海外の地域包括ケアと非営利事業体から学ぶ1 米国 多様な施設群が垂直統合 中核は民間非営利病院

2013.02.15

 

海外の地域包括ケアと非営利事業体から学ぶ1 米国 多様な施設群が垂直統合 中核は民間非営利病院
2013.02.15 環境新聞社 


 厚生労働省が医療介護福祉サービス提供体制改革の柱として掲げている地域包括ケア構築は、他の先進諸国でも重要政策テーマになっている。
そこで本稿では、米国、オーストラリア、カナダの地域包括ケア体制とそこで中心的役割を担う非営利事業体の概要を紹介し、日本が取り組むべき課題を提示したい。

 米国の人口は2012年に3億1500万人。
その医療介護費は、2兆7千億ドル(243兆円:2011年速報値、1ドル90円換算)でありGDP国内総生産の17・9%を占める。
1人あたり医療介護費8660ドル(約78万円)は、日本(2012年推計値約39万円)の2倍である。
しかし、米国の病院数は5724(2011年末)であり日本の8562(2012年10月)より少ない。
これは、米国では医療介護関連施設の機能分化が徹底的に進められており、病院以外の施設の役割が大きいことを意味している。

 その米国で地域包括ケアを実践しているのが、IHN(インティグレイテッド・ヘルスケア・ネットワーク)と略称される非営利事業体である。
最大の特徴は、急性期から在宅まで地域住民が必要とするケアサービスの全てを継ぎ目なく効率的に提供するため、多様な施設群が垂直統合している点にある。

 その中核施設になっているのが民間非営利病院と公立病院であり、米国には現在約570のIHNがある。
非営利IHNの医療介護市場のシェアは約70%と推計される。
米国にIHNが1990年代に登場し始めた背景には、医療技術進歩により患者が早く退院し病院外にシフト、在宅や外来、介護など病院外の事業拡大に取り組まなければ地域住民のニーズに応えられなくなった、という事情がある。 

 IHNの多くは民間非営利病院を核にしたものである。この純民間非営利IHNの場合、ガバナンスの担い手は国・自治体ではなく地域住民である

国・自治体から補助金を受けない代わりに、役員人事など経営介入も受けない。
仮にIHNを売却した場合、その代金をもとに財団を設立し別途地域住民のために使うことを検討する。

 純民間非営利IHNの最大の使命は、地域住民に対して世界標準の医療介護サービスを提供することにある。
世界標準の医療介護サービス提供とは、加速する技術進歩の中で常にベストの医療介護サービス提供をし続けることである。
これを慈善医療や福祉団体への支援の形で貧困者に対しても行う見返りとして、法人税や固定資産税の非課税優遇措置を受けている。

 この純民間非営利IHNの具体例の一つが、バージニア州ノーフォークに本部を置くセンタラヘルスケア(以下センタラ)だ。
センタラは、直径約230kmの地域に病院9と100以上の事業拠点を配置している。
加えて、従来の医療圏外にあった3つの純民間非営利IHNから経営委任を受けて事業規模が一段と拡大し始めている。
その設備投資の基本原則は重複投資ゼロである。センタラでは高機能だがコンパクトなサテライト施設群を多数最適配置することで成長力を高めている。

 センタラの2011年の事業収入(患者サービス収入と医療保険料収入等の合計)は39億3千万ドル(3500億円)であり、慈善医療費用控除前事業利益は4億5600万ドル。
そして利益の46%にあたる2億1100万ドルを慈善医療に拠出している。
バージニア州の企業に適用される税率は約35%であるから、非課税優遇で免税になった額以上を地域還元している。

 センタラは、約500名の医師を直接雇用する一方、約3千名の地元独立開業医に契約に基づき施設利用をオープンにしている。
そして200万人を超える地域住民から見た医療介護サービスの質とアクセス向上のため巨額のIT投資を行い、患者とその担当医療チームが何時でも何処でも医療情報を共有できる仕組みを構築した。
これが可能なのも、多種多様な機能を有する施設群が垂直統合し経済的利害を一致させた上で経営資源配分を決めていること、事業規模が大きく最新設備を自力で導入できる体力があるためである。
世界標準の地域包括ケアを構築し持続させるためには、一定規模以上の垂直統合した事業体の存在が必要なのである。

 日本が学ぶべき制度上の工夫として、純民間非営利IHNの組織構造の中心にある「親会社機能を有する非営利会社」に触れておきたい。
非営利認定で最も重視される要件は、米国においても「利益の全額が社会還元され特定個人には配分されない」ことである。
非営利事業体が株式会社の上にある仕組みであれば、非営利要件を堅持しつつ新規事業を起こすためのリスクマネーを企業から調達できる。
その企業には出資額に応じた配当を支払う一方、非営利事業体が受け取る配当金は社会還元のための追加財源となり特定個人に回らないからである。
米国にはこの仕組みで医療産業集積を築いた純民間非営利IHNが複数ある。(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・松山幸弘)