所得の少ない人の医療費が無料、減額になる「無料低額診療制度」の役割が見直されている

2013.03.16

 

(選ぶ 2013知事選)貧困層の医療、どう守る 「無料低額診療制度」活用/千葉県
2013.03.15 東京地方版/千葉 29頁 ちば首都圏 写図有 (全1,462字) 


 低年金や安定した職を得られない人が増えている中、所得の少ない人の医療費が無料、減額になる「無料低額診療制度」の役割が見直されている。ただ、「保険料の不払いを助長する」など周知に消極的な自治体も目立つ。


 「重篤な状態になっても治療を拒む人が本当に目立つようになった」。館山市の拠点病院、安房地域医療センターで患者の相談業務を受け持つソーシャルワーカーの香田道丸さん(51)はため息をつく。

 がんの進行による重度な貧血や重篤な糖尿病などで救急搬送されながら、意識を戻すと医師を押し切って退院してしまうケースもある。「受診拒否」の背景にあるのは貧困問題だ。

 高齢化や景気低迷による失業増などで、国民健康保険加入世帯の平均所得は145万1千円と10年前から50万円以上減った。同市では同保険加入世帯が全世帯の45・3%を占める。

 香田さんは南房総市で住職も兼務する。「檀家(だんか)の多くが高齢者世帯。国民年金だけの苦しい生活の中、もし大病したら医療費で暮らしが成り立たなくなるという不安はよく分かる」

 そんな状況を改善しようと同センターが昨年11月から始めたのが「無料低額診療事業」だ。

 減免方法は医療機関によって異なり、同センターの場合、月収が生活保護基準の150%以下を目安にする。「入院・外来を問わず、高齢者なら原則、保険診療内の費用は無料になる」(香田さん)という。すでに19件の申請が認められた。


 ●渋る自治体・病院も 保険料不払い・医療費増を懸念

 政府は生活保護の給付水準の引き下げを目指し、新年度から生活費にあたる生活扶助を削減する。さらに医療費にあたる医療扶助も対象となる可能性もある。それだけに無料低額診療の役割は大きいが、行政の対応は前向きとは言えない。

 市川市の岡永歯科は昨年4月からこの事業を始めたが、利用者はまだ2人。問い合わせも10人に満たない。

 院長の岡永覚さん(53)は開始直後、事業を知らせるチラシを携え、役所を訪れた。だが、関係部署の多くは「特定の医療機関を紹介できない」とにべもなかった。生活保護を担当する福祉事務所ですら熱心に取り合ってくれなかった。

 ある市の担当者は「制度が広がりすぎると、国民健康保険料を払わないでもこの制度で救ってもらえる、という誤った考えにつながる」と打ち明ける。

 医療機関にも制度への偏見は根強い。同センターが導入の方針を発表した際、地元医師会から「患者を集めようとしている」「医療費の増加につながる」など反発が出たという。

 地域バランスの問題もある。県内の医療機関で無料低額診療を実施するのは計20施設。うち16が京葉・東葛に偏在し、県南部には同センターがあるだけだ。

 岡永さんは「このままでは制度が生かされない」と考え、実施機関同士の連携を探り始めている。昨年から市川市周辺の診療所や病院を訪ね、専門外の病気で治療を必要とする利用者がいれば、紹介しあうよう呼びかけている。

 「本来なら自治体が制度のパンフレットを作るなど活用を図るべきだ。無料低額診療で生活の質が良くなれば、生活保護に至る前に社会復帰できる」と岡永さんは訴える。

 (重政紀元、永井啓子)


 ◆キーワード

 <無料低額診療制度> 社会福祉法と法人税法に基づく福祉制度で1951年に導入された。希望者の申請を受けた医療機関が収入などを審査した上で、世帯医療費の減免額を決める。

 減免した医療費はすべて医療機関の持ち出しになるが、一定の患者を診れば税金が減免される