注目集める医療観光(メディカル・ツーリズム)

2013.01.09

 

注目集める医療観光(メディカル・ツーリズム)
2013.01.04 公明新聞 


 医療のグローバル化が進む中、観光と医療を組み合わせたメディカル・ツーリズム(医療観光)が注目を集めている。
自国の高い医療技術による健康診断や治療を武器に、国外の患者を呼び込む取り組みだ。
アジアを中心に諸外国で市場規模が拡大する中、日本でも導入する医療機関が増え始めている。
主に中国人を対象に利用者の呼び込みを進めるグランソール奈良(奈良県宇陀市)の取り組みを紹介するとともに、メディカル・ツーリズムの現状と課題を探った。

 『「信用できる検診で安心」/高度な技術の提供で 中国人の誘致に成功/グランソール奈良』

 「ここに来れば、最高水準で信用できる検診を受けられるので安心だ」。
グランソール奈良を訪れた中国人利用者は、一様に口をそろえる。

 同施設は、地域医療の要役であるとともに、検診専門施設としてCT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)など、ミリ単位で細胞の異常を発見できる高度な医療機器を完備している。

 メディカル・ツーリズム事業の対象は「中国人の富裕層」と位置付けており、宿泊施設は高級リゾートホテル並みで、同行した家族も宿泊可能だ。さらに、中国人の通訳スタッフも雇っている。

 同施設の辻村勇海外事業部取締役部長は、「利用者数は月最大20人程度だが、より充実した検査サービスを提供するため、利用者数を抑えるよう心掛けている」と話す。

 利用者のスケジュールは4泊5日から5泊6日が主流で、検査費用は平均25万円程度(観光費を除く)。
来日した日の夕方には、担当医による問診や簡単な検査を受け、翌朝8時30分から約2時間の精密検査を受診する。
その後は「昼ごろから観光名所巡りに出掛ける流れだ」(同施設スタッフ)という。

 観光先は、京都や奈良にある歴史的建造物などで、「鑑真を祭る唐招提寺や京都・嵐山にある周恩来元首相の詩碑など、中国ゆかりの名所が人気だ」(同)という。

 中国人の誘致に成功している要因について、辻村部長は「そもそも中国特有の医療事情が背景にある」と指摘する。
実際、同施設の利用者からは「健康診断を受けたいが、自国の医療機関では1、2年は検査待ちの状態だ」「病院や担当医によって医療サービスの当たり外れが大きい。安心できる医療を受けたい」などの声が多く寄せられているという。

 また、利用者が帰国後、日本での受診体験を知人に話す“口コミ”効果も大きい。
辻村部長は「行政の市長クラスが視察に訪れたこともあり、日本の医療技術への関心の高さを肌身で感じている」と語る。

 『旅行大手や病院の参加相次ぐ/地域医療への影響に懸念』

 日本政策投資銀行の調査によると、日本国内のメディカル・ツーリズムの潜在的な市場規模は、2020年時点で約5500億円(観光を含む)と推計し、海外からの来日者数は年間約43万人と見込んでいる。

 このため、メディカル・ツーリズムの導入や事業提携を進める日本企業や病院の動きが活発化している。

 例えば、千葉県鴨川市の亀田総合病院は、日本で初めて米国の国際的医療評価機関「JCI」の認証を受けて取り組みを進めているなど、各地で外国人利用者を受け入れる態勢整備を進める医療機関が増えている。
また、自治体では、北海道や福島、富山、徳島の各県などで医療観光モニターツアーを実施し、導入を進めている。

 さらに、旅行会社大手のJTBグループは、メディカル・ツーリズムに力を入れる複数の医療機関と提携し、外国人患者の受け入れに本腰を入れている。13年度には1000人の外国人患者を呼び込む見込みだ。

 一方、課題も残る。ビジネスを優先するあまり、「海外の富裕層を優先し、国内の地域医療に悪影響が生じるのではないか」という指摘もある。
事実、メディカル・ツーリズム先進国のタイでは、外国人受け入れに熱心な民間病院は潤っているが、地方の公立病院では設備の老朽化や医師不足などに悩む現実があるという。
日本でも、地域医療の存続が課題になっている中で、医療ビジネスへの偏りには注意が必要だ。

    *

 公明党は、メディカル・ツーリズムの推進を後押ししてきた。同党の石川博崇参院議員は10年8月、政府に対する質問主意書で「アジアからの観光客誘致には、その環境整備が緊急課題だ」と指摘した上で、(1)中国人に対するビザ発給要件の一層の緩和(2)治療目的で外国を訪れた際に滞在先での観光を可能にする「医療観光」の拡大--などに関する政府見解を求めたのに対し、政府は「『医療など成長分野と連携した観光の促進』等の取り組みを推進する」と答えていた。

 石川氏は「日本が誇る高い技術力で海外の成長力を取り込むと同時に、医療現場が抱える問題改善に全力を挙げる」と話している。