害などという保険病名を付けて入院費用を保険に払わせ、手術料だけ払うような悪用が生じかねない。

 第4に、保険医療が空洞化する危険性がある。製薬会社が新薬を出す場合、手間暇コストをかけて治験をしなくなる。需要の高い薬は高い値段を付け、自由診療で売ってしまえとなれば、時代遅れの効き目の悪い安い薬だけが保険診療といった事態になりかねない。

 中国は混合診療の先進地で、1980年代初めに医療に市場原理を導入した。患者は前金を要求され、払えなくなった時点で退院を強いられる。退院患者の4割は中途で去る。米国では1,000万円払わないと白血病の治療を受けられない。それにもかかわらず、規制改革・民間開放推進会議議長だった宮内義彦氏は、次のような発言をしている。

 「国民がもっとさまざまな医療を受けたければ、『健康保険はここまでですよ』、後は『自分でお払いください』というかたちです。金持ち優遇だと批判されますが、金持ちでなくとも、高度医療を受けたければ、家を売ってでも受けるという選択をする人もいるでしょう。」(『週刊東洋経済』2002年1月26日号)

 混合診療導入の主張には、問題のすり替えがある。ニモジピンのようないい薬が使えないのは、混合診療を認めていないことが問題なのではなく、保険診療に含まれていないことが問題なのである。
この薬は米国で89年に認可されたが、なぜ日本で認められないのか。販売権を持つ製薬会社に聞くと、認知症の人を対象に臨床した結果、はねられたという。年間1万5,000人しかいない、くも膜下出血の患者ではなく、何十万人という認知症の人に毎日飲んでもらうことを狙って認可申請した。製薬会社の欲深さのため、日本のくも膜下出血の患者が犠牲になっている。

     

ぼったくりバーと変わらない株式会社病院

 米国では、株式会社が巨大病院チェーンを経営する。医療を市場に委ねれば、日本で何が起こるかが分かる。米国第2の病院チェーン、テネット社の2002年の売り上げは1兆7,000億円に及ぶ。営利病院は、競争相手の病院を買収して閉鎖するなど、強引な手で市場の寡占化を図る。コストを抑えるための合理化を徹底し、ベテラン看護師の解雇や不採算部門の切り捨てを行う。患者への請求を高くし、診療報酬の不正請求を組織的に行う。大病院チェーンに例外はない。
 非営利病院との価格差は歴然としている。巨大営利病院は言い値で商売ができる。下の表はサンフランシスコ・ジェネラル・ホスピタルという非営利の病院と、テネット社が保有するモデスト・ドクターズ・メディカルという病院との医療行為の価格比較。営利病院がぼったくりバーと変わらないことが分かる。