[救える・命を守れ](下)拠点病院 不安な防災力(連載)

2013.01.19

 

『災害拠点病院全国650 三分の一は耐震化未着工』

[救える・命を守れ](下)拠点病院 不安な防災力(連載)
2013.01.16読売新聞 


 ◎阪神大震災18年

 突き上げる揺れを感じた瞬間、頭をよぎったのは、阪神大震災で崩壊した神戸の病院の映像だった。

 「うちの病院もグシャッとつぶれてしまう」。2011年3月11日、岩手県立釜石病院。震度6弱の激震に看護師長補佐の坪井忠和さん(49)は恐怖を感じた。

 6階建ての古い病棟は築約33年。震災前の耐震診断では「6強以上で倒壊の危険あり」とされていた。

 内陸部のため津波の被害はなかったが、壁が崩れ、天井がはがれた。

 釜石病院は、被災地で人命救助の前線基地となる災害拠点病院だ。
しかし、余震で倒壊する恐れがあるため、入院患者の搬出を決断。208人を10日かけて各地の病院に運び出した。

 坪井さんは、災害に備えて緊急医療の専門訓練を受けてきた。「拠点病院を見捨てる日が来るとは」。無念さをかみしめた。

 基幹病院の多くが機能を失った阪神大震災の教訓から生まれた災害拠点病院は今、全国に約650ある。

 だが、体制は万全とは言えない。国が昨年公表した調査結果では、全国の拠点病院のうち、全建物が耐震化されているのは66%。3分の1が釜石病院のようになりかねない。

 耐震化率14%とワーストだった岡山県。「危機感は持っているが、古い病院の数が多い県なので……」(医療推進課)。多くの自治体にとって、公立病院の整備費確保は難題だ。

 規模の小さな病院に頼らざるを得ないという悩みに直面する地域もある。

 徳島県最南端で太平洋に面した海陽町。県の想定では、南海トラフ巨大地震で18メートルもの津波が来る。

 災害時の拠点病院は海岸から約2キロ、小高い丘の上にある町立海南病院だ。浸水は免れそうだと想定されているが、病床は45。
常勤医は4人で、休日には当直の1人だけになる。

 「与えられた環境で最善を尽くすが、いざとなれば入院患者を守るので精いっぱいでは」と小原卓爾院長(58)は不安を漏らす。

 高まる危機感。拠点病院のてこ入れは急務だ。

 国は震災後の補正予算で衛星携帯電話や自家発電機の整備費を確保。耐震化は09年度に創設した補助金の活用を強く促す方針だ。

 「新病院の基本理念は防災力の強化」。老朽化した宮城県大崎市民病院の移転計画を担当する笠原良治課長補佐(57)は語る。

 設計途中で震災に遭ったため計画を見直した。基礎や免震装置を増強。オール電化を取りやめ、地下水を浄化して給食や人工透析に使える装置も付け加えた。

 震災の教訓を生かして、命を救う要所を守る取り組みが始まった。(神戸総局 畑中俊)


 〈災害拠点病院〉

 1996年にできた制度で、挫滅症候群などの重傷者を救う診療設備があり、緊急対応が24時間可能といった要件を満たす施設を各都道府県が指定する。